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市場から拒否された?積極財政~だからこそ「松田プラン」…その当面の課題はブロックチェーン共通基盤~
先週一週間の話題といえば、何と言っても急激な円安でした。テレビニュースからコロナの話が後退し、旧統一教会を巡る国会論戦とともにこれが注目される話題になったのは、やはり33年ぶりの安値となったからでしょう。あれよあれよと、150円台をつけました。
消費者物価も9月は前年比3%に。物価目標の2%をはるかに凌駕して、31年1か月ぶりの歴史的な上昇幅。企業物価指数は9月はなんと前年比9.7%と、これも石油危機の影響が残っていた1980年以来となる高い伸びが続いています。輸入物価の上昇率はドルなどの契約通貨ベースでは21.0%でしたが、円ベースでは48.0%となり、上昇率のうち円安要因が占める割合は56%と過半に達しています。もはや、諸物価高騰の要因は、エネルギーや食料価格以上に、円安に求められるようになりました。どうする?この円安。
外国為替市場では財務省が何度か介入しましたが、一時的に円高方向に動いても、すぐにさらなる円安へと戻ってしまうようです。それでも、介入に全く効果がないわけではなく、介入への警戒感が底抜けの円安になることを何とか防いではいます。ただ、市場の趨勢を反転するにはあまりに無力。
ここにきて焦点が当たっているのが、やはり、実体面における日本経済の弱さです。これは金利差の問題のみならず、そもそも日本の競争力の低下から実需面での円売りドル買い圧力が継続しているということ。貿易収支は過去最大の赤字、これに海外からの投資収益などを加えても、経常収支までが7、8月は二か月連続で赤字でした。
日銀が低金利政策を強いられているのも、日本の実体経済の弱さが原因。今回は、日本の経済政策をめぐる私の基本的な考えを、「新政界往来」誌11月号のインタビューで私が述べた内容から引用する形でご紹介いたしますが、やはり、根本にある問題は財政政策。
さはさりながら、とにかく積極財政をやればいいといえるほど、経済は甘くはありません。このことを如実に示したのが、発足後、史上最短の40日程度で政権を投げ出すことになった英国のトラス首相の突然の辞任劇。これも先週の大ニュースでした。
辞任の理由は、トラス氏が示していた大幅減税策が財源の裏付けを欠いているとして、マーケットからノーを突きつけられたこと。英国経済は金利の急激な上昇による債券市場の混乱とポンド安に見舞われました。英国も日本と同様、ポンドという自国通貨建ての国。
そういう国ならば、インフレにならない限り国債をいくら発行しても大丈夫としてきたMMT(現代貨幣論)の論者たちは面目丸つぶれでしょう。少なくとも彼らにはそう思ってもらわねばなりません。そもそも最近では、MMTの本家本元である米国ですら、MMTを主張する向きはほぼ皆無になっており、極端な積極財政論が論壇を占める風潮は日本の特殊現象になっていたようです。
やはり、私がいつも主張してきたように、いまの財政の仕組みでは積極財政は非現実的です。財務省の財政規律論を打ち破るにも、彼らが作ってきた壁はあまりに分厚いといえます。だからこそ、世界の趨勢を先取りして新しい情報基盤を活かすことで通貨の概念と財政の仕組みを変え、国債を根っこから減らす「松田プラン」が必要になります。
MMTの考え方を本当に実現したいなら、MMP(マツダマナブプラン)を。今回は、以下、インタビューでの語り言葉を文字にしたからか、理解が難しいとされるこの「松田プラン」ついても分かりやすく解説できていると思います。
●英国とは異なり、日本では積極財政ができる理由
