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動くか北朝鮮-救う会全国協議会最新報告 西岡救う会会長が7月20日の東 京連続集会124で最新報告を行った。

★☆救う会全国協議会ニュース★☆

(2023.07.24)動くか北朝鮮-最新報告1

 拉致問題が動き始めたのか。5月27日の国民大集会で岸田総理が「首脳会談
を早期に実現すべく、私直轄のハイレベルで協議を行っていきたい」と言ったら、
2日後の朝に「会えない理由はない」という北朝鮮の外務次官談話が出た。金正
恩委員長の決済がわずか1日半で下りたことになる。
 ハイレベル協議は進んでいるのか。そこで主張すべきことは何か。その時全拉
致被害者を一括帰国されるには何をすべきか。西岡救う会会長が7月20日の東
京連続集会124で最新報告を行った。家族会から横田哲也さんも参加した。

■動くか北朝鮮-最新報告1

◆初めて岸田総理の挨拶に対し、肯定的な反応が出た

西岡力救う会会長)

 みなさん、今晩は。お暑い中ありがとうございます。

 前回の連続集会は5月の国民大集会の前に開かれています。6月は特別集会と
して金聖●(王へんに文、キム・ソンミン)さんたちに来てもらい、北朝鮮内部
の話を聞きました。5月27日の国民大集会で岸田総理が挨拶をされ、そのあと
北朝鮮がすぐに応えてきた。しかし、その後表立った動きは今見えません。その
ことをまずおさらいします。

 もちろん交渉事ですから私たち民間には知らされていませんし、それでいいと
思っていますが、私が聞いている限りの情報で今どうなっているかについてお話
します。最終的に日朝の対立点がどこにあるのか、岸田政権の交渉の中で何を主
張してほしいと私たちが思っているかについてお話します。

 配布資料の「月間WiLL」8月号の「月報朝鮮半島」は私が毎月連載しているも
のですが、5月27日の国民大集会、5月29日の北朝鮮外務次官の談話につい
て詳しく書きました。今の情勢を考える場合、この挨拶と談話が基礎になります
ので、また東京集会ではまだ話していませんのでそれをもう一度確認したいと思
います。

 岸田総理が国民大集会で、「首脳会談を早期に実現すべく、私直轄のハイレベ
ルで協議を行っていきたい」と述べたところ、僅か2日後の29日に北朝鮮は朴尚
吉(パク・サンギル)外務次官の談話を出して「朝日両国が互いに会えない理由
がない」と答えたのです。

 国民大集会は実は1999年から実施してきましたし、2002年以降は総理
が出席してくださることが大変多くなりました。安倍政権以降はほとんどすべて
総理が出席されています。しかし、総理の挨拶に対し北朝鮮から答えが返ってき
たのは初めてです。

 北朝鮮は建前として、「拉致はもう終わった」と言っていますが、国民大集会
は終わっていないという集会なんです。北朝鮮は、「有象無象がけしからんこと
を言っている」というようなものはたくさんありました。

 しかし、私たちが主催し、来賓として岸田総理が来てくださった集会の挨拶に
対し、「両国が互いに会えない理由がない」との肯定的な返事が来たのは今まで
になかったことです。だからこそこの挨拶と談話が基礎になっているわけです。

 岸田首相の挨拶は27日午後2時半近くに行われました。もちろん日本語で話
しただけで文書を配ったわけではない。北朝鮮側はすぐ文字起こしをして朝鮮語
にして金正恩に見せ、談話を出せとの指示を受けて談話案を作成して、再度決済
を受けたはずだ。そのプロセスがわずか1日半で行われた。

 正確な記録を作るには、音をテープに採ってそれを文字起こししなければなり
ません。北朝鮮側の誰かが会場にいて、あるいはインターネットの中継を見て、
文字起こしし、それを朝鮮語にしかなければならない。そして金正恩委員長に見
せたのでしょう。

◆岸田総理の挨拶に注目しろとの命令があった

 外務次官の談話であっても、大臣であっても、北朝鮮は唯一指導体制ですから
首領様が決定することになっています。幹部はそれを実行する。これが北朝鮮
政治システムです。それまで日本が「拉致は解決していない」と言ったら、「解
決済み」と言えいわれていますので、そういう場合はトップの決済なしでも言え
ますが、新しいこと、特に対外関係で新しいことをいう場合は、新しい決済がな
いと絶対にできないのです。

 その決済をもらう期間が1日半だった。土曜日の午後2時半ころから日曜日を
経て、月曜日の朝には出ています。週末は基本的に北朝鮮では休みです。実は金
正恩委員長の決済をもらいたい人がたくさんいるのです。その順番を取るのが大
変なわけです。これは明らかに特別扱いです。

 金正恩委員長が事前に、「岸田さんが何か言ったらすぐに報告に来い」と命令
していた。国民大集会があることは分かっていました。岸田総理が来ることもほ
ぼ分かっていた。そういう中で、「注目して報告しろ」という命令がなければこ
んな早い決裁にはなりません。

 報告の窓口は書記室がやっていますが、この書記室を握っているのは(妹の)
金与正です。金与正さんが何を上げるかあげないかの権限をもっているのですが、
彼女も早く上げたほうがいいと判断したわけです。

 これは去年の10月に岸田総理が、「拉致と核・ミサイルを包括的に解決し、
不幸な過去を清算して国交正常化をめざしますが」と言いました。ここまでは安
倍総理、須賀総理と同じ内容ですが、「が」に続けて、「拉致被害者御家族も御
高齢となる中で、拉致問題は時間的制約のある人権問題です」と言って、拉致問
題だけに「時間的制約」という言葉をつけたのです。

 それが北朝鮮に届いていたわけです。だから5月の国民大集会で何を言うかを
北朝鮮も強い関心を持って、内容を取ろうとしていた。救う会のホームページの
動画は聞きにくいという話もあったので、誰か会場に来て録音していたと思われ
ます。岸田さんの挨拶が終わったらすぐに会場から出て文字起こしをしたのでは
ないかと思います。

 日本が拉致と核・ミサイルを切り離して、人道問題、人権問題として交渉しよ
うとしている。家族会は2月に新しい運動方針を決めて、「親の世代の被害者家
族が存命のうちにすべての拉致被害者の即時一括帰国が実現すれば、日本政府が
人道支援をするのに反対しない」としていました。

 そして今年5月にその運動方針を持ってアメリカに行ったら、国務省の副長官
以下国務省関係者、NSC(国家安全保障会議)、両院の共和党民主党の議員が
理解を示した。それを受けて岸田総理が5月27日に何を言うか、北朝鮮は大変
注目していた。そうでなければこんな早い反応はありえないということだと思い
ます。

 ひょっとしたらもう裏交渉が始まっていて、岸田さんが強いことを言うから聞
いてくれと北朝鮮に言っていたのか。そういうことまで私は考えてしまいます。

 とにかく私たちの集会での岸田総理の挨拶に対し、肯定的な反応が出たのも初
めてのことですし、反応した時間もものすごく短かったのもかつてないことです。
これは今までと違うことが起きているのではないかと、長く北朝鮮問題、拉致問
題をやってきた私としては強く思っています。

◆岸田総理が何度も踏み込んだ発言

 岸田総理の挨拶に戻って少し検討したいと思います。私も壇上ですぐ側にいた
のですが、私も息を?む思いで、「岸田さんは何を言うのだろうか」と思って一
生懸命聞いていました。そして、「あ、踏み込んだな。また踏み込んだな」と思っ
ていましたが、その主要部分が配布資料にあります。

北朝鮮については、日朝平壌宣言に基づき、拉致、核、ミサイルといった諸懸
案を包括的に解決し、不幸な過去を清算して、日朝国交正常化の実現を目指しま
す」。ここまでは去年の10月と同じで、安倍さんや菅さんの挨拶とも同じです。

