中国恒大、2兆円のドル建て債が国際金融市場揺らす
【上海=土居倫之】中国の不動産大手、中国恒大集団の2兆円を超える米ドル債が国際金融市場を揺らしている。リゾート開発など無謀な投資で資金繰りが厳しくなり、社債利回りが9日時点で50~470%まで上昇(価格は下落)しているためだ。仏アムンディやスイスのUBSグループなど世界の運用会社が恒大債を保有しており、破綻すれば投資家は損失を免れない。中国政府が救済するかどうかは不透明で投資家は売却を急いでいる。
リフィニティブによると、恒大の債券残高は266億ドル(約2兆9000億円)。このうち主に外国人向けに販売された米ドル建てが195億ドルと約7割を占める。残りは人民元建てが70億ドル相当と香港ドル建てが1000万ドル相当だ。通貨や年限、担保の有無などによって流通市場で売買される社債の利回りは大きく異なる。例えば、2025年満期のドル建て債は10日時点で60%だが、22年満期では400%を超える債券もある。
米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスとフィッチ・レーティングスは相次ぎ恒大を格下げした。Caa1(トリプルCプラスに相当)からCa(同ダブルC)としたムーディーズは「今後6~12カ月に大量の債務償還期限が到来し、デフォルトリスクが上昇しているため」(黎錦雄アナリスト)と説明している。
8日は一部メディアが「ローンの利払い停止を銀行2行に通知した」と報道。この報道を受けて、深圳証券取引所に上場する人民元建て債の価格が9日、20%安と急落した。深圳証取は一時売買を停止し、投資家に理性的な取引を求めた。
恒大の経営が窮地に陥った背景には、過去の無謀な投資で積み上げた巨額の負債がある。1996年に従業員10人弱で誕生した恒大は、地方政府から開発用地を仕入れ、各地でマンションを建設し急成長。20年の住宅販売面積で中国2位だった。
江蘇省にイタリアのベネチアを模した別荘地リゾートを開発したほか、サッカークラブ運営や電気自動車(EV)開発、ミネラルウオーターの販売にまで手を広げるなどした結果、6月末の有利子負債は5717億元(約9兆7000億円)に達した。
リフィニティブによると、ドル建て債は仏アムンディやスイスのUBSグループ、米ブラックロックなど世界の幅広い運用機関が保有する。ハイイールド(高利回り)債で運用するファンドなどで投資しているとみられ、債務不履行(デフォルト)に陥れば、投資家の損失は避けられない。
焦点は中国政府の対応だ。8月19日には中国人民銀行(中央銀行)と中国銀行保険監督管理委員会が「経営安定の維持と債務リスクの解消が不可欠だ」と監督対象ではないはずの恒大に直接経営を指導する異例の事態となった。
恒大は中国東北部を中心に支店を展開する地方銀行、盛京銀行の筆頭株主で3割を超す株式を保有する。盛京銀行の総資産は約1兆元(約17兆円)。万一、恒大が破綻すると盛京銀行を通じて中国の金融システムを動揺させかねない。
経営難に陥っていた中国国有の不良債権受け皿会社、中国華融資産管理は、中国中信集団(CITIC)などが資本参加を決め、破綻を免れた。ただ中国政府は住宅価格上昇の元凶として不動産会社に規制の矛先を向けており、恒大を救済するかどうかは不透明だ。
過剰債務問題は中国の不動産会社に共通する課題となっている。住宅価格の先行きに対する強気な見方から各社は借入金を膨らませて開発用地を取得してきた。香港取引所に上場する不動産開発会社、広州富力地産の債券利回りは9日時点で13~200%の水準となっている。