中国チベット自治区は、成立から50年を迎えた。習近平(シーチンピン)指導部は共産党がもたらした「豊かさ」と民族の団結を訴える一方、宗教への介入を強める構えだ。チベット族居住地域を訪ねると、信仰と民族の誇りを守ろうとする人々が抑圧への抵抗を続けていた。
しかし、インフラや人材などの不足から国営メディアも今後の成長には悲観的な見方を伝える。発展という「アメ」に限界が見える中、座談会で習氏は「寺院の管理システムの建設を進める」などとして、宗教統制を強める姿勢を示した。
チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世の継承者問題は大きな火種で、中国は「決定権は中央政府以外の誰にもない。ダライ・ラマ本人にもない」(全国政治協商会議民族・宗教委員会)との立場。党は民族政策を担う統一戦線工作を強化し、7月に中央統一戦線工作指導小組を立ち上げた。ダライ・ラマ継承者問題を含め、党最高指導部が直接チベット政策のかじを取る態勢を固めている。(北京=林望)
■抗議の焼身自殺、120人超す
県中心部のチベット寺院では、全身を地面に投げ出す「五体投地」を続けて一心に祈りを捧げるチベット族の姿があった。人口約7万8千人のこの県で、これまでにチベット僧ら10人が焼身自殺を図ったと伝えられている。
最近、焼身自殺で亡くなった男性が知り合いだったという40代の僧侶に出会った。経緯を尋ねると「ダライ・ラマが帰って来られないことが、つらかったのだろう。無事に戻ることを生きる希望にしていたから」と答えた。自殺には、帰還を許さない政府への抗議が込められているという。
2008年3月、中国政府の抑圧的な統治に不満を持ったチベット族による大規模な抗議行動「チベット騒乱」が起き、当局が力で押さえ込んだ。その後、寺院などへの圧力がさらに強まる中、焼身自殺が各地で目立つようになった。チベット亡命政府などによると09年2月以降、自殺を図ったチベット族は140人を超え、少なくとも120人以上が死亡した。
中国政府は、住民の不満を和らげようとチベット自治区などで大規模な開発や経済支援を続けた。ただ、僧侶は「豊かになることに関心はない。大切なのは宗教上の自由だ」と語る。
今年に入り、チベット自治区トップが、寺に国旗を掲げさせると表明するなど締め付けを強化。当局が寺に監視カメラを設置し、付近に警官を常駐させることにもチベット族の不満が募る。当局が寺に毛沢東や鄧小平の写真を飾ることを強要し、僧に変装した警官を送り込んで寺を監視しているといった情報もある。
同自治州で会った男性は、スマートフォンにダライ・ラマの動画を保存していた。中国版LINE「微信」を通して入手。インドに渡った亡命チベット人らが微信を通して中国のチベット族に動画や写真を送り、それが中国内の友人知人に拡散している。男性はダライ・ラマを思い、繰り返し再生するのだという。(ゾルゲ県=金順姫)
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