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「独裁者の娘」を迎える米国の険しい目 1/2


韓国の朴瑾恵大統領がワシントンで初の米韓首脳会談に臨み
マスコミは 日本の歴史認識を 他国との会談にあげたことを大きく取り
上げているが、こういう情報もある。


「独裁者の娘」を迎える米国の険しい目
核武装目指した父を追うのか
201359日(木)  鈴置 高史 

 「日経ビジネスオンライン
 韓国の朴瑾恵大統領がワシントンで初の米韓首脳会談に臨んだ。「独裁者の娘」を迎える米国の眼差しは必ずしも温かくない。
クーデターで権力を握った父
北朝鮮対策などについて話し合う米韓首脳(現地時間57日、写真:ロイター/アフロ)
 「朴(瑾恵)は、1961年に軍事クーデターで権力を握り1979年まで韓国を支配した朴正煕の娘だ」
 米議会調査局(CRS)が426日に発表した「米韓関係」と題する39ページの報告書の一節(2ページ)だ。行政府のそれとは異なって、韓国に対する米国の懸念を率直に書いている。筆者はアジアや核不拡散、通商の専門家5(注1
(注1)「米韓関係」報告書はこちら。
 この報告書ではっきりと、あるいはさりげなく表明された韓国に対する米国の懸念は、大きく分けて以下の3つだ。
韓国も核兵器を持ちたいのか
1】北の核より南北を優先?
朴 瑾恵大統領は一種の対北融和策である「朝鮮半島信頼醸成プロセス」を公約に掲げ当選した。しかし、就任直前の20132月に北朝鮮が核実験を実施。成功 した可能性が高いというのに、朴瑾恵政権はそれを降ろしていない。米国の疑念はそこから生まれている。報告書は「米国の一番の関心事である非核化と、韓国 の対北接近とを朴政権がどう調整するかが基本的に不明である」(3ページ)などと繰り返し疑問を呈した。
2核武装に走るのではないか
報 告書ではずばりとは書いていない。しかし、「2013年の北の核実験は韓国の自前の核抑止力保持への希求を呼んだ」(3ページ)と指摘。さらに、米韓原子 力協定について4ページ分も説明に割いた。韓国は、核保有に道を拓くウラン濃縮の権利などを求め、同協定の改定を強く要求している。報告書は「多くの韓国 の官僚と 政治家が、民間の核活動にまで米国の許可が要るのは米国によって韓国の主権が制限されていると見ている」(28ページ)とも書いた。読む人が読めば、韓国 の 核武装への根強い志向が分かる仕組みになっている。
3】離米従中に動くのでは?
「多くの韓国人が、米国に妥協し過ぎと感じ米 国の影響に憤慨し不満を募らせている。韓国人は、中国を敵対視する米国の政策に引きずりこまれそうになることを懸念し始めた」(9ページ)。「韓国の民主 化は進展しており、外交政策において世論がますます重要になっている」(7ページ)。
米国こそ、いざと言う時に降りた
 いずれも韓国にすれば大いに反論したい指摘だ。【1】の「非核化よりも融和」に関しては、韓国人なら「米国こそ、そうじゃないか」と言うだろう。
 2003年から始まった、北朝鮮の核問題を話し合う6か国協議でも米国はいざという時に弱腰になった。このため「米国に敵対する国やテロリストに北が核を渡しさえしなければ、米国は北朝鮮に核保有を認めるのではないか」という疑惑が韓国には燻ぶるようになった。
  そのうえ米国は韓国の頭越しで北と妥協することもあった。韓国メディアは、2012229日の米朝合意に関して韓国はきちんと相談されていなかったと 示唆している。米国に従って韓国が対北強硬策をとっても、いつ米国に梯子を外されるか分からないという恐怖を韓国は持つ。
 【2】の「核武装」も韓国人には反論があるだろう。アンケート調査では、20132月の北朝鮮3回目の核実験の後、韓国人の3分の2核武装に賛成するに至った(「今度こそ本気の韓国の『核武装論』」参照)。
  だが、それとて「米国が本気で北の核武装阻止に動いてくれなかった結果」と韓国人は考える。である以上は、米国に非難がましく言われるのは不快極まりな い。ちなみに、米国が核の傘を保障すると言ってくれてはいるが、米国の退潮を考慮すれば期待しにくいのだ(「『中国に屈従か、核武装か』と韓国紙社説は問 うた」参照)。
 【3】の「離米従中」も北の核武装が加速した。「北の非核化を米国に期待するのは現実的ではない。米国にそんな影響力はもうないからだ。だったら、世界で影響力を増す中国に頼むしかない。もう、中国に逆らうわけにはいかない」と韓国人は考え始めた。
「相性」にこだわる報告書