今回の本論に入る前に、最初にひと言…トラス首相を辞任に至らせたのは積極財政だけではないと思います。為替や金融市場を混乱させることなど、グローバル金融資本にとってはお手のもの。彼らの何らかの思惑が背景にあったとしてもおかしくありません。
また、英国の場合はインフレ率が相当高かったこともあるでしょう。この点、物価上昇の程度がまだ低い日本の場合は、むしろ、日銀が緩和政策を続けている状況にあるので、積極財政が直ちに英国のような混乱を市場にもたらすとまではいえません。国債を増発しても日銀が買い続けます。ここは日英で大きく経済状況が異なる点です。
日本の場合に積極財政の強化で懸念される点があるとすれば、日銀が低金利政策を続けざるを得ないなかで、市場の思惑が円の投機売りを招き、さらなる激しい円安をもたらすリスクかもしれません。しかし、このリスクも「松田プラン」があれば抑止できると思います。なぜなら、本プランはトラス首相の政策とは逆に、国債を減らすものであり、財政出動が国債残高の累増に直結する道を断ち切っているからです。むしろ、これによって経済成長を持ち上げることが、日本経済のファンダメンタルズへの評価を改善するでしょう。
では、現状ではなぜ、日本経済はここまで停滞することになったのか、積極財政でなぜ、これが克服されることになるのか、なぜ「松田プラン」が国債を減らし、積極財政を可能にすることになるのか、以下、私がインタビューで答えた内容をご紹介いたします。
●日本経済停滞の背景と積極財政の必要性…「失われた40年」にしないために
バブル経済崩壊後の90年代から、日本はある意味、米国から第二の経済占領を受けたようなものだった。GHQの下での財閥解体、農地解放、内務省解体に相当するのが、株式持ち合いの解消、市場開放、大蔵省解体だったともいえる。ソ連が消滅して日本が金融を中心にすごい力を持つようになって、米国にとって脅威になったことが1つあった。
その中で米国がとりわけ力を入れたのが金融だった。私は当時、大蔵省にいたので見えていたのだが、世界中のマネーを米国中心に回していくことが彼らの世界戦略になっていた。日本には国民が汗水流して働いて築き上げた膨大な貯蓄があった。これをウォール街がマネージできるようにすることは、彼らの戦略の中心にあった。
それに待ったをかけた大蔵省を、日本のメディアや政治などを動かして彼らは解体に持っていった。そうして自国の都合の良いように他国の体制を変えていくのは、米国の常套手段でもある。そのような流れの中で、「構造改革」は日本を買収しやすい国にしていった。
日本はウォール街やグローバル資本の草刈り場になり、米国流の株主資本主義のもとで日本は30年にわたり賃金が上がらないという珍しい国になった。
他方で著しく増えてきたのが、株主への配当財源となる利益剰余金だった。グローバリズムのもとで、日本が本来持っている国力が衰退してきたのが平成の30年だった。
対外純資産残高を見ると、日本は世界第一位を30年以上も続けている。これは世界で一番、世界にお金を供給している国が日本だということを意味する。他方で米国は、対外純債務は2000兆円の累積赤字国だ。それでも経済成長しているのは米国の方だ。
債権国である日本がお金を持っているのに、これが海外に出ていき、海外を成長させ豊かにしている。自分たちが蓄えた資産にふさわしい生活水準と経済的豊かさを日本人は享受できていない。これはお金の回り方が悪いからだ。
なぜそうなったのか。日本人が蓄えた資産を、国内のマネーフローとして活用できていないからだ。2100年には人口が半減する日本国内では成長期待が低下し、企業は余剰資金を海外に運用し、国内の設備投資に回さない。そのもとでは金融政策にも限界がある。
だから、本格的な積極財政に転じて国内に力強いマネー循環を生み出さないと、国力の衰退に歯止めがかからず、「失われた40年」どころではなくなるかもしれない。
●「松田プラン」が積極財政を可能にするメカニズムとは?
