素材の半分以上がウイグル産、米ではすでに輸入禁止
【エネルギー大問題】 東京都が提案している「太陽光パネル義務付け」は、東京に広い家を買えるお金持ちは元が取れるが、一般国民は電気料金の負担が増えるだけだ、と前回書いた。 【写真】会見で、太陽光パネル設置の義務化方針を明らかにした小池都知事 だが、家を買える人がみな元を取れるわけでもない。東京に家を買うという場合、大抵はギリギリの敷地に、建ぺい率や容積率などを考慮してパズルのように家を建てる。屋根の向きも思うに任せない。 太陽光発電のためには南向きに程よい傾斜になった広い屋根が望ましいが、そんな家を建てる余裕がある人はどれだけいるのか。85%の住宅に義務付けるというが、思ったほど発電できなければ、建築主も損をする。結局のところ、庶民は、家を買っても買わなくても損をするのではないか。 そもそも、そこまでして太陽光パネルを導入すべきか。 米非営利団体「共産主義犠牲者記念財団」(VOC)は5月24日、中国共産党によるウイグル人迫害の新たな証拠として「新疆公安文書」を公表した。 ホームページを見ると、新疆公安当局のシステムへのハッキングで流出した機密文書や膨大なデータのほか、3000人近くの収容者の写真がある。文書には収容所から逃亡しようとする者に対する射殺命令、殺人許可なども含まれる。 このジェノサイド(民族大量虐殺)が、政府首脳部の指示によるものであることも明らかになった。英国とドイツの外相は中国を非難し、王毅国務委員兼外相に調査を要請した。 いま、世界における太陽光発電用の多結晶シリコンの80%は中国製だ。そして、その半分以上が新疆ウイグルにおける生産であり、世界に占める新疆ウイグルの生産量シェアは、実に45%に達する。 いま太陽光発電を義務付けることは、ジェノサイドへの加担になりかねない。米国はすでに法律によってウイグル製品をすべて輸入禁止にしている。 さて、この住宅への太陽光パネル義務化の話は、もともと国土交通省で検討していたところ、「無理がある」として見送られたものだ。小池百合子都知事は国がやらないとなると、ますます張り切るということだろうか。 だが、それよりも、国ができなかった新疆ウイグル自治区におけるジェノサイドの非難決議をしたうえで、新疆ウイグル産の製品の輸入禁止を国に訴えてはどうか。 ■杉山大志(すぎやま・たいし) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。1969年、北海道生まれ。東京大学理学部物理学科卒、同大学院物理工学修士。電力中央研究所、国際応用システム解析研究所などを経て現職。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)、産業構造審議会、省エネルギー基準部会、NEDO技術委員などのメンバーを務める。産経新聞「正論」欄執筆メンバー。著書に『「脱炭素」は嘘だらけ』(産経新聞出版)、『中露の環境問題工作に騙されるな!』(かや書房)、『SDGsの不都合な真実』(宝島社)など。