植民地からの資源の盗掘であり、民族を消し去ろうとしていることをもっと報道するべきだ。
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中国の少数民族、発展から置き去り 脱貧困へ苦闘
- 2015/12/21 6:30
- 日本経済新聞 電子版
中国・北西部の甘粛省には、チベット族や回族など少数民族が住む自治州がある。甘南チベット族自治州は農業のできない土地も多く、ほとんどが遊牧民として生活する。臨夏回族自治州は農業などで生計を立てるが、やはり貧困問題が付きまとう。11月末に開いた貧困問題に関する会議で、習近平国家主席は「2020年までに貧困県をすべてなくす」と宣言した。はたして現実はどうなのか。経済発展から取り残され、貧困に苦しむ自治州を歩いた。
濃い赤色の服をまとった老いた女性が、道端に全身を投げ出している。チベット仏教独特の祈り「五体投地」だ。ここは中国・甘粛省の甘南チベット族自治州。彼女らが向かう先は、チベット仏教ゲルク派六大寺院のひとつで、チベット仏教学の最高峰と呼ばれる「拉卜●(きへんに稜のつくり、ラプラン)寺」がある。かつて4000人を超す修行僧が学んでいたという同寺院が位置する夏河県は、チベット族が全人口8万人の79%を占める。
現在、夏河県政府は遊牧民の定住プロジェクトを推進している。遊牧民だったチベット族の当子吉さん(24)は05年、両親と夫、2人の子供とともに地元政府が準備した住宅に移り住んだ。住宅は平屋の80平方メートルで、水道、電気が通っており、価格は7万2000元。このうち2万5000元を政府が補助した。政府は近隣に病院や幼稚園、学校も整備した。
当さんは住宅の一部を改造して、チベット族向けに小売店を開いた。これと観光客向けの乗馬から得る収入が一家の主な収入だ。当さんは学校教育を受けられなかったため中国語を話せないが、「2人の子供はしっかり中国語を勉強して、政府の幹部になってほしい」と期待を込める。
隣家に住む80歳の加大さんは定住して、2人の孫の面倒を見ている。息子夫婦は遊牧に出るが、孫は加大さんの家に住んで学校に通っている。この環境なら遊牧と教育を両立できる。このプロジェクトを推進する地元政府の桑吉加さんは「次の5カ年計画中にさらに遊牧民300家族を定住させたい」と説明する。
もちろん、政府の定住政策には反発もなお根強い。青海省出身のチベット族女性は「夏河のような観光業がなければ、チベット族が遊牧以外の仕事を見つけるのは難しい」と批判的だ。家畜の飼料を購入できるまで収入が増えれば遊牧する必要はなくなるものの、現実は厳しい。地元のヤク肉加工会社、安多集団によると、ヤク肉の買い取り価格は500グラム当たり16~20元。市場の買い取り価格より高いとはいえ、100キログラムでも3200~4000元にしかならない。
甘南チベット族自治州に隣接する臨夏回族自治州は、イスラム教を信仰する回族が全人口の57%を占める。標高2000メートル前後で主要な産業は農業と水力発電だ。同自治州の臨夏回民中学は1953年設立の公立高校で、生徒数は回族中心に5200人に上る。同自治州は2012年、それまで年700~800元だった授業料を無料化した。教科書代も無料として、年200元の寮費と1食4~5元の食費を除けば費用はかからない。授業料の無料化によって、それまで2000人前後だった生徒数は倍以上に膨らんだ。さらに、甘粛省の民営企業が奨学金を付与するなどして学生を支援する。
生徒の一人、東郷族の馬艾柯くんは「家は農家でとても貧しく、父親は農閑期に出稼ぎをして姉と自分の進学費用を出してくれている。学校から支援を受けられるのはとてもありがたい」と語る。東郷族は「東郷語」を話すが、固有の文字を持たないため識字率が低いことで知られる。
別の生徒である趙蕾さんは、父親が地元学校の臨時工で、母親は足が悪く家にいるという。趙さんは「上海の復旦大学に進学し、家族を連れてサウジアラビアのメッカに参拝に行きたい」と夢を話す。馬培雲副校長は「学生の8割が農村の貧困層。少数民族の場合は2~3人子供がいるのが普通で、学費負担が重いために高校まで進学させない家庭が多かった」という。
同じイスラム教徒のウイグル族やチベット仏教徒のチベット族と違い、回族の母語は中国語だ。さらに臨夏は遊牧民が少なく農民が多いため、相対的な生活水準は甘南チベット族自治州と比べて高い。「授業でも少数民族特有の問題はほとんどない」(馬副校長)というが、同校を卒業して「大学または大学専科(日本の専門学校に相当)に進学できるのは8割程度」(馬副校長)にとどまる。残る2割は経済的な問題などで進学をあきらめてしまう。
《視点》習主席「20年までに貧困県なくす」、民族の違い絡み難しく
習近平指導部は11月27~28日、北京で貧困問題を議論する中央扶貧開発工作会議を開いた。同会議で習主席は「2020年までに貧困県をすべてなくす」と宣言した。国務院扶貧弁公室が14年に発表したリストに挙げられた貧困地区の数は全592地区。そのうち232地区は少数民族が居住する地域に分布する。臨夏や夏河もそのひとつだ。同弁公室によると、中国には年間収入2800元以下の貧困層が、まだ7000万人存在するという。
かつて鄧小平は、一部の人を先に豊かにさせる「先富論」を唱えて、中国を世界第2位の経済大国に導いた。一方、中国の発展から取り残された貧困層の多くが少数民族という現実もある。中国政府は治安の安定につなげようと貧困対策に注力しているものの、その背景には民族独自の宗教や言語、生活習慣の違いなど複雑な問題が根深く絡み合っており、解決は容易ではない。
(上海=土居倫之)