ここにきて、ロシアで「プーチンおろし」が始まった…「20兆円超の資産」没収の可能性
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ロシア軍によるウクライナでの大虐殺が次々と明らかになった。プーチンは、今や国際社会から「戦争犯罪人」と呼ばれている。暴走の果てに“狂気の独裁者”とその愛人が行き着く先は破滅しかない。 【写真】プーチン「次の一手」で、最大ピンチに追い詰められる「国の名前」
諜報機関が離反する
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過去の歴史を紐解けば、絶対的な力を手中にした独裁者であっても、一夜にして身内ともども権力の座から転がり落ちることがありえる。 ロシアのプーチン大統領(69歳)と愛人たちは、今まさにその危機にある。 ウクライナ検察は4月3日、ロシア軍から奪還した首都・キーウの周辺地域で、民間人ら計410人の遺体が発見されたと発表。ゼレンスキー大統領は「集団虐殺だ」と告発し、欧米諸国の首脳も同調した。 今や「戦争犯罪人」となったプーチンの失脚は、刻一刻と近づいている。 ロシア政治が専門の筑波学院大学教授・中村逸郎氏が言う。 「経済制裁により外貨資産が半分凍結され、天然ガスなどの資源も輸出できない。ロシア国債がデフォルトする可能性も高まっています。 経済が破綻し、市民の生活に多大な影響が出れば、反プーチンの集会やデモが始まる。テレビ番組の生放送中に戦争反対のプラカードを掲げたマリーナ・オフシャンニコワさんがヒロインになります。 さらに収監中の反体制派指導者ナワリヌイ氏も弁護士を通じて、メッセージを積極的に発信する。最初は5万人程度の参加者でしょうが、どんどん規模は拡大していくでしょう」 プーチンの政権下で富を独占してきた「オリガルヒ」(新興財閥)も、あっさりと手のひらを返すだろう。ロシアの石油会社「ルクオイル」、金融機関「アルファ・グループ」、アルミ製造企業「ルスアル」はすでに、ウクライナ侵攻の中止を求める声を上げている。 キーウ出身の国際政治学者グレンコ・アンドリー氏が指摘する。 「これまで彼らはプーチンのおかげで稼げたかもしれませんが、自分たちの地位や資産が危ないとなれば、財力や政治力によってプーチンを失脚させる手段を厭わないでしょう。オリガルヒは西側諸国とのつながりも強く、それを実現させるだけの力を持っています」 オリガルヒを後ろ盾にして動き出すのは、「シロビキ」(軍、警察、諜報機関)である。公安調査庁職員としてロシアを担当していた日本戦略研究フォーラム政策提言委員の藤谷昌敏氏が語る。 「イーゴリ・セーチン元副首相、ヴィクトル・イワノフ元連邦麻薬取締庁長官、ラシド・ヌルガリエフ元内務相、そしてニコライ・パトルシェフロシア連邦安全保障会議書記など、彼らシロビキは、プーチン支持というよりもロシアを第一と考える国家主義者です。 今後の動向次第では『プーチン降ろし』に回る可能性は否定できないでしょう」 デモが拡大する中で、軍部、諜報機関の幹部が相次いでプーチンから離反することになる―。 「後継者はシロビキが推すとされるFSB(ロシア連邦保安庁)の長官、アレクサンドル・ボルトニコフあたりではないでしょうか」(藤谷氏) 中村氏も言う。 「ボトルニコフならばプーチンの汚職を白日の下に晒して、国民の人気を集めることができる。後継者となる可能性は高い」 FSBはKGB(ソ連国家保安委員会)の後継組織である。これまでプーチンが自己保身のために利用してきた子飼いの諜報機関が、今度は自分に牙をむくことになる。失脚後はFSBに監視される日々が続くだろう。
2万人の護衛も消える
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莫大な資産も失う。大統領府が公表する所得申告書等で、プーチンの年収は約1400万円と発表されているが、もちろんこれは表向きの数字。実際、プーチンの総資産は20兆円超という報道まであるのだ。 野党『国民自由党』のボリス・ネムチョフ議長('15年に暗殺)らが作成した報告書によると、プーチンは20軒の公館・別荘を持ち、航空機43機、ヘリコプター15機、ヨット4隻を所有している。 また昨年にはナワリヌイ氏が率いる団体が、黒海沿岸に建つ約1400億円相当の私邸をプーチンが事実上所有していると暴露している。拓殖大学特任教授・名越健郎氏が言う。 「後継者次第ですが、プーチンが失脚すれば、不正な手段によって取得した財産は没収されることになると思います。 新しい権力者からすればプーチンは不都合な存在になりますから、居場所が無くなる。これまでは約2万人が所属する連邦警護庁(FSO)の最強部隊がボディガードを務めていましたが、権力を失ったプーチンの警護も当然手薄になる。そうなれば命の危険にも晒されるでしょう」 中村氏は、プーチンの脳裏には、ある独裁者の処刑シーンがこびりついていると指摘する。 「ルーマニアのチャウシェスク元大統領の失脚が強く印象に残っているんじゃないでしょうか。当時はソ連が崩壊直前で、東欧諸国で次々と革命が起こり、最終的に彼は拘束されて処刑されました。これは、裏を返せば西側諸国に負けたということ。現在の状況と重なる部分がありますね」 悲惨な末路を迎えた独裁者の典型と言えるのが、恐怖政治を敷いたチャウシェスクである。 首都・ブカレスト市内に約1500億円をかけて「宮殿」を建設。そこには3000もの部屋があり、延床面積は米国ペンタゴンに次ぐ世界第2位(当時)の規模。 映画館、室内プールを備え、贅の限りが尽くされていた。食料不足に国民が苦しむ一方で、チャウシェスク一族はペットの犬に高級牛肉を与えていたという。 妻・エレナは第一副首相を務め、次男のニクも31歳で共産党中央委員に選出。一族で富と権力を独占し、スイスの銀行には560億円相当の金塊を預けていた。 また、ニクはモントリオール五輪の体操金メダリストである「白い妖精」ナディア・コマネチに愛人関係を強要。コマネチが米国に亡命するきっかけになったと報じられている。 だが、そんな黄金時代も突然幕を閉じる。'89年12月に反政府デモが発生すると、軍部も決起するルーマニア革命が勃発。わずか1週間で政権は倒れ、チャウシェスク夫妻は逮捕された。6万人の集団虐殺と1400億円の不正蓄財により、すぐさま死刑判決が下る。 しかし夫妻は自分たちが残酷な死を迎える理由を最後まで理解できず、実に惨めな最期をむかえた。その詳細は後編記事『プーチンと「その愛人」も同じ運命を辿るのか…かつて独裁者はこうして惨殺された』で明かす。 『週刊現代』2022年4月16日号より