 そのあと、「(目指しますが)が」とつけて、「とりわけ、拉致被害者御家族
も御高齢となる中で、時間的制約のある拉致問題は、ひとときもゆるがせにでき
ない人権問題です。全ての拉致被害者の一日も早い御帰国を実現すべく、全力で
果断に取り組んでまいります」。

 前回は「拉致問題は時間的制約のある人権問題」と言ったのですが、今回は
「時間的制約のある拉致問題」として、「ひとときもゆるがせにできない人権問
題」としました。「ひとときもゆるがせにできない」という言葉を新たに加えま
した。「時間的制約」というのも切迫しているということですが、「ひとときも
ゆるがせにできない」というのも切迫しているということです。切迫していると
いう意味が2つになった。

 横田早紀江さんが3月に緊急入院して手術を受けたことはニュースにもなって
いますので、当然北朝鮮も知っていると思います。「親の世代が存命の内に」と
私たちは繰り返し言っていますが、岸田総理もそういうことを背景にしながら
「切迫している」という意味のことを2回言いました。

 次に、「日朝間の実りある関係を樹立することは、日朝双方の利益に合致する
とともに、地域の平和と安定に大きく寄与いたします」と。これは去年10月に
もあったのですが、「双方の利益に合致」と言って、北朝鮮にとっても利益があ
ると言っています。

 日本にとっても拉致被害者が帰ってくるということは重大な「国政の最優先課
題」というわけですから両方にとって利益があるわけです。

 さらに、「現在の状況が長引けば長引くほど、日朝が新しい関係を築こうとし
ても、その実現は困難なものになってしまいかねません」と。これも現場で聞い
ていて、「あ、踏み込んだな」思いました。こういうのは聞いたことがなかった
のです。「このままでは日朝が新しい関係を築こうとしても困難になる」という
ことは、現状維持はなく、時間が経てば経つほど困難になるということです。

 これは岸田総理も被害者家族が高齢になっていることを踏まえた発言です。有
本嘉代子さんが亡くなり、横田滋さんがなくなり、飯塚繁雄さんが亡くなって
いくということが、時間が経てば経つほど困難になるということです。

 現在の状況が長引けば、親世代の87歳の早紀江さん、94歳の有本明弘さん
に何か起きるもしれない。そうしたら日朝が新しい関係を築こうとしても、その
実現は困難なってしまいかねません、と総理がおっしゃった。総理の言葉として
のようにも取れることをおっしゃったわけで、「あ、ここも踏み込んだな」と思
いました。

 その上で、「日朝間の懸案を解決し、両者が共に新しい時代を切り開いていく
という観点からの私の決意を、あらゆる機会を逃さず金正恩委員長に伝え続ける
とともに、首脳会談を早期に実現すべく、私直轄のハイレベルで協議を行ってい
きたいと考えております」とおっしゃった。

 これを聞いて私は、「えっ」と思いました。総理は原稿を読んでいるわけです。
みんなで検討して色々な部署の人たちが原稿を作るわけです。協議が始まって
いない段階で、「行っていきたいと考えております」と言うのか。

 来週にも北朝鮮が、「拉致は解決済みだから協議する意思がない」と言ったら
恥をかくような言葉ですね。「拉致問題は時間的制約のある人権問題」というの
拉致問題の性格を言うわけですから、北朝鮮が「解決済み」と言っても、「北
朝鮮の姿勢を変えようとしているんだ」と言えるのですが、「行っていきたいと
考えております」というのは相手あることです。

 私は、「協議を行うためのチームを作ります」という意味なのかとも思いまし
た。そうしたら自分のことだけですから言ってもいいのですが、「行っていきた
いと考えております」と言って大丈夫なのか、と思いました。

 現場におられた方はこの部分についてコメントしなかったのですが、文章を持っ
ていなかったのでよく分からなかったのです。その前の「長引けば長引くほど、
日朝が新しい関係を築こうとしても、その実現は困難なものになってしまいます」
とか、「ひとときもゆるがせにできない」というのは踏み込んだ発言だなと思っ
たのですが、この部分ついては意味が分からなかったのですが、その後すぐ政府
のホームページを見たら「行っていきたいと考えております」とありますので、
「ずいぶん踏み込んだな」と思いました。

◆拉致は解決済みと言いつつ、「互いに会えない理由がない」とも

 最後に、「私は大局観に基づき、あらゆる障害を乗り越え、地域や国際社会の
平和と安定、日朝双方のため、自ら決断してまいります」とおっしゃいました。
「大局観」と「決断」という言葉ですが、北朝鮮の外務次官の談話にも同じ言葉
があります。

「27日、日本の岸田首相がある集会で朝日首脳間の関係を築いていくことが大
変重要であると発言し、朝日首脳会談の早期実現のために高位級協議を行おうと
する意思を明らかにしたという」。この中の「ある集会」とは、「全拉致被害者
の即時一括帰国を求める国民大集会」のことです。また、これは土曜日の岸田さ
んの発言を聞いていなければ書けない言葉です。岸田さんの発言を引用している
のですから。こういうことを書いてはならないのですが、事前に金正恩委員長の
決裁をもらっていたから書けたのです。最初から岸田さんが言ったことを引用し
ているのです。

「われわれは、岸田首相が執権後、機会あるたびに「前提条件のない日朝首脳会
談」を望むという立場を表明してきたことについて知っているが、彼がこれを通
じて実際に何を得ようとするのか見当がつかない。

 21世紀に入って、2回にわたる朝日首脳の対面と会談が行われたが、なぜ両
国の関係が悪化一路だけをたどっているのかを冷徹に振り返ってみる必要がある。

 現在、日本は「前提条件のない首脳会談」について言っているが、実際におい
てはすでに解決済みの拉致問題とわが国家の自衛権について何らかの問題解決を
うんぬんし、朝日関係改善の前提条件として持ち出している」。ここまでは岸田
首相の言葉を前提に批判的に書いている。

 ここで「解決済みの拉致問題」という言葉が出てきます。岸田首相は「前提条
件のない日朝首脳会談」と言っているが、事実上条件を付けているじゃないかと
批判しています。前提条件とは拉致問題と「わが国家の自衛権」というのは核・
ミサイルのことだと思います。

 次に、「日本が何をしようとするのか、何を要求しようとするのかはよく分か
らないが、もし他の対案と歴史を変えてみる勇断がなく先行の政権の方式で実現
不可能な欲望を解決してみようと試みるのなら、それは誤算であり、無駄な時間
の浪費になるであろう。

 過ぎ去った過去にあくまで執着していては、未来に向かって前進することがで
きない」。ここでも批判していますが、どっちが過去に執着しているのかですよ
ね。

 そしてその次に、「もし、日本が過去に縛られず、変化した国際的流れと時代
にふさわしく相手をありのまま認める大局的姿勢で新しい決断を下し、関係改善
の活路を模索しようとするなら、朝日両国が互いに会えない理由がないというの
が、共和国政府の立場である。

 日本は、言葉ではなく実践の行動で問題解決の意志を示さなければならない」

「過ぎ去った過去にあくまで執着していては、未来に向かって前進することがで
きない」で終わっていれば今まで通りですが、最後に「会えない理由がない」と
して、「日本が意思を示せ」で終わっています。

「やらない」とは言っていないのです。「朝日両国が互いに会えない理由がない」
ですから。前提条件を付けていると延々と言っているのに、「会えない理由がな
い」は唐突ですね。

 そして見てほしいのですが、「大局的姿勢で新しい決断を下」す、と言ってい
ます。岸田総理は、「大局観に基づき決断する」と言っています。「大局」と
「決断」と2つ同じ言葉を使っています。1つなら偶然の一致があるかもしれま
せんが、この短い言葉の中で岸田さんと同じ言葉を2つ使うだろうか。これも私
が注目したところです。

 日本を批判しておきながら、「岸田は会おうと言ったが会えない理由がある」
の方が、話が通るのです。なぜ最後に「会えない理由はない」と言うのか。明ら
かに土曜日の岸田さんの挨拶を聞いてからある程度歩調を合わせて書いています。

