兵庫県の斎藤元彦知事をめぐる内部告発問題。私たちは犯人捜しの詳細を記録した文書を独自入手しました。告発者はどのように追い詰められ、亡くなってしまったのか。実態を検証します。
A氏の聞き取りを担当した片山副知事(当時)「名前が出てきた者は一斉に嫌疑掛けて調べなしゃあない」
兵庫県の斎藤元彦知事を告発した元県民局長のA氏。どのように告発者と特定され、追い込まれていったのか。
今回、報道特集は新たに、A氏への聞き取り調査などの詳細を記録した3つの内部文書を独自に入手した。
1つ目は、片山安孝副知事(当時)がA氏を聴取した際の内容。
2つ目は、同じく聴取対象となっていたB氏に、A氏が電話をした際のやりとり。
3つ目は、A氏が「自分が告発者だ」と明かした県幹部への電話の記録だ。
報道特集が2024年8月に入手したマニュアルによると、聞き取り対象は3人。A氏を担当していたのは当時の片山副知事だった。
1つ目の文書には、その片山副知事によるA氏への聞き取りの全容が記されている。
聴取は西播磨の県民局長室で行われ、45分間に及んでいた。
片山副知事
「どういうことや、説明してくれ」
A氏
「やってません」
片山副知事
「もう1回聞くけど作ってないんかい」
A氏
「知りません」
A氏を執拗に問い詰める片山副知事。
A氏は、告発文を作成・配布したのは自分ではないと否定していた。
すると片山副知事は、A氏のメールに告発文に似た内容が書かれていたことを挙げ、こう迫っている。
片山副知事
「これとほとんど一致するような内容で、知事を告発するような文書が県庁に届いたんや。なんでそこでお前のとこにこんな物があるんや。全く一致する物が」
A氏
「でも、これってみんなあちこちで言ってる話ですやん」
片山副知事
「何を言うとんねやお前、ほんまに作った覚えはないと言い張るんか。ないこと、あることな、まあ、ないことの方が多いけどさ、推測的なこともあるかもしれへんけど、警察に持ち込もうかと思ってる。一切知らんて最後まで言うの?」
A氏
「たしかに、これは情報をね、集めてというのはしましたけど」
A氏は、メールは、噂話などをまとめて書いただけで、告発文を作ったのは自分ではないと繰り返し否定した。
その後、片山副知事は、聞き取りの対象となっているB氏にも影響が及ぶことを示唆し始める。
片山副知事
「名前が出てきた者は一斉に嫌疑掛けて調べなしゃあないからな。いろいろメールの中で名前出てきた者は、皆在職しとるいうことだけ忘れんとってくれよな。まあ、手始めにBあたり危ない思うとんやけどな」
この発言について、百条委員会で人事権をちらつかせた脅しだと追及されると…
片山 前副知事(9月6日)
「そのときの一つ一つの発言について厳しいところがあったことは委員長ご指摘の通りだと思います。その点は反省しております」
A氏とB氏の電話のやりとり 県幹部らが質問を指示「告発文はAさんが撒いたんですか」
次に報道特集が入手した2つ目の文書。この聴取の直後に交わされた、A氏とB氏の電話のやりとりだ。
A氏がB氏に電話をかけたとき、B氏は、県幹部ら2人から聴取を受けている最中。
幹部らに通話をスピーカー状態にするよう指示されていた。
A氏
「片山さんが来て、取り調べを受けて、調べていたことがあって、このあいだ、それを文章にまとめたみたいなことをしたんやけど、それがバレて」
B氏
「えっ、Aさんがやったんですか」
A氏
「そうそう。Bちゃんがつながっているんじゃないかと、いろいろ勘ぐっていたから、ちょっと気にしとって」
A氏は、B氏が聞き取りを受けている最中であることを知らなかった。
県幹部らはB氏にA氏への質問を指示する。
※ここより、部長がメモ等で指示した内容をB氏が聴取
B氏「えっ、告発文はAさんが撒いたんですか」
A氏「うん。ここだけの話」
B氏「それって、警察に撒いたんですか?」
A氏「警察と議会とマスコミ」
県幹部らは、さらに協力者がいるのではないかとB氏に質問させる。
B氏「荒ちゃん(荒木 元副知事)も絡んでいるんですか」
A氏「絡んでへん」
B氏「ほかの県民局長も、なんもなく、Aさんだけで?」
A氏「そう、僕単独でやってん。事実上な」
