「しかし浜松市で開かれた鈴木康友候補の出陣式は、ある意味で圧巻だった。鈴木候補の立つ演台の真ん前に一人、椅子に座ったスズキの鈴木修相談役が陣取り、応援に駆けつけた野田佳彦元首相は修相談役と立ったまま向き合う形となった。かつて一国の首相まで務めた人物が、あたかも修相談役の部下か子分のような扱いだった。まさに修相談役の威光を見せつけるかのようなシーンだったね」
鈴木候補の支援に回っている、労働組合組織「連合静岡」の幹部が、苦々しげにこう言う。
改めて指摘するまでもなく、修相談役といえば、鈴木候補にとって最大・最強の後ろ盾となっている人物だ。今回の知事選の行方を左右するキーパーソンと言ってもいいだろう。その人物が、選挙戦初日から陣頭指揮を取り始めたのである。
静岡県内のリニア中央新幹線の工事をさまざまな理由をつけ、認めてこなかった川勝平太前知事の後任知事を選ぶとあって、全国的に注目を集めることとなった静岡県知事選だが、先週9日に告示され、選挙戦は本格的なスタートを切った。
この選挙に出馬したのは新人6人で、静岡県知事選史上最多となった。
とはいえ、選挙戦の基本構図は、立憲民主党、国民民主党、そして連合静岡が推薦する鈴木氏と、自民党が推薦する大村慎一氏による事実上の一騎打ちとみていいだろう。
「立憲民主党や国民民主党はしきりに『与野党対決』の構図に持ち込もうとしているが、地元の自治労や日教組が大村氏の支援に回っており、地元静岡では誰も与野党対決なんて形では見ていない。ましてや鈴木氏の選対本部長に就任した人物は、片山さつき参議院議員の後援会会長を務めているだけになおさらです」(浜松市に本社を置く企業経営者)
もっとも立憲民主党と国民民主党サイドは、先の衆院補選で立憲民主党が全勝した勢いを持ち込もうと、しきりと「政治とカネの問題」を強調し、与野党対決の構図を煽(あお)り立てようと躍起になっている。
「とはいえ多くの静岡県民は口にこそ出して言わないが、大物財界人である修氏が県政に大きな影響力を行使してきたことを知っています。そうした意味で言うと今回の静岡県知事選の最大の争点は、今後もその体制を続けていくのか、それともリセットするのかが問われていると言っていいでしょう」(前述の企業経営者)
もっとも、静岡県における知名度という点では、政令指定都市である浜松市の市長を4期16年に渡って務めてきた鈴木候補が他の候補を圧倒していることも事実だ。このことから選挙戦序盤では、鈴木候補が優位に立っていることは間違いない。
「国政選挙と地方自治体の首長選挙では、有権者の受け止め方がまったく違う。そこを見誤ると、勝てる選挙も落とすことになりかねない」(連合静岡関係者)
果たして、選挙結果はどのようになるのだろうか。(ジャーナリスト・須田慎一郎)
【静岡県知事選立候補者】
(届け出順)
横山 正文56 政治団体代表諸新
森 大介55 党県委員長 共新
鈴木 康友66 元浜松市長 無新
大村 慎一60 元副知事 無新
村上 猛73 自営業 無新
浜中 都己62 会社社長 無新