 こういうことは今まで、韓国の大統領に対して言ったり、「バイデン大統領は
ぼけている」と批判したのとは大きな違いです。

北朝鮮は、岸田総理の挨拶を徹底的に読み込んでいる

 もちろん外務次官というのはそれほど大きな立場ではありません。日本の批判
をする時いつも出てくるのは外務部の日本研究所の研究員です。これはずっと位
が下です。政策に関係していない。しかし、外務次官は政策に関係しています。
その人がわざわざ、すばやく「会えない理由はない」という言葉を含む談話を出
した。

 明らかに岸田総理の挨拶を徹底的に読み込んでいます。表向きは北朝鮮の立場
を変えたことはないような文章構成になっていますが、それなら「会わない」と
言えばいいのに、なぜ「会えない理由はない」と言ったのか。そこに、「会えな
い理由はないと言え」という金正恩氏の意思があるというふうに私は思っていま
す。

(2につづく)

■動くか北朝鮮-最新報告2

◆表立った動きは何もない

 ここまでのコミュニケーションが公開的にできたのですから、何かがもう始まっ
ているのか、すぐに始まるのかと思ったのです。しかし今のところ、「どこかで
局長級の交渉が行われる」との発表は一切ない。

 7月3日に、韓国の「東亜日報」が、「中国とシンガポールで6月中に、日朝
の実務協議があった。しかし、拉致問題などで立場の開きが大きかったことが確
認された」と報じています。

 そうした次の日に松野官房長官が、「そのような事実はありません」と全面否
定しました。

 通常は交渉内容については、「応えられません」と言ってもいいのですが、
「そのような事実はありません」と。私が取材してみたところでは、接触はあっ
たのかもしれませんが、首脳会談実現のための接触ではなかった。

 岸田さんの挨拶があったずっと前から、北朝鮮の大使館があるところでは、色
々なところで外交官同士がお茶を飲んだり、東南アジアの国では食事ができる関
係ができているところもありました。

 そこでは向こうは公式的なこと以外言わない。「会えない理由はない」という
線に基づいて何か発言することはない。そういうことがどこかで目撃されて記事
になったのか。

東亜日報」の東京特派員とかワシントン特派員の記事では、「日本は事前にア
メリカに通報していた」と書いてあるのですが、書いたのは政治部の記者で韓国
政府関係者、韓国の政治家からリークされたと書いている。よく分からないので
すが、日本政府は全面否定し、その後も何の表立った動きはありません。

 かなり期待が上がったのですが動きがないので、若干いらいらする気持ちもあ
ります。落ち着いて考えてみると、まずは秘密交渉が先行しなければだめなので
す。その段階かもしれないなあと思っています。

◆軍事偵察衛星失敗に金正恩氏の頭がいっぱいか

 そして私が入手した北朝鮮内部情報によると、外務次官談話が出た5月29日
の翌日、北朝鮮は軍事偵察衛星を発射しました。金正恩氏は自信満々で発射した
わけです。事前にその製作工場まで行って、見て、そして自分の命令で発射しし
た。事前に日本に通報があった。しかし、失敗した。

 そしてすぐに失敗を認めたのですが、「近く再度発射する」と。金正恩氏はか
なり怒ったようです。「100%成功すると言っていたじゃないか。どういうこ
とだ」と。そして、「そのことで頭がいっぱいになっていて、なかなか別の案件
を上にあげることができないでいる」という情報があります。

 しかし再度撃てないのです。軍事専門家によると、普通2機を一緒にあげるそ
うです。1機を回しているわけですが、時々故障したりします。しかしスペアが
あるので、それで運用する。

 また発射台が2つ立っていたという情報もあります。だからすぐに再発射でき
るのではないか。金正恩も金与正(ヨジョン)もそういう談話を出した。しかし
まだ発射はない。内部情報によると、「外貨不足で1機しか作れなかった」そう
です。だからすぐには撃てないという情報もある。

 その代わり「火星18」を撃って成功したので金正恩氏の機嫌が少しなおった
そうです。軍事偵察衛星のことで交渉が停滞しているのなら、また進むかもしれ
ません。

◆総理直轄の秘密交渉とは

 よく考えてみると岸田総理は、「私直轄のハイレベル協議を行いたい」と。と
なると金正恩氏直轄の人間とやらなければならない。局長と局長がどこかで会う
というのは岸田さん直轄ではない。外務大臣が入っている。そうではなく水面下
で特使同士が会う。

 田中均アジア大洋州局長は、「小泉総理の訪朝の前に約20回秘密交渉をした」
と本人が言っています。一切それが漏れていません。安倍晋三さんも知らなかっ
た。当時官房副長官で、政府の中で一番拉致問題に関心があったのですが、教え
られていなかった。

 そのくらい限られた人数で、まさに小泉総理直轄で動いていたわけです。彼の
相手Ⅹという人は、私の取材では柳京(ユ・ギョン)という国家保衛部の第一副
部長です。彼は金正日に大変近い人だった。お互いが直轄だということをまず確
認しあったそうです。

 当時「日本経済新聞」の記者が、取材活動ではなく観光旅行で行って、写真を
いっぱい撮るのが趣味の人で、スパイ容疑で捕まっていたのですが、「あなたが
本当に金正日とつながっているということを示すのだったら、金正日のところに
行って、その人を釈放してほしい。金正日氏にはその権限があるでしょう」と言っ
たら、「分かった」と言って、実際釈放された。

 北朝鮮側が、「あなたがつながっている証拠は何か」と聞いたら田中さんは、
ある所で本人が言っているのですが、「『総理動静』を見てほしい」と。「総理
動静」を見ると田中さんが何回か入っていた。それでお互いが直轄だということ
を確認し合って秘密交渉をした。

 そこで「平常宣言」の案文も作って総理が平壌に行ったわけです。「平常宣言」
には拉致についても、拉致という言葉は使っていませんが、「再発防止を約束し
た」ということが書いてあって、裏交渉の中で「拉致は認める」というところま
で取っていたのです。

 何人生きていて何人死んだかについて田中さんは事前に知っていたのではない
かという説もありますが、そこは分かりません。少なくとも2002年9月17
日以前は、北朝鮮は「拉致はない」と言っていたのです。

 表向きの局長級の交渉では建前は崩せないのです。それを崩せる権限は金正日
しか持っていなかったのです。直轄の特使は、金正日総書記から、「交渉の中で
これは言ってもいい」という権限を与えられるのです。

 しかし表向き「拉致はありました」と言えるのは金正日総書記だけですから、
内容が外に出るような形ではできないのです。そうでないと安心して交渉ができ
ない。

 自分が党の方針、国家の方針と違うことを言ったことが外に出てしまったら、
その交渉に来ている北朝鮮側の人の立場がなくなるのです。決断したのはあくま
でも金正日総書記だという形式をとらなければならない。そうでないと北朝鮮
社会では生きていけないのです。

 だからこそトップ会談が絶対必要だということになるのです。しかしトップ会
談実現のためには、直轄の特使が秘密裏に会う。それもハイレベルの交渉が必要
です。岸田総理の提案は理にかなっている。

◆世論で私たちは1回勝ったが、北朝鮮は別の嘘をついた

 当時北朝鮮は、「拉致はない」と言っていた。金正日総書記は決断して、「拉
致は認める」と言った。しかし全員返す決断はしなかった。だから今も私たちは、
拉致問題を解決しろ」と言っているわけです。

 私たちは2002年9月までは、「拉致がある」と言っていたのです。「産経
新聞」を除く日本のマスコミは「拉致は疑惑だ」と言っていた。しかし、金正日
総書記が認めたので、私たちは1回勝ったのです。「拉致があるかないか」とい
う戦いに勝ったと思っています。

 私たちが運動をしなければ、「拉致はない」という北朝鮮の姿勢は変わらなかっ
たのです。90年に金丸訪朝がありました。その直前まで田中均さんは北東アジ
ア課長で、対北朝鮮外交をやっていました。しかし、金丸さんは拉致問題を出し
ませんでした。