 韓国人はこの報告書を相当な違和感をもって読んだようだ。ことに米韓の両大統領の「相性」に疑問が投げかけられた点だ。
 報告書は1ページ目で「オバマ大統領と李明博前大統領の良好な個人的つながりにより米韓は例外的に強力な関係にあった」とした後「朴瑾恵大統領のもとでも米韓が利益と政策の優先順位を共有でき、個人的な相性もいいのか見守る必要がある」と書いている。
 中央日報の記事「朴瑾恵・オバマ平壌を見る視線、ワシントンで調整期待」(53日付)はこの「相性」に注目したうえ、駐米韓国大使館関係者の「首脳会談を契機に誤解を払拭し、相性も合うことを期待する」との談話を紹介した(注2
(注2)この記事は日本語でも読める。日本語の記事はこちら。
 なぜ、米議会の報告書はこれほどに「相性」にこだわるのか。韓国メディアは自国の大統領に配慮してであろう、一切触れないが、米国は「朴正煕の影」を見ているからに違いない。
  朴正煕少将がクーデターで政権を奪取した時から暗殺されるまでの18年間、米国にとって彼は悩みの種であり続けた。「自由主義陣営に属し北朝鮮と対峙して いるからといって、言論の自由を制限し不当逮捕と拷問を繰り返す朴正煕を助けるべきではない」という国内外からの強い批判に米国の歴代政権は直面したの だ。
米国が抱く既視感
 米議会の報告書もその記憶をきちんと書き留めている。「朴瑾恵の父、朴正煕の時代は評価が難し い。1つは世界の最貧国を工業国家に造り変えたという側面。もう1つは鉄拳を持って支配したという側面である。彼は反対者あるいはそう思われる人々――野 党政治家、労組の活動家、市民運動のリーダーを弾圧した。例えば、1970年代初期に韓国の情報機関は2度に渡って野党指導者、金大中を殺そうとした。な お、2度目は米国の介入によって命を救われている。朴政権下で始まった分裂は今日も続いている。韓国の保守派は彼の成し遂げた経済発展を強調する。一方、 進歩派は彼の人権侵害を問題にしている」(31ページ)。
 クーデターで独裁政権を築いた父親と、公正な選挙によって大統領に就任した娘を米国が同一視しているわけではない。しかし、娘の頑固で容易に妥協しない性格は父親譲りと言われている。何よりも、米国は朝鮮半島情勢に既視感を抱き始めていたところだ。
 1970年代、朴正煕政権は秘密裏に核とミサイル開発に邁進した。それが放棄されたのは、197910月に朴大統領が中央情報部(KCIA)の金載圭部長に暗殺され、権力を継いだ全斗煥大統領に米国が強い圧力をかけたことによる。
 そして今、娘の朴瑾恵大統領は「ウラン濃縮を韓国にも認めるべきだ」と談判を始めた。それだけではない。北朝鮮が核保有したと思われるのに、韓国はまだ融和政策にこだわっている。
 南北共同で運営する開城工業団地に対しては国際的にも批判が高まった。「北朝鮮独裁政権に外貨を手渡す延命パイプ」だからだ。しかし、朴槿恵大統領の訪米直前まで韓国は操業を続けようとした。
 父親は1972年、厳しく対立していた北朝鮮金日成主席との間で「7.4声明」という和解宣言を突然に発表した。核武装への試みと同様、米国に見捨てられるとの危機感を深めた結果だ。
老獪な中国はただで汗はかかない
 当時、米国は米中関係の改善も視野に在韓米軍の削減に動いていた(注3。一方、金日成も米中接近という国際環境の激変により、国際的にも国内的にも自身の生存の余地が狭くなることを恐れ、宿敵との和解に応じたと思われる。
(注3)在韓米軍削減に関しては『大統領の挫折』(村田晃嗣有斐閣)が詳しい。同書は第21サントリー学芸賞などを受賞している。
 今、中国もようやく北の核問題に本腰を入れ始めた。核問題に限らず米中が朝鮮半島の将来像を決めていく可能性が強まった(「『北の非核化、米軍撤収』で手打ち~架空・米中首脳会談」参照)。
  2つの大国が核問題を解決してくれるのなら韓国にとって大いに幸いだ。しかし、老獪な中国がただで汗をかくとは思えない。北の実効支配を認めろとか、在韓 米軍撤収を米国に言い出す可能性が大きい。面倒くさくなった米国は、それを呑むかもしれない(「米国が韓国に愛想を尽かす日」参照)。
 韓国の大統領としては、今こそ同民族の南北が意志疎通を図り、周辺大国に自分たちの運命を任せないという決意を見せるべき時だろう。そして大国に挟まれた小国が決意を実現するには核兵器という力がいる。少なくとも41年前には、朴瑾恵大統領の父親はそう考えたのだ。
 米議会委調査局の報告書は米政界に向かって「北朝鮮に関し、米国とことごとく意見を同じくした」(9ページ)李明博前大統領とは異なって、朴槿恵大統領は父親と同様に一筋縄ではいかないぞ、と警告を発しているのだろう。

続く