県幹部らが協力者ではないかと疑っていたのは、荒木一聡元副知事。実際はどうなのか。話を聞くと…
荒木一聡 元副知事
「どういう意味で言われたのか、よく分からないけれど、事実無根だし、職員が辛い思いをしているんじゃないか。申し訳ないけど、早く職員が元気でやっていくことが、県庁が元気になることだと思う」
「お咎めがあるとしたら俺だけ」県幹部に自らが告発者だと認めたA氏
そして、3つ目の文書。B氏との電話の約2時間後、A氏は県幹部に電話をかけ、自らが告発者だと認めたことが記されている。
A氏「さっきはしらを切ったが、俺がやったからあんまり調べんといて」
県幹部「A局長が一人でやったということですか」
A氏「俺が一人でやってん。それがほんまやから。だからお咎めがあるとしたら俺だけやんな」
県幹部「そのあたりをどう判断するかですが。また、おいおいお聞きするかもしれません」
A氏「ごめんな、こんな時に迷惑かけて。そっとしといてくれたらよかったのに」
斎藤知事の疑惑をA氏はどのような思いで告発したのだろうか。告発の1か月前、県のホームページに掲載されたA氏のメッセージがある。
県民局長メッセージ(2月)
「気がつけば、権力者の周囲には二流、三流のイエスマンが主流を占めている状況に。(中略)そのような組織の腐敗・内部崩壊も外部にはなかなか伝わりにくく、不祥事、事件の発生といった出来事でようやく世間の知るところとなるのです」
告発の4か月後、A氏は、亡くなった。自殺とみられている。
“補助金の見返りにパレードの寄付金を募った”とA氏は告発「司令塔は片山副知事」
A氏の告発文には2023年11月に兵庫県と大阪府の合同で行われた阪神・オリックスの優勝記念パレードについても書かれている。運営費用には、公費を投入しない方針が打ち出され、すべて個人や企業からの寄付金でまかなわれたのだが…
告発文
「信用金庫への県補助金を増額し、それを募金としてキックバックさせることで補った。具体の司令塔は片山副知事」「パレードを担当した課長はこの一連の不正行為と大阪府との難しい調整に精神が持たず、うつ病を発症」
企業からの寄付金集めを担当していた課長は、その後亡くなっている。
元職員が寄付金集めの当時の状況について話してくれた。
元県庁職員
「寄付が全然集まらない、大変だ、という話は言われていて、どないするんやろう?と思っていた」
県はパレード後も寄付を求め続けたが、状況は突然変わったという。
元県庁職員
「『プラスにかたが付きそうや』と。ポンとお金が出るわけがない。なんかするんやろうなと感じた」
当時、県は中小事業者を支援した件数に応じて、金融機関に対し支払う補助金の予算化を進めていた。A氏は、この補助金の見返りに金融機関からの寄付金を募ったと告発したのだ。
この補助金の予算は当初、約1億円の方針だった。
しかし、その後、片山副知事から4億円程度に予算を増額するよう口頭で指示されていたことが内部文書で判明している。パレードの約1週間前の出来事だ。
パレードの寄付金の受付時期を記した内部文書がある。ここにも不可解な点があった。
パレード前に寄付を申し込んでいた金融機関は2社のみだったにもかかわらず、パレード後になって11社も増えている。
300万円の寄付をしたという信用金庫の幹部は…
信用金庫の幹部
「片山副知事が本店に来られて『資金が不足しているので、改めて協賛(寄付)をお願いできませんか?』と。メリットなんて考えていません。地域の金融機関として協力しました」
私たちは、寄付をしていて、かつ補助金を受ける予定の13の金融機関へ質問状を送り、8社から回答を受けた。そのうち県から直接依頼されたケースは3社あったが、8社すべてが寄付金と補助金の関係性を否定した。
一方で、ある信用金庫の関係者から、こんな証言も得た。
信用金庫の関係者
「副知事から『寄付金が足りてないのだが、赤字を出す訳にはいかない。寄付できないか?補助金はしっかり出しますんで』と言われたそうだ。そう言われたら数百万の寄付は断れない。キックバックというより、補助金で釣られた」
片山前副知事に話を聞こうと自宅を訪ねた。庭先に出ていたが、記者の姿を見ると中に籠り、そのまま応答することはなかった。