 国会で梶山答弁があり、「北朝鮮による拉致の疑いは十分濃厚だ」という答弁
があったのに日本側が出さなかったのです。それは家族会・救う会の運動がなく、
国民の世論がなかったからです。

 しかし、小泉訪朝の5年前に横田滋さんが名前と写真を出して世論に訴えよう
という決断をして、それに他の家族の人たちが続いて家族会ができ、私たちが救
う会を作って、西村眞悟さんや安倍晋三さん等ごく少数の国会議員が協力してく
れて、5年間運動した結果世論を一定程度作ることに成功した。

 北朝鮮が日本に接近しなければならない理由ができた時に、拉致問題を抜きに
しては日朝が先に進めないという、日本が世論状況を作ることに成功していたの
で、拉致が議題になったのです。

 国会答弁があれば拉致が議題になるかといえばそうではなく、金丸訪朝では議
題にならなかった。その後8回外務省が行った、「日朝国交正常化交渉」でも、
正式の交渉で拉致が議題に出されたのは3回目の交渉だけで、それも田口八重子
さんだけでした。

 梶山答弁で「拉致の疑いが濃厚」とされた蓮池さん、市川さん、増元さん、原
さん、久米さんについては出してないのです。世論があったかなかったかで変わっ
た面がありますが。

 私たちは1回勝ったのですが、北朝鮮がその後もう1回別の嘘をついた。金正
日総書記が認めたのは、「拉致したのは13人だけ」で、「5人は返す。8人は
死亡した。それ以外は未入境でいない」でした。

 だから私たちは「2つの嘘」と言ったのですが、「13人じゃない。日本政府
は17人認定しているじゃないか。4人違いがある。それ以外にも可能性のある
人たちがたくさんいると。

 2つ目は「8人死亡」と言うけど、「死亡の証拠は一人も出ていない。だから
解決済みとは言えない」と。

 今の北朝鮮と日本の対立点は、「拉致があったかなかったか」ではなく、「拉
致が解決したか、してないか」です。私たちから言うと、「新しい2つの嘘との
戦い」でした。「13人しかいないは嘘だ。8人死亡も嘘だ」ということです。

金正日総書記が拉致を認め謝罪

 今2002年のことを言いましたが、そのことを前提にして秘密交渉で北朝鮮
にどういう追及をしてほしいのか。交渉の中味を公開したらつぶれますから、公
開しなくていいと思います。

 最終的に総理が行って全被害者を取り戻してくだされば、私たちは人道支援
反対しないということです。そこで政府に何を言ってほしいのかについて、今日
は頭の整理をしたいと思います。

 配布資料を見てください。これは私が2002年に書いた「金正日が仕掛けた
『対日大謀略』拉致の真実」の付録につけた資料です。「8人死亡は嘘だ」と必
死で書いた本です。

 まず安倍総理も生前おっしゃっていたのですが、「交渉の中で北朝鮮の面子を
つぶしてはならない」と。残念ながら、こちらが上位に立って相手に犯罪を認め
させる交渉では取り戻すことはできないのです。

 ではどうするか。彼らに出口を開けておかなければならない。実は金正日総書
記も拉致を認めた時に、「自分も知らなかった」と言いました。その資料がお手
元にあります。

 これは日本側が平壌でブリーフィングした内容を「朝日新聞」が報道したもの
を引用しました。

小泉首相
「直前の事務レベル準備会合において、情報提供がなされたことには留意するが、
日本国民の利益と安全に責任をもつものとして大きなショックであり、強く抗議
する。家族の気持ちを思うといたたまれない。

 継続調査、生存者の帰国、再びこのような遺憾な事案が生じないよう適切な措
置をとることを求める」。

 これは首脳会談が始まる前の事務レベル準備会合があり、それが田中局長と、
北朝鮮の馬局長が会った。その時に北朝鮮赤十字が調査したという結果(紙)が
渡されました。そこで「8人死亡」が告げられたわけです。

 それを受けて、午前中のセッションで小泉総理が以上のことを言いました。金
正日総書記はそれを黙って聞いていたそうです。

 当時平壌にいた張真晟 (チャン・ジンソン)さんという統一戦線部の元幹部
で、後で亡命してその時の状況を話してくれたのです。北朝鮮側としては、拉致
問題は赤十字の調査で終わりにして、首脳会談では取り上げないのが当初のシナ
リオだったそうです。

金正日総書記に謝罪などさせられない」。個人独裁国家ですから彼らはそう考
えるわけです。小泉総理は、拉致問題の消息を聞くために行くということで、に
こにこして金正日総書記と一緒に食事などできないから別々に食べた。弁当持ち
日帰りの予定で、別室で弁当を食べた。

 そこで安倍副長官が、「金正日総書記が拉致を認めて謝罪しないなら平常宣言
にサインしないで帰りましょう」と言った。安倍さんも言ったと言っています。
「大きな声で言ったのですか」と聞いたら、「そんな大きな声で言ってない」と
言っていましたが、張真晟さんの証言によると、北朝鮮の工作機関が隠しマイク
をつけていた。

 その報告がすぐに上げられた。そうしたら当初のシナリオになかったのに、金
正日総書記は午後のセッションで下記のように謝罪した。

金正日総書記

「拉致の問題について説明をしたい。調査を進め、内部の調査も行った。この背
景には数十年の敵対関係があるけれども、誠にいまわしい出来事である。率直に
お話し申し上げたい。

 我々としては特別コミッションをつくって調査をした結果が、お伝えしたよう
な報告である。自分としては70年代、80年代初めまで特殊機関の一部が妄動
主義、英雄主義に走ってこういうことを行ってきた、というふうに考えている」。

 つまり自分は知らなかったということです。今回調べて分かった、と。

「私がこういうことを承知するにいたり、これらの関連で責任ある人々は処罰を
された。これからは絶対にない。この場で、遺憾なことであったことを率直にお
わびしたい。二度と許すことはない」と拉致を認めてお詫びしたのです。

 安倍副長官が言ったことが果たされたのですが、当時統一戦線部の中では、
「当初のシナリオと違うことを突然言った」ということになったのです。自分た
ちは「拉致を認めるべきではない」と言っていたが、結局外務省主導で拉致を認
めることになった。当時統一戦線部の幹部たちがそういう話をしていたそうです。

 一方外務省はこの後、拉致問題が浮上し、結局国交正常化がうまくいかなくて
お金が日本からこなかった。今韓国で国会議員をしている太永浩(テ・ヨンホ)
さんという北朝鮮の英国大使館の公使だった人がいるのですが、その人が200
2年9月に、平壌にいた。

 外務省の中で、金正日総書記が謝罪したので動揺する声が出たことがあり、当
時外務省にいた人を全員集めて、日朝首脳会談に陪席した姜錫柱(カン・ソクジュ)
という第一次官が講演をした。

 「金正日総書記が謝罪したが、日本の首相から過去の謝罪をとったのは初めて
だ。そして日本から100億ドルの過去清算金が来る。だからこの外交は失敗じゃ
ない」と講演したそうです。

 しかし、北朝鮮の中では謝罪したことについて一定の動揺が走ったわけです。
トップに謝罪をさせてしまった。それでも「知らなかった」と言ったことについ
て日本側は追及しなかった。本当は金正日総書記が命令しなければできないわけ
です。

(3につづく)

 

■動くか北朝鮮-最新報告3

◆面子は立てて会談する

「大韓機爆破事件でも金正日総書記の直筆の命令書があった」と金賢姫(キム・
ヒョンヒ)さんが言っています。金賢姫は日本語ができ、日本のパスポートを持っ
て活動できること」を金正日総書記は知っていたのです。拉致があったことを知
らなければそんな命令は出せないわけです。

 そもそも拉致をする作戦を立てたのは彼で、当時は金日成がいましたが、19
76年以降は、金正日が工作機関を事実上仕切っていました。77年78年につ
いては金正日の責任が重いのですが、それを言わない。人質をまず取り戻すこと
が先です。

