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「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成26(2014)年3月6日(木曜日)
通巻第4173号
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朱建榮事件がなにを意味するか? 中国のメディア規制強化
米国人ジャーナリストを追放し、言論の自由を無視する北京の狙いは奈辺に?
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朱建榮が七ヶ月の長期拘束のあと、ようやく釈放され日本に帰還した。しかし彼は一切を語らず獄中の取り調べで何がなされたかは不明のまま、中国の言論弾圧と、その盗聴、防諜、間諜というスパイ行為の闇を覘かせた。
ニューヨークタイムズの辣腕記者、オースチン・ラムゼイ北京特派員は「ヴィザの滞在期間が切れた」という理由で2014年一月に中国から事実上追放された。かれは温家宝前首相一家の不正蓄財を克明に暴いた。
中国国内では共産党幹部らの不正・腐敗を報道した新聞記者、ブロガー、編集者が30名以上拘束され、なかには懲役刑で獄中にある記者もいる。
また香港『明報』編集者は、暴漢に襲われ重症を負った。これに抗議する香港市民は『言論の自由』を求めて二万人ちかくが抗議デモ行進を繰り返した。「こんなメディア操作をする国がAPEC議長国になる資格があるのか」と。
香港の人権グループは習近平一家の汚職は300億円以上ののぼっていると全人代へ告発した。
中国の影響力が強いカンボジアでも政権の腐敗、汚職をあばいた記者スオン・チャンが2014年2月に殺害された。ベテラン外国人記者のディブ・ウォーカーは行方不明となっている。
「フィリピンでは1992年以来、じつに70名のジャーナリストが殺害されている」(アジアタイムズ、2月27日)
現在、世界中の3000のメディアが中国の妨害にあっている。具体的には中国に都合の悪いニュースを切断し、インターネットが繋がらないようにある。NHKの画面がときおりまっ黒になる。あれと同じである。2001年の上海APECでもロイター、CNN、BBCなどが電波妨害をうけた。
さらに主要なメディアのHPへのサイバー攻撃がなされている。
全人代前日の記者会見で中国は、「南沙、西砂、スカボロー岩礁などへの中国の侵略」について質問が飛ぶと、「中国は挑発を受けている」とあべこべの回答をなすほど、心臓に毛が生えた態度にかわりはない。
記者会見においても、一方的プロパガンダで、国民を洗脳しているのである。だから中国の学生、インテリは政府発表の公式見解をまったく信用しなくなった。
全人代ではことしの経済成長を7・5%目標とした。この数字を達成できないことは、いまや誰の目にも明らか、マイナス成長の可能性がある。
にも関わらず中国は軍事予算を二桁増加させ、8080億元(邦貨換算で13兆4000億円)とした。
2011年に10・7%、12年は11・2%、そして13年は10・7%、今年度予算は12・2%増の8080億元という異常な突出ぶりだが、ことしから国内治安対策費より、国防費のほうが多くなった。
▼日本政府、情報戦での反撃を開始
日本政府も安倍政権になってから、従来の「沈黙は美徳」の殻をやぶって日本の立場を鮮明にするメッセージの発信を開始した。管内閣官房長官は2014円3月4日、「ニューヨークタイムズの偏向報道に抗議と反論の掲載を要求した」ことを明らかにした。
これは2月26日の同紙が安倍晋三首相の靖国神社参拝を強く批判し「中国、韓国との緊張をさらに高める「危険なナショナリズム」だとした社説である。
同紙は「アジアに必要なのは各国間の相互信頼であり、安倍氏の行動はその信頼をむしばむ」と中国の主張のような批判を述べるとともに、他方で、「尖閣諸島の領有権や慰安婦問題をめぐる中韓両国の対応が日本国民に軍事的脅威を感じさせたり、不信感を抱かせたりしているとも指摘。問題解決のため、中韓首脳は安倍氏と会談すべきだ」と中国韓国への批判も併記した。
しかし、問題なのはニューヨークタイムズが「安倍氏の究極の目標は日本の平和主義的な憲法を書き換えることであり、日本の軍事的冒険は、米国の支持があって初めて可能となる。米国は安倍氏のアジェンダ(政策課題)は地域の利益にならないことを明確にすべきだ」とオバマ政権に注文を付けていることだ。
▼このままでは日本の悪印象が世界にひろがってしまう
ロンドン駐在の林景一大使は『ディリー・テレグラフ』(1月6日)に寄稿し、「軍事拡大を継続する中国は、あたかもハリー・ポッターにでてくる闇の帝王、『ヴォルデモート卿』の役割を演じている」と批判しつつ、「挑発ではなく対話を」と中国に呼びかけた。
林大使は続けて、「中国の戦争行為と受け止められる軍事的挑発に日本は最大限の自制で絶えてきた。戦後の日本は一貫して民主主義と人権尊重の道を歩んできている。安倍首相の靖国参拝は不戦の誓いであり、日本には軍国主義の復活はあり得ない」と強く苦言を呈した。
李克強首相が全人代初日の演説で、「歴史認識」で安倍政権を批判したが、日本政府は直ちに菅官房長官が記者会見で「わが国は歴史を逆行することはあり得ない。戦後、一貫して自由と平和と民主主義の道を歩んでいる」と強く反論した。
菅長官は中国の軍事費と日本の防衛費を比較しても、中国はあまりに不透明であるとして、真正面から反論し、悪い印象の意図的な拡大を防ぐという安倍政権の姿勢を示した。
昨師走の首相の靖国神社参拝以降、一部の欧米メディアが「日本が右傾化している」とまるで中国の新聞のように批判報道がなされているのは、中国が世界的規模で日本批判のプロパガンダを展開しているからだ。
このため日本は事実誤認や一方的な見解に基づく中国の主張に逐一反論する方針に切り換え、中国の不正義、邪しまな試みには、正正堂堂の「言論戦」で対抗する姿勢である。