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中国、地方政府の「隠れ債務」1100兆円 深まる財政難
【北京=川手伊織】中国の地方財政が厳しさを増している。地方政府傘下の投資会社、融資平台が抱える「隠れ債務」の残高は2022年末に1100兆円を超えた。新型コロナウイルス流行前の19年から5割増えた。過剰な借金でインフラ開発などを進めてきたことが要因となる。
金融不安への飛び火を防ぐには債務圧縮が不可欠だ。ただ地方経済の発展モデルが崩れ、中国景気の重荷になるリスクも高まる。
中国の中央政府(国務院)は「地方政府の合法的な資金調達ルートは地方債のみ」と定める。実際には融資平台が資金を調達し、公共事業などで経済を支えてきた。
地方政府による「暗黙の保証」があると受け止められている融資平台の負債は、地方政府の隠れ債務とみなすのが一般的だ。
この隠れ債務が急拡大している。米調査会社ロジウム・グループによると、22年末時点で59兆元(約1150兆円)に達した。コロナ下の3年で1.5倍に膨れた。景気を下支えするインフラ投資や地方政府の歳入不足を補うための土地購入を増やしたためだ。
公式の地方債には一般債とインフラ建設などの資金を賄う専項債がある。財政省によると、22年末の発行残高は35兆元。融資平台の債務も合わせると100兆元近くになり、名目国内総生産(GDP)の8割近い計算になる。
債務の累増で利払い費もかさむ。ロジウムは都市ごとに、地方政府や融資平台の歳入に対する地方債や隠れ債務の利払い費の比率を算出した。10%を上回ると、債務返済コストの管理が難しくなるという。
中国の国務院も、利払い費が歳出の10%を超えた地方政府に財政再建を指示する仕組みを設けている。国務院のルールは融資平台の収支は含まない。利払い比率の10%という節目は、財政の厳しさを判断する一つの警戒基準とも言える。
22年に警戒基準に達したのは、財政データが利用できる205都市の5割に達した。21年時点では3割超だった。多くの都市で利払い比率が上昇し、甘粛省蘭州と広西チワン族自治区桂林は100%を超えた。
22年に利払い比率が高まったのは、債務が増えて利子負担が重くなったことが一因だ。「ゼロコロナ」政策に伴う景気停滞をうけて大規模な減税を実施した影響もある。
ゼロコロナ政策が1月に終わり、税収も前年の反動で持ち直しつつある。気がかりなのは、不動産市場の低迷が長引き地方政府が依存してきた土地収入の減少が止まらないことだ。
中国の土地は国有で、地方政府が入札を通じて不動産開発企業に土地の使用権を売る。売却収入は20年に初めて地方税収を上回り、21年に過去最多となった。ただ政府の不動産規制で22年から落ち込み、23年1〜4月の売却収入は21年同時期から45%減少した。
この減収分は税収増などで補えていない。主要会計の1〜4月の歳入を合計すると、2年前から5450億元(8%)少ない。同じ期間に歳出は1兆3797億元(15%)増えた。歳出入の差は拡大傾向にある。
習近平(シー・ジンピン)指導部は格差是正を促す「共同富裕(共に豊かになる)」というスローガンを掲げる。都市内格差を広げる住宅価格の高騰を防ごうと、21年から不動産規制を強めた。
この結果、不動産開発に依存した成長モデルが機能しにくくなった。地方政府が経済下支えのため、債務をさらに膨らませざるを得なくなった事情もある。
公式に苦境を訴える地方政府も出てきた。
「やれる方策はほぼ尽くしており、今後の債務圧縮は大きな困難に直面する」。中国南西部の貴州省貴陽は5月半ば、こんな声明を出した。ロジウムの推計では22年の貴陽の利払い比率は41%だった。中国北部の内モンゴル自治区フフホトも「債務圧縮の余地はどんどん小さくなっている」と明らかにした。
国営新華社によると、財政省幹部も「一部地域の債務返済圧力は大きい」と認める。債務不履行(デフォルト)への懸念が金融リスクに飛び火するのを防ぐには、過剰債務の抑制が避けられない。
それでも、処置を急げば地方経済が依存してきた不動産やインフラの投資という発展モデルも転換を余儀なくされる。習指導部は債務問題の解決と経済成長という難しい両立を迫られている。