 それには私も賛成です。安倍さんもそう言っていました。金賢姫さんが東京に
来た時、「北朝鮮はああいう国だから面子を考えてあげなければだめだ」と言っ
ていました。

 その時は民主党政権だったのですが、安倍さんが野党の国会議員としてそれを
聞いていて、そこは自分も賛成だ、と。

 私たちは、「北朝鮮の再調査は茶番だ。金正恩委員長は被害者がどこにいるか
分かっている」と言っていますが、岸田総理と金正恩委員長が会って、全員を返
すという話がついた後、お父さんの金正日が嘘をついていたことを認めろという
ことはこちらから言わなくていい、ということです。

 あの2002年9月に、「金正日総書記に上がった報告が間違いだった」、
「当時も拉致があったことを知らなかった」と言ったが、また言うのではないか。
でもそれでいい。そうやり方しかないのです。私たちもそれでいいと思っていま
す。

◆全被害者の帰国が優先、責任追及は後でいい

 配布資料に政府のパンフレットがありますが、この原型は第一次安倍政権の時
に作ったものです。その中に、「政府としては、拉致問題の解決なくして北朝鮮
との国交正常化はあり得ないとの方針を堅持し、拉致被害者としての認定の有無
にかかわらず、全ての拉致被害者の安全確保及び即時帰国のために全力を尽くす。
また、拉致に関する真相究明、拉致実行犯の引渡しを引き続き追求していく」。

 第二次安倍政権の時に、「認定の有無にかかわらず」という言葉を入れました。
特定失踪者のことを意識して助ける、ということです。

 日本政府の解決の定義は、「認定の有無にかかわらず、全ての拉致被害者の安
全確保及び即時帰国、真相究明、実行犯の引渡し」です。犯人とは書かず実行犯
としていますが、犯人だったら命令した人になります。それは金正日総書記です
し、今めぐみさんたちを抑留し続けているのは金正恩委員長ですが、それは追及
しないことを政府が書いているわけです。私たちも賛成です。

 また私たちの運動方針では、「親の世代が存命の内にすべての拉致被害者が帰っ
てくるなら、人道支援に反対しない」としています。そこには真相究明も実行犯
の引渡しも入っていないのです。「3つの内、1が実現するなら」ということで
す。

 ご意見が違う方がおられるかもしれません。なぜこちらが被害者で向こうが加
害者なのにそこまで配慮するのか、と。「先圧力、後交渉」の今交渉の段階に入
りつつあります。北朝鮮が岸田総理の挨拶に返事をしてきていますので、積み木
細工を積んでいくみたいに、崩れないように細い道を通るしかないのです。

 そして現在生きている人たちをまず確保する。もちろん真相究明も実行犯の引
渡しも放棄するのではない。国交正常化の前にはしてもらわなければならないけ
れど、「拉致問題の解決なくして国交正常化はありえない」ですが、今岸田政権
として最優先にしてもらいたいのは、生きている人たちを取り戻すことで、北朝
鮮の責任を追及することではないのです。

 これは小泉総理もやられたことだし、安倍さんになってからもこの方針を作っ
た時からそう考えていたのです。

北朝鮮赤十字社が「5人生存、8人死亡」

 先ほど言いましたが、首脳会談が始まる前に、北朝鮮が最初に拉致を認めたペー
パーがあります。これは外務省が翻訳したもので、朝鮮語で来たものです。まず、
日本の赤十字社宛に北朝鮮赤十字会中央委員会が出した文書です。持ってきた
のは外務省の局長だそうです。

朝鮮民主主義人民共和国赤十字会は、朝日赤十字会談で、日本側から依頼を受
けた8件11名の行方不明者と2名の欧州失踪者に対する消息調査を行った結果、集
計された結果を次のとおり通知します。

「確認された生存者は、蓮池薫さん、奥土祐木子さん、池(原文ママ)村保志さ
ん、浜本富貴恵さんです」としてまず4人を出しています。曽我ひとみさんは入っ
ていません。

久米裕さんは、我が国に入って来たことがないものと判明しました。横田めぐ
みさんを始めとしたそれ以外の方達は、死亡したものと確認されました」と志望
者の名前を列挙しています。

横田めぐみさんの娘さんが生きているものと確認されました。それ以外に日本
側から提起された名簿には無い1名の生存者が確認されました」。これが曽我ひ
とみさんです。

朝鮮民主主義人民共和国赤十字会は、生存者のご家族、ご親戚が、それらの人
々との面会を希望される場合、便宜を保証する用意があります。

 そして、ご本人が希望される場合には、日本への帰国、又は、故郷訪問が実現
するように便宜を保障する用意があります」。

 一時帰国として帰ってきましたが、秘密に日本政府に、「残りたい」と意思表
示をしたので、政府が日本に残したのです。「それは約束違反だ」と北朝鮮は言
いますが、「本人が希望される場合には、日本への帰国が実現するように便宜を
保障する用意があります」と言っていますので、何も約束違反はしていないので
す。

 ただ子どもたちが北朝鮮にいるので、5人が帰ってきた後、秘密裏に中山恭子
さんと安倍さんだけに、「残りたい」と言っていたのです。赤十字社からのペー
パーはもう一枚ありました。

「朝鮮赤十字社は朝日赤十字社会談において日本側から依頼を受けた行方不明者
についての消息調査を行った結果、集計された状況を次のとおり通知する。

 調査は、中央と地方の各級赤十字社が人民保安省、人民委員会の該当部署と緊
密に連携しつつ、全国的な範囲で実施され、新聞、放送を利用した幅広い調査を
通じてより一層深く行われた。

 調査結果、日本側が依頼した名簿にある行方不明者中、2002年8月19日
に通知した6名以外の12名の身元が確認された」。「8月19日に通知した」
というのは拉致被害者ではなく日本人妻です。日本が依頼した人については返事
しなかったのです。

「その他1名は、我が領域内に入ったことがないものと確認され、名簿にない1名
の身元が更に確認された」として、生存者は蓮池さん、奥土さん、地村さん、浜
本さんで、生年月日があり、死亡者として、横田さん、有本さん、石岡さん、松
木さん、原さん、市川さん、増元さん、田口さん」となって、「我が領域内に入っ
たことがないもの」が久米さん、「名簿にない1名」が曽我ひとみさんです。

 曽我ミヨシさんについて触れていないのですが、後の日朝会談で「入境が確認
されなかった」との返事が来ました。

北朝鮮赤十字の調査は以前も間違いがあったと迫れ

 この2枚目の紙は当初公開されなかったのです。9月17日に外務省の飯倉公
館に家族が呼ばれて「死亡」だと言われた時は、「死亡かは分かりません」と言っ
た。でも実際に彼らが言う死亡日が書かれていた。

 この2枚目の紙は一緒に平壌に行った安倍晋三さんも貰っていないのです。安
倍さんが、私たちが泊まっていたホテルに来てくれたのですが、その時、「死亡
日について聞いても答えられなかった」と。

 ところが9月19日の「朝日新聞」がこれを書いたのです。誰かがリークした
わけです。そして政府はこの紙を認めて、家族に「死亡日はこれです」と通知を
したのです。

 このプロセスも私たちにとっては不愉快な思い出でありますが、しかし、北朝
鮮側が赤十字の調査として言ってきたのです。実は赤十字の調査は1997年か
ら始まっています。日本がコメ支援をするようになってから、その見返りとして
赤十字が調査をすると言ってきました。

 例えば2000年に50万トンのコメ支援をしたのです。私たちは反対して、
外務省前、自民党前で抗議しました。その時も赤十字の調査があって、確か20
01年に、「誰もいませんでした」という報告がきました。

 一度、「誰もいませんでした」と言っていたのに、2002年9月に変えたの
です。「調査が進展すれば新しいことがみつかる」と。「拉致がない」を「ある」
に変えることが一番大きなことでした。

