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日本企業が抱える「3つのチャイナリスク」



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反日デモで改めて露呈
日本企業が抱える「3つのチャイナリスク


20121005日(金)石 平
 去る9月、日本政府の尖閣国有化を受け、中国国内で史上最大規模の反日デモが起きた。デモが暴動化し、日系企業の工場や商業施設での破壊・略奪行 為が公然と行われた。それと同時に、中国政府公認の下で国内の日本製品不買運動が起こったり、日産やホンダなどの日系自動車メーカーの中国市場の販売台数 が大幅に激減したとの報道もある。また、中国からの観光客の激減、突如の団体旅行キャンセルによって日本全国の温泉街や旅館、そして航空各社が悲鳴を上げ ている。
 国有化1カ月前には予想もできなかったこのような深刻な事態は、いわば「チャイナリスク」の恐ろしい実態をわれわれの目の前に晒しだした。それは、多くの日本企業が「チャイナリスク」について真剣に考えるようになるきっかけも作ったのではないだろうか。
 このコラムでもここで一度、問題点を整理しながら、いわゆる「チャイナリスク」とは何かについて考えてみようと思う。
尖閣だけにとどまらない「日中関係のリスク」
 日本企業にとってのチャイナリスク1つは、やはり「日中関係のリスク」であろう。
 日中国交正常化以来の40年間、日中関係はさまざまな問題点を抱えながらも何とか小康状態を保ち続け、その中で日本企業の対中ビジネスは拡大の一 途を辿ってきた。しかし今後、まさに「尖閣問題」というパンドラの箱が開けられたことによって、日中関係の平穏無事の時代はもはや過去のものとなったでは ないかと思う。
 実際、中国政府はすでに「領土問題は半歩たりとも譲歩しない」と宣言しており、今後は巡視船による尖閣海域への侵入を常態化させるなど、長期戦も 辞さない構えである。もちろん日本側としても国有化の撤回や実効支配の後退などの妥協はできるわけもなく、「尖閣」を巡る日中間の攻防が、出口の見えない 持久戦に入っていく見通しだ。そしてその中で、2010年秋の尖閣漁船衝突事件のような突発的な事件の発生や双方の小競り合いから生じてくる対立のエスカ レートは、いつでも起こる可能性がある。つまり今後は、日中関係にはいつでも緊迫した状況になるような危険性が潜んでいることになる。何か起きるたびに、 日本企業は深刻なリスクに直面することになるだろう。
 つまり「尖閣問題」の1つを取ってみても、日本企業の対中ビジネスにとって、日中関係の悪化から発するところのチャイナリスクは、「ひょっとした ら起きるかもしれない」という程度の偶発的なものではなく、むしろいずれ必ず起きるような必然性のあるものへと変質しているのである。
 しかも、日中関係の悪化や緊迫をもたらす要因は「尖閣」だけには限らず、いわば「歴史問題」や東シナ海のガス田開発問題など、日中間の火種はいくつかある。
教育で浸透 「反日感情のリスク」
 「日中関係のリスク」と並んで、日本企業の対中ビジネスが抱えるもう1つのチャイナリスクはすなわち「反日感情のリスク」である。
 周知のように、1990年代以来、中国共産党政権が国内において反日教育を組織的・計画的に行ってきた結果、このような教育の中で育った20代、 30代の中国人の間にはかなり激しい反日感情が浸透している。尖閣国有化後に中国で起きた史上最大規模の反日デモの主な参加者はまさに彼ら、20代、30 代の若者であった。
 そして今回のデモ発生と拡大のプロセスを見れば分かるように、普段はなかなか見えてこないこのような反日感情は、何らかの事件をきっかけにして突 如爆発し、大きな破壊力をもって中国在住の日本人や日系企業を襲ってくることになる。また、現在の中国国内で広がっている日本製品不買運動にしても日本 への観光客が大幅に減少している背後にも、中国人の根強い反日感情が動いているのであろう。とにかく、「反日感情」という目に見えない怪物は、日本企業の 対中ビジネスにとって常に厄介な存在である。
破壊、略奪行為を容認
法治国家でない」というリスク
 反日デモの件とも関連して、日本企業にとってのもう1つのチャイナリスクはすなわち「中国が法治国家でないことのリスク」である。
 中国に進出している日本企業なら、日頃所在地の地方政府や地方幹部の法を無視した横暴や従業員たちの法的意識の薄さに悩まされている経験も少なく ないだろう。今回の反日デモでは、警察の目の前で日系企業の商業施設や工場に対する破壊や略奪が堂々と行われたのは周知の事実である。普通の法治国家なら ば信じられないような光景が中国では目の前の現実となっていた。
 中国の法的秩序を維持して内外の企業や人民の安全を守る義務を有する中国政府は、その時には事実上自らの義務を完全放棄して違法的破壊行為や略奪を容認していた。つまりこの国は、場合によっては完全な無法地帯と化してしまうこともあり得るのである。
 しかも反日デモ収束後、莫大な損害を被った日本企業に対し、中国政府は責任を取って賠償するつもりはまったくない。それどころか、お詫びの一言す ら発していない。「全ての責任は日本政府にある」と当の中国政府が言っている程だ。この国はまったく、世界の基準から大きく外れた「無法国家」なのであ る。
 このようなとんでもない「無法国家」に、日本の企業が安心して根をおろしてビジネスができるのか、まったくの疑問なのである。
インドでは見られない「3つのリスク」
 以上のように、日本企業の直面するチャイナリスクを、日中関係のリスク」、「反日感情のリスク」、そして「法治国家でないことのリスク」とい 3つの側面から捉えてみたが、考えてみれば、それらのリスクはことごとく、日本企業の対中国ビジネスだけが抱えるような独特なリスクなのである。
 同じアジアでも、たとえば日本企業の対インドビジネスの場合、インドと日本との間では領土問題も歴史問題も存在しないから、まず「日印関係のリス ク」はない。そしてインド人には「反日感情」があるとはあまり聞かないので、このリスクも心配ないであろう。民主主義国家のインドは、中国と比べればきち んとした法治国家でもある。もちろん、インドにはインドならではのリスクがあると思われるが、上述の「3つのリスク」を心配する必要はほとんどない。だ が、対中国ビジネスとなると、それらを全部、抱え込むことになるのである。
 それでも日本の企業は今後、競って中国への進出を図りたいと思っているのだろうか。もしそうであれば、摩訶不思議に思うばかりである。