http://jbpress.ismedia.jp/mwimgs/3/1/600/img_3109d875787cb1513d87e7772cef3bdf167063.jpg小池百合子氏は自民党の支持を得られる保証がまったくない中で立候補し、圧勝した

 注目の東京都知事選挙は、小池百合子氏の圧勝に終わった。この結果は、小池氏にとっても想定以上のものではなかったのかと思う。それほど“みどりの旋風”を巻き起こす選挙だった。最終日の池袋駅前での街頭演説には、5000人の人々が押し寄せ、「百合子コール」が自然にわき上がった。池袋は、衆議院議員としての小池氏の地元だったが、ここまでの経験はなかったのだろう。思わず感涙を流していた。

 これが組織動員をかけた結果なら、別段不思議はない。組織動員はゼロ、すべてSNSなどで知った都民が自主的に押し寄せたのだ。こんな選挙戦は、まったく異例だ。かつて小泉純一郎氏が首相時代も、どこに行っても多くの人々が押し寄せた。それでも、かなりは組織動員だった。

 だが今回は、自民党公明党民進党共産党などの政党や業界団体の締め付けのなかで、その枠を打ち破って小池氏が勝利した。それだけ舛添前知事の政治資金を巡る混乱と辞任劇に都民が怒りを持っていたということだろう。

都政改革への覚悟を持っていた小池氏

 この都政の停滞を打開するには、当然、強いリーダーシップを持った政治家が必要になる。あれこれの公約もあるだろうが、実は、都民が一番求めていたのは、本気で都政を改革する覚悟を持っているかどうかであった。

 多くの都民がその覚悟を感じたのは小池氏だったということだろう。自民党の支持を得られる保証がまったくないもとで、「崖から飛び降りる覚悟」で立候補を表明し、自民党公明党増田寛也氏を担ぐことがほぼ確定した状況でも、「名誉ある撤退こそが、私にとって不名誉」と言い放った。

 簡単なことではない。小池氏は環境相、防衛相などを歴任した自民党政治家である。仮に、知事選挙に負けていたなら、自民党から厳しい処分を受け、政界復帰の道は断たれることになったであろう。まさに小池氏が語ったように、退路を断った決断であった。“くそ度胸”と言っても良いぐらいの大決断だ。おそらくこんな決断は、男にはできない。

 これに比べて増田氏や鳥越俊太郎氏はどうだったか。増田氏の場合、ほぼ自公が推すことが決まっているのに、なかなか結論を出さずに、区長会や市長会による出馬要請など茶番劇を延々と繰り広げた。
自民党所属の衆議院議員である小池氏には、嫌がらせとしか思えない対応を続けて、参院選挙が終わった翌日の7月11日に東京都連として増田氏の推薦を決定した。告示のわずか3日前である。

石原伸晃東京都連会長などは、「11日の会議には小池氏も招いている。そこで増田氏の推薦が決まれば、(小池氏が)立候補を取りやめることもあるのでは」などと語っていた。下村博文衆議院議員も、「なぜ小池氏は来ないのか。この会議で候補者を決めるのだから、来て推薦を求めれば良いではないか」という趣旨の発言を行っていた。小池氏を降ろして、増田氏推薦する会議に、小池氏が参加するはずがないではないか。小池氏をなめ切った対応をしていた。

このどこにも都民への目線がない。覚悟も感じられない。それはそうだろう。小池氏が言う「都政改革」とは、まさにこの東京都連や都議会自民党にその矛先が向かっていたからだ。この時点で、自民党公明党連合は、敗北が決まっていたと言うべきだろう。

民進党共産党などが推薦した鳥越俊太郎氏の場合はどうか。そもそも政治経験がまったくなく、公約すら候補者に決まってから考えるような人物に、誰が都政改革への意欲を感じるのか。実際、選挙戦を見ても、政策論争などまったくできない人物であった。ただニュースキャスターとして名前が売れていたというだけだ。

鳥越氏が決まる前には、石田純一氏や宇都宮健児氏の名前も挙がっていた。宇都宮氏は出馬に意欲的でもあった。だがどの人物をとっても、都政をどうするのか、そんな見識を持っているようには、とても思えなかった。誰が出馬していても、小池氏の敵ではなかったということだ。

醜悪だった自民党東京都連

 それにしても醜悪としか言いようがなかったのが、自民党東京都連であった。

 それを端的に示すのが、石原伸晃都連会長と都連幹事長の内田茂都議らの連名で出された「都知事選における党紀の保持について」と題する文書だ。その趣旨は、自民党所属の各級議員(親族を含む)が、党の非推薦候補を応援した場合は、除名等処分の対象となる”というものだ。

いったい自民党東京都連時代感覚はどうなっているのか