 もちろん、「死んでいた」という人が、「実は生きていた」というのはかなり
のハードルだと思いますが、でも2002年に政府はそこまで取った。北朝鮮
自分たちの責任を逃れるため、赤十字という形をとりました。日本政府は、「そ
れでいい」として、これを受け取ったのです。

 今、日朝首脳会談のためのハイレベルの協議のための実務接触が行われている
のかもしれませんが、これから行われるのかもしれません。中身を外に出したら
絶対つぶれますから、北朝鮮の直轄の人が、「実はこの人は生きています」と言っ
たということが外に出たら、それで終わりですから、言わなくていいし、秘密で
頑張ってほしいと思います。

 しかしその時に、2002年には金正日総書記が大きな度量を見せて、「赤十
字の再調査の結果、実はこういうことが分かったと言ったじゃないですか」、
「以前赤十字は、『誰もいませんでした』と言っていた。赤十字の調査は過去に
間違っていたのだから、今回も間違えていたと認めてもいいじゃないか」という
迫り方ができるのではないかと私は思っています。

◆政府の基本的立場

 日本政府の基本的立場はこの白いパンフレット(すべての拉致被害者の帰国を
目指して-北朝鮮側主張の問題点)にあります。

 北朝鮮赤十字の調査結果を出してきて、それについての「証拠」なるものを
出してきました。今も変わっていないのですが、それに対し日本政府の立場は、
政府の拉致問題対策本部が作ったこのパンフレットにあります。大変いいパンフ
レットです。

 「2002年9月の日朝首脳会談で、北朝鮮は日本人を拉致していたことを認
め、謝罪しました」。これも大きなことだったのは間違いないですが、「その後、
5名の被害者は帰国しましたが、残りの拉致被害者については、いまだ納得のい
く説明がありません」。これが日本政府の立場です。

 そして、

北朝鮮側は、次ように主張しています。

●(安否不明の拉致被害者12名のうち)8名は死亡、4名は北朝鮮に入ってい
ない。

●生存者5名とその家族は帰国させた。死亡した8名については必要な情報提供
を行い、 遺骨(2人分)も返還済み。

●日本側は、死んだ被害者を生き返らせろと無理な要求をしている」。

 これは繰り返し北朝鮮が言っていることです。宋日昊ソン・イルホ)大使
等が繰り返し言っています。

 それに対する日本政府の立場、これは私たち家族会・救う会でもあります。

「しかし、こうした北朝鮮側の主張には以下のように多くの問題点があり、日本
政府は、北朝鮮側の主張を決して受け入れることはできません。そして、被害者
の『死亡』を裏付けるものが一切存在しないため、被害者が生存しているという
前提に立って被害者の即時帰国と納得のいく説明を行うよう求めていま。日本政
府は、決して「無理な要求」をしているのではありません」と言っています。

 つまり赤十字の2002年9月に出てきた調査結果は認められないと言ってい
る。横田さんご夫妻がモンゴルに行って、ウンギョンさん(めぐみさんの娘)と
会って、その延長線上で局長級協議が開かれた。そしてストックホルム合意がで
きました。

◆秘密情報をリークしてはならない

 北朝鮮は、「再調査する」と言いましたが、その時の進め方について私たちは
大変不満を持っていました。北朝鮮がミサイルを発射したり、核実験をしたこと
で(日本が制裁を復活させたため)、再調査委員会は解散したことになっていま
すが、繰り返し「共同通信」が、「ストックホルム合意の後の日朝協議で認定被
害者の田中実さんと朝鮮籍の特定失踪者の金田龍光さんの生存を伝えてきたが、
安倍総理は「それだけでは足りないから拒否しろ」と言って、「それで田中さん、
金田さんが事実上見殺しにされた」というような報道を繰り返ししました。

 私が大変怒っているのは、安倍総理が殉職された後、去年の9月に、当時の外
務次官だった斎木さんが、「朝日新聞」のインタビューで、「田中さん、金田さ
んについてはそういう話(生存情報)がありました」ということを認めました。

 終わっていない交渉の一部分だけを抜いてリークするということを、外務次官
をやった人がするのか、と。それも安倍さんが亡くなった後に、安倍さんを批判
する側に有利になるようなことをするのかと、大変怒っています。

 私はこのことについて生前の安倍さんと話をしました。色々と取材もしました。
そういう情報が出たのは間違いないようです。しかしそれは、今後の裏交渉で北
朝鮮に対し気を付けてもらいたいという意図があるのでここで申し上げるのです
が、北朝鮮は見返りなしに何か情報を出すことはないのです。

 それも裏交渉で起きたことですから、また建前としては「拉致は解決した」と
言っているのですから、誰かの情報が外に出ただけでその担当者が危なくなるこ
とだってあるのです。

 見返りなしにそういうことを交渉の中で言うわけがないのです。見返りも含め
て、何を出すのかという交渉は秘密でやってもらわなければ先に進まないのです。
北朝鮮が田中さん、金田さんを出してきたことの見返りは、「これで終わりにす
る」ということです。

 8人について「死亡」の証拠がない。全員生存が前提で被害者の即時一括帰国
に向けて納得ある説明を求めていくという日本政府の立場と反する提案が出てき
たら、それは呑めない。

 報道などによると、その頃「ウンギョンさんの留学の話等が進んでいた」と言
います。横田さんのお孫さんで、田中さんと金田さんは親戚がなく平壌で幸せに
暮らしている。そしてこの問題について明確な返事がなくても終わりにする。

 しかし終わりにできないから、「合同調査委員会」を作って調査を続けながら、
国交正常化に向かっていくというようなことではなかったのか。それを強く疑っ
ています。

 少なくとも秘密交渉で出たことの一部を外に出してはだめなんです。そうする
と、その交渉が信用されなくなる。そういうことは絶対やめてほしい。安倍総理
は最終的にストックホルム合意の危険性に気付いて、切ったのです。

 私は、表向きは総理が決断することだから、家族会・救う会は批判する声明は
出しませんでしたが、個人的には「危ないですよ」と安倍さんに直接申し上げま
したし、メモも上げたりしました。中山恭子さんが一番強い危機感を持って直接
電話したりしていました。

 物事が動き始めると事前予定ではない所に着地をしようとする人たちも出てく
る。少なくとも北朝鮮の中にはそういう人たちがいます。一部の元議員の方等は
SNSで、「田中、金田をまず受け入れることが前提だ」等と書いておられるこ
とは承知しています。そういう雑音に惑わされないで、絶対に秘密を守って、し
かし日本政府の基本方針の、「死亡の証拠はないから全員生存の前提に帰国を求
める」という趣旨を貫いてほしい。

 そして、未入境の人についても久米さん、松本さん、田中さん、曽我ミヨシさ
んについて、北朝鮮は「拉致をしていない」と言っていますが、日本政府は、
「捜査の結果いずれも北朝鮮の関与が明らかだ。北朝鮮が消息を全く知らないと
いう説明はそのまま受けることはできない」と書いています。

 特定失踪者がいるかいないかという問題ではなく、日本政府が認定している4
人についても、北朝鮮は認めていないのです。北朝鮮は明らかに全員認めていな
いのです。そして政府は、「認定の有無に関わらず全員を助ける」と言っている
のです。

 認定していない人も助けるというのが、ここに書いてあるように政府の方針で
す。ただそれが何人なのかは分からない。政府がどのくらい北朝鮮内部の情報を
取っているか。それも勝負です。それを外に漏らしたら、北朝鮮は隠そうとする
でしょう。

北朝鮮の罠にはまってはならない

 最初の話に戻りますが、岸田総理の挨拶に、去年の10月から始まった、拉致
と核・ミサイルを切り離す、そして時間的制約という切迫感を北朝鮮に訴えると
いう岸田総理の戦略に、私たちも歩調を合わせて、「人道支援に反対しない」と
いう運動方針を出してアメリカに行って理解を得ることができたという枠組みの
中で、5月27日、29日に、岸田総理と金正恩委員長の意を体したと思われる
外務次官のやりとりがあった。ここまで来ました。