ただ、政策当局は1000兆円にのぼる国債発行残高を前に、国債増発による積極財政には簡単には踏み切れないできた。現実に、いずれ現在の異常な超低金利ではなくなったときには、巨額の国債残高は経済に様々な悪さをするし、社会的な歪みも拡大させかねないなど、さまざまな問題がある。国債が累増するだけで「出口」がない政策は財務省も日銀も絶対に採らないことは、自らが政策当局にいたことがあるからよく知っている。
私の松田プランと言うのは、この出口を創ることで積極財政への転換を可能にする政策だ。日銀は金融緩和で国債を購入し、既に500兆円以上、国債残高の半分以上を持っている。これはチャンスだ。日銀が持っている国債を、政府発行のデジタル円で償還する。
デジタル円を使いたいと思う国民は、銀行で両替することでこれを取得する。日銀は自らが持つ国債が償還されることで資産として保有することになるデジタル円を銀行に売却する。そうすると、異常に拡大している日銀のバランスシートが縮小する。そして、その分、国債はお金に変わっていく。
中国はデジタル人民元を発行し始め、米国もデジタルドルの検討を始めている。ブロックチェーン上で発行、流通するデジタル法定通貨は世界の流れになる。
日本では日銀ではなく政府が発行したら、政府はマイナンバーで国民の個人情報をビッグデータとして持っているので、デジタル円をいろいろなサービスと結び付けられる。そうすれば、あなたはこういうサービスを受けられますよという情報とデジタル円が一体となった情報付きマネーとして、これまでになく便利な新しい通貨が誕生する。
これを日本が世界初で作る。国民にとっては将来、税金で返さなければならなかった国債がなくなるだけでなく、それが通貨として回ることになる。そうした仕組みを想定できるようになれば、国債が減っていく道筋が描かれるので、国債増発への道筋ができ、国や国民にとって必要なところにどんどん予算を回す積極財政ができるようになる。
現在は政府の歳出のうち公共事業だけが国債発行対象で、他は財政法で本来は禁じられている赤字国債となってしまうが、将来世代に資産として残せるものは実物資産だけではない。知的資産である科学技術では米中に比べて基礎研究におカネが十分に回っていない。
人材も国にとって大事な資産だ。教育など人的資本への投資だって将来世代に残る未来への資産投資である。国防もそうだ。防衛費をGDP比2%にする財源はどうするのか。現状では、将来、資産になるべき財政資金は、社会保障費に吸い取られて回っていない。そちらの財源にもっと国債を発行して、積極的に資金を投入していくことが必要だ。
●デジタル人民元の脅威と日本における国産ブロックチェーン共通基盤の必要性
中国で始まったデジタル人民元については、むしろ、デジタル人民元の基盤にもなるブロックチェーンの世界共通基盤を中国が運営し始めたことのほうを脅威として認識すべきだろう。世界の趨勢をみると、これまでがインターネット革命の数十年の時代だったとすれば、これからの数十年は、ブロックチェーンがあらゆる社会の仕組みやサービスの基盤となるという意味で、「ブロックチェーン革命」の時代になっていく。
インターネットは単なる通信手段だが、電子データを改ざん不可能な形で管理するだけでなく、手続きや契約を自動化する「スマートコントラクト」でさまざまなイノベーションが起こり、それ自体が経済的な価値を持つトークン(代用貨幣)でユーザーがいろいろなサービスを享受することになるのがブロックチェーンの仕組みだ。
その共通基盤を中国が運営し始めた。これは世界覇権を狙う中国の最終兵器だと言われている。まだ理解している人は多くないが、私はこれが最大の脅威になると思っている。このブロックチェーンの共通基盤の上に、それが様々なサービス提供にとって便利だからということで、世界中のサービスやデジタル通貨が乗ってくる可能性がある。
まだ始まったばかりのデジタル人民元についていえば、新興国や途上国では、預金口座を持っていない人が多数いる。だが、みんなスマホを持っている。そのスマホを使ってどんな少額でも一瞬で海外にも送金ができて、手数料がタダとなれば、便利だからということで、中国の影響力の強い国からデジタル人民元が使われ始める可能性がある。