 しかし北朝鮮は、「解決済み」という建前は崩していない。しかし、「解決済
みじゃない」という人と「話し合う」と言っている。その時に、「8人死亡、4
人未入境」という姿勢を貫くのか、北朝鮮が出してくると思われる横田家につい
てはお孫さんのこと、そして家族のいない人(田中、金田)だけを出そうとする、
そういう変則球に乗って次に行こうとするのか。

 これは安倍総理が「危ない」と思って止めたことに、罠にはまってはならない。
だから私たちは繰り返し「一括帰国」と言っているのです。

 但し、その交渉は公開する必要はない。そして北朝鮮を必要以上に追い詰める
のもよくない。「赤十字が出したことで、過去にも赤十字が間違えたことがある
しょう」と、そういう迫り方でいいと今思っています。

◆「情報」が取れているかが勝負

 拉致問題対策本部ができたのは2006年で、そこには情報室があるわけです。
予算を使って様々な情報が蓄積されていると私は理解しています。それらは一切
出されていませんが、岸田総理のポケットにその情報を入れて是非平壌に行って
もらいたいと思っています。

 トランプ大統領が、ハノイ米朝首脳会談をした時、北朝鮮寧辺にある5千
キロワットの原子炉を廃棄すると言った。その横にあるウラニウム工場も廃棄す
ると言った。「だから制裁の8割くらいを解除してください」と。

 トランプ大統領は、「プルトニウムを作る原子炉は寧辺にしかない」と。これ
はかなり古いもので1986年に臨界したものですが、「しかし、濃縮ウラニ
ム工場は他にもあるでしょう」と。報道によると、「私たちは1インチレベルで
あなたたちが何をやっているか分かっているのですよ」、「あなたはまだ準備が
できていないようですね」と言って、ランチの約束をキャンセルして帰ってしまっ
た。

 それは、トランプ大統領がそう言える情報をアメリカの情報機関が取っていた
からです。地下にあるんです。地上にもある。それについて確実な情報を持って
いたから騙されなかった。

 逆に金正恩は情報を持っていないと誤解したから、自信満々でトランプ大統領
に会った。金正恩は列車でハノイまで行って、「絶対成功する」と思っていたの
です。普通は帰ってから報道しますが、出発する前に報道した。絶対大丈夫だと
思ったからです。アメリカは情報が取れていないと思ったから行ったのですが、
アメリカは騙されなかった。

 岸田総理をだまそうとしたら、具体的な生存情報があり、情報源のことがある
から全部は出せなくても、変なことを言ったら、「あなたは準備ができていませ
んね」と言えるかどうかです。

 「情報」を是非取ってほしいと思います。交渉では、基本的立場を貫いてほし
い。但し、北朝鮮を追い込むやり方ではなく、被害者を取り戻すことを最優先に
してほしいと思います。そして、秘密を守ってほしい。

 それが今、私が考えている岸田総理に望むことです。私たちはある面で歩調を
合わせて、総理としてあそこまで踏み込んだことを言ってくださったので、この
方針を続けてほしい。

 安倍総理の一周忌の行事等でも、「安倍さんがやろうとしてできなかった拉致
問題を引き継ぐ」とおっしゃっていますので、その強い意志を私は信頼していま
す。是非結果を出してほしいと思います。

 岸田総理もご承知の通り、親の世代の家族の方々も本当に高齢化されています。
そういう点では「時間的制約」があるのです。アメリカに行った時、「時間的制
約」と繰り返し言ったら、「タイム リミット」と訳されました。しかし、北朝
鮮にとっても「タイム リミット」なのです。

(4につづく)

 

■動くか北朝鮮-最新報告4

北朝鮮にとっても「タイム リミット」の2つの意味

 北朝鮮にとっても「タイム リミット」ということには2つの意味があるので
すが、親の世代がなくなった後にめぐみさんたちが帰ってきても、日本人は怒る
だけだと繰り返し言っていますが、2つ目は、北朝鮮が今人道支援を必要として
いるからです。それが食糧危機です。

 今市場で子どもの乞食がたくさんいます。物乞いもいっぱい出ている。90年
代後半300万人の餓死者が出た時と状況が似てきている。そういう中で、底辺
金正恩政権に対する不満が高まっています。

 おかしなことが起きているということなのですが、実は、4月に尹錫悦大統領
国賓として訪米し、北朝鮮の核ミサイルに対する米韓同盟による拡大抑止強化
についてバイデン大統領と話し合った。4月28日の両首脳の会見でバイデン大
統領は、「北朝鮮核兵器を使えば北朝鮮政権は終焉する」と発言しました。

 これがすごく北朝鮮に響いたそうです。バイデン大統領の発言はそのまま北朝
鮮では報道されないのですが、4月26日の会見について29日に、金与正副部
長が朝鮮中央通信社を通して米韓首脳を激しく非難する声明を発表しました。そ
して朝鮮中央テレビではその全文をアナウンサーが読み上げた。声明には次の一
節がありました。

「敵国の統帥権者が、全世界が見守る中で「政権の終焉」という表現を公然と直
接使ったことである。これを老いぼれのぼけと見るべきか」と。

 これを聞いた北朝鮮の住民は、「アメリカの大統領が北朝鮮の政権を終わらせ
ると言った。早くやってほしい」と。「政権」と言っていて、「北朝鮮の人民を
抹殺する」とは言っていないので、余計心に響いて、その話がわーっと広がって
しまい、保衛省(政治警察)が取り締まっている。

 なぜそんなことを言わせたのだ。誰の責任だ、ということになっている。本当
に今食糧がなくて餓死者が出ている状況なのです。1つは政策ミスで「新糧穀制
度」というのを導入したのですが、配給ができないので秋になって協同農場に行っ
て、党や軍や治安機関が持っていくわけです。

 しかし、農民たちにも食べるものが必要ですよね。だから配給に回す物がない
のです。ところがチャンマダンという市場には食料がある。北朝鮮人民の月給は
平均5千ウォンくらいですが、チャンマダンではコメ1キロ5千ウォンです。し
かし、チャンマダンで買って食べるしかないのです。

 党が決めた職場に男は出なければなりませんが、お母さんたちや老人たちはチャ
ンマダンで商売をしたりして食べている。それを見た党の幹部たちが、「チャン
マダンにはコメがあるじゃないか。それを配給に回せばいいじゃないか。チャン
マダンでコメを売ることを禁止しろ」という政策をとることになった。

 だから今チャンマダンにコメはないのです。だからと言って国家に安い値段で
売るか。売らないのです。持っている人は隠すんです。買いたい人たちがチャン
マダンに行って米屋を見ると、「ちょっと、こっちに来てください」と言って、
自宅に隠すとみつかるから、別の所に隠し倉庫があって、そこで売る。

 だから余計流通しなくなって、お金のない人が餓死する。コメはないわけでは
ないのです。でも先ほど言ったように通常の物価の百倍くらいで売り買いする。
ちょっとお金がある人は一番安い秋に1年分買う。もうちょっと金がある人は、
もっと余計に買う。高くなったら売る。差益で儲ける。

 しかし本当に貧乏な人はそれができないので、その日稼いだお金で、その日の
分を買う。今中朝国境が封鎖されているため、コメ以外の靴や服は中国製品だっ
たのですが、物が入ってこなくなったのでチャンマダンの取引量が縮小して、取
引ができなくなった。その人たちが死んでいく。

北朝鮮の内部情報

 それともう一つ、今の状況で深刻なのは、去年の秋から軍の将校、彼らは家族
持ちですが、家族への配給が止まった。安全員という警察官、保衛員という政治
警察の家族への配給がなくなった。

 今年の6月に軍の将校と、安全員、保衛員への配給が止まったという情報があ
ります。もちろん、その中で商売をやっている人は1年分買っていますから、す
ぐ彼らが飢え死にするわけではないのですが、配給があることを前提に買い占め
をしていない家もあるのです。そういう家は親戚の家にコメを借りに行く。

 肉や魚の配給は完全に止まっていますので、彼らは油気のあるものは一切食べ
ていない。栄養失調になっている。

 軍の兵士たちに配られる食料も量が減っているので、栄養失調が多く、夜にな
ると兵士が暴徒化している。日本のマスコミはそういうことを取材して書かない
のですが、6月15日に、イギリスの「BBC」がソウル発で、「北朝鮮の首都
でも近所の人が餓死-国民がBBCに苦境を語る」という記事が発信されました。
ある脱北者団体を使って、3人の北朝鮮市民にインタビューした。匿名ですがそ
の内一人は平壌の人です。

「首都ピョンヤン平壌)で暮らす女性ジヨンさんは、知り合いだった3人家族
が自宅で餓死したとBBCに話した。「水をあげようとドアをノックしたのです
が、誰も出てきませんでした」。当局者が中に入ると、家族は死んでいたという」。

「中国との国境近くに住む建設作業員の男性チャンホさんは、食料の供給があま
りに少ないため、彼の村ではすでに5人が餓死したと話した。最初は新型コロナ
ウイルスで死ぬのではないかと不安でしたが、そのうち餓死するのではないかと
心配になり始めました」。

北朝鮮は2600万人の国民に十分な食料を生産できたことがない。2020年1月に
国境を閉鎖すると、中国からの穀物だけでなく、食料の生産に必要な肥料や機械
の輸入も止まった。

 一方で、国境をフェンスで強化した。警備隊は越境しようする人を射殺するよ
う命じられているとされる。これにより、多くの国民が利用する闇市場で売る食
料を密輸入することが、ほぼ不可能になった。

 北朝鮮北部の市場で商いをしている女性ミョンスクさんは、地元の市場にはか
つて商品が並び、その4分の3近くが中国からの輸入品だったが、『今は空っぽ』
だと語った。

 ミョンスクさんも、密輸品を売って生計を立ててきた他の人たちも、収入のほ
とんどを失った。家族がこれほど食べ物に困っているのは初めてだと、ミョンス
クさんは言う。最近は、あまりに腹をすかせた人たちが彼女の家のドアをノック
し、食べ物を分けてほしいと訴えてくると話した。

 ピョンヤンのジヨンさんは、生活に行き詰まって自宅で自殺したり、山に入っ
て死んだりした人の話を耳にしたと述べた。

 ジヨンさんはまた、子どもたちを食べさせるのに必死だと話した。2日間食事
を取れなかった時には、寝ている間に死んでしまうのではないかと思ったという」。

 今飢饉が起きているのです。人道支援が必要なわけです。中国から支援がある
のではないかという話がありますが、あったらこんなことは起きないのです。北
朝鮮では90年代後半の「苦難の行軍」時代が来たとみんな言っています。

 日本には古米がいっぱいあります。それを出すことができる。人道問題、人権
問題だからです。しかし、「被害者を全員返す」という決断を金正恩委員長がす
れば私たちは反対しない。政府も、こういう人民の状況に同情するという立場で、
「必要であればすぐにも食糧支援ができる」と言いながら、交渉をしてほしいと
思います。

 チャンスが来ています。積み木細工のようなもので、崩れてしまうかもしれな
いと心配ではありますが、このチャンスを是非活かしてほしいと思います。
以上です。次に横田哲也さんのお話を聞きしたいと思います(拍手)。

◆今の韓国政権に向けて我々もアクションを起こすべき

横田哲也(横田めぐみさん弟、家族会事務局次長)

 皆さん、こんばんは。お忙しい中、お越しいただきありがとうございます。

 6月25日にこの場で特別集会があり、金聖●(キム・ソンミン、王へんに文)
さんを初めとする脱北者の皆さんに、北朝鮮の困窮状態の実情についてお話をい
ただきました。

 集会の後に懇親の場があり、色々話をうかがいました。私からある方に、「北
朝鮮に帰りたいですか」と聞いたところ、それまでずっと笑顔で対話していたの
ですが、その瞬間に表情が変わって、涙を流しながら、「帰りたくない」とおっ
しゃいました。

 その涙の意味には色々あるでしょうが、家族や友人が表現できないような苦難
を受けていることを思い出したのか、それとも本当は帰りたいのだけど帰る状況
ではないという悔しさがあったのだろうと思い、私ももらい涙をして、「なんて
辛い状況が目の前にあるのか」と思ったところです。

 懇談の場には、初代の韓国の家族会の会長の崔祐英(チェ・ウヨン)さんとい
う女性の方もおられたのですが、その方の発言を聞いている時に、韓国国内には
拉致を解決しようとする気運が全くない、国民の関心もまったくないとのことで、
半ばあきらめているような感じを受けました。

 気安く、「あきらめないで」とか「頑張りましょう」とか言えないのですが、
「とにかくあきらめないでほしい」と申し上げました。日本の拉致問題が解決す
れば、連動して韓国の拉致被害者や、その他の外国人の拉致被害者の問題も解決
すると見るのか、今の韓国の政権に向けて、我々もアクションを起こすべきだと
思いました。改めて、これは放っておくべきでないと思いました。

 西岡先生から食糧支援の話がありましたが、昨日、おとといのニュースを見て
いても、北朝鮮の地方都市で餓死者が出たり、生活苦にあえいでいるというニュー
スが出ており、テレビへの信頼が揺らがないためにも、党の中央組織が地方の幹
部に対して「自己批判をしろ」と、「何が悪いか考えろ」という文書が出ていた
そうです。

 地方の幹部が悪いわけではなく、党の中央あるいはトップの政策が悪かった結
果であり、そういうニュースを見る時も、本当に不幸な国だなと、いつまで茶番
劇をやっているのかと思ったところです。

◆岸田総理が胸を張って交渉に臨めるよう後押しを

 昨年9月27日に、安倍元総理の国葬儀がありましたが、私は個人的に参加す
ることができなかったのですが、今月の7月8日に一周忌があり、これには参加
させていただくことができました。

 安倍さんは、拉致問題解決に向けて誰よりも取り組んで来た方で、総理を退い
てからも非常に影響力のあった政治家ではないかと思っています。日本にとって
も私たちにとっても非常に貴重な人材が、一人の見当違いの人間によって命を絶
たれたことは、残念でならないと改めて思いました。

 一周忌に参加された方への返戻金が安倍家からなされたのですが、その中の一
つにブルーリボンバッジが入っていました。これを受け取った時に、安倍元総理
は何としても拉致問題を解決したいという思いがあったということと、それを間
近でご覧になっていた昭恵夫人もおれらました。このお二人の思いを、何として
も成果を出すべく、改めて拉致問題解決に向けて全力で戦わなければならないと
思った所です。

 安倍総理亡き後、菅総理、岸田総理も、拉致問題を政権の最優先事項として取
り組んでいくと話されました。5月27日の国民大集会では、岸田総理が、「首
脳会談を実現すべく総理直轄のハイレベル協議を行いたい」との発言がありまし
た。

 そうは言いながら、北朝鮮政府が何を考えているのか分かりませんが、とにか
くトップ同士の会談が行われて、日本政府が騙されたり、安易な決着をはからな
いようにしてほしいですし、注視していきたいと思います。

 ユーチューブ等で色々な動画が出ていますが、安倍元総理が、「花は咲く」と
いう曲をピアノで弾いているのがありました。本当に悲しく思うのですが、拉致
問題で撒いてきた様々な種が結果として出るように、立派な花が咲くように、で
きることを粛々として働きかけを続けていきたいと思っています。

 そのためにも国民の後押しが一番大事ですので、ご参加の皆様、動画をご覧の
皆様、政府への後押しをもっと頑張れ、こうしなければだめだとおっしゃってい
ただければ、岸田総理も胸を張って交渉に臨めると思いますので、引き続きお力
をお貸しいただければと思います。ありがとうございました(拍手)。

以上




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