もし、このデジタル人民元や、それとつながる電子マネーを、便利だからと、私たち日本人が使うようになると、私たちの個人情報は中国に抜かれてしまうし、国を守れなくなる。これは「超限戦」の武器を中国に提供するようなものだ。中国がブロックチェーンの世界共通基盤を運営すれば、中国人民銀行がデジタルドルやデジタルユーロ、デジタル円を発行できるようになるかもしれないという指摘もある。それでは通貨主権も守れない。。
だから、これに巻き込まれないよう、日本は日本独自の国産ブロックチェーンの共通基盤を作るというのが喫緊の課題だ。
現在、これまでのGAFAなどのプラットフォーマーが支配するデジタル基盤ではなく、真に自律分散型の「WEB3・0」という新たな流れも台頭しようとしている。私は、これを日本の国内共通基盤として発展させ、その上に官民の多種多様なブロックチェーンコミュニティが花開く姿をめざしている。
松田プランのデジタル円も、その基盤の上で発行できればと考えている。
これまでは国家の信用で通貨が受け取られたが、これからは便利かどうかで決まってくる。情報機能やサービスと結びついた通貨へと、通貨の概念自体が歴史的変化を遂げることになる。その基盤を中国が握ってしまうと、我々日本人の活動が全部、中国に握られてしまうことになりかねない。
だから、日本人にとってはもっと便利な、こっちの方を使いたいと思えるようなデジタル円と、その基盤を国産で創る必要がある。
●「一石五鳥」の救国策となるのが「松田プラン」
…最近、講演の講師をするときに質問でよく訊かれるのは、この「松田プラン」実現のタイムスケージュールについてです。確かに、先般の参院選で私が議席を得れば、その実現に向けて提唱者である私自身が国会議員としてすぐにでも動き出し、少しでも早く日本が本当の意味での積極財政転じられる基盤づくりを進めるつもりでした。
そうならなかった以上、まずは民間において、上述のブロックチェーン国内共通基盤の拡大に注力しようと考えています。すでにその基盤はあり、WEB3.0に基く多種多様なブロックチェーンコミュニティのプラットフォームとして実用化されています。
私が国会議員に復帰するまでの間に、そのユースケースをできるだけ拡大しておき、あとは政府が決断すれば実施可能な状況にまで、松田プランのデジタル基盤を整えておくことが、当面の私の目標となっています。
同じデジタル円でも、日銀が発行するCBDCでは国民にとってあまり意味のあるものとはならないでしょう。日銀は経済的な価値とのみ関わっているという意味で従来型の通貨しか発行できませんし、CBDCは日銀の負債になりますので、日銀が縮小したいはずの日銀バランスシートを拡大するだけです。政府発行であれば日銀の資産に計上されますので、日銀が国債をこれに交換して保有し、市中に売却すれば、日銀の負債側である日銀当座預金から同額が引き落とされる形で、日銀バランスシートが縮小します。
この効果を大きなものとするためにも、国民が喜んで使おうと考える、これまでにない利便性の高いデジタル円でなければなりません。CBDCでは、ユーザーである国民にとっては従来の電子マネーと変わりありませんが、政府発行なら、政府がマイナンバーで管理運営する国民の個人情報のビッグデータと結び付けて、個々の国民のニーズに応じた様々なプッシュ型の情報サービス提供と一体化したデジタル円を仕組むことができます。
国債がお金に転換することで政府の財政問題が解決し、日銀にとっては巨額に膨らんだ日銀バランスシートが自然と縮小する出口が描かれ、国民にとっては利便性の高い社会が信頼性の高いデジタル基盤の上に構築され、中国共産党などによるSilent Invasionから日本の国と国民が守られる。
さらに、これで実現する積極財政が日本の国内マネーを力強く回転させ経済を内需中心の成長軌道に乗せることになるのですから、まさに「一石二鳥」ならぬ「一石五鳥」の救国策であるのが松田プラン(MMP)。その理解の浸透のために、東奔西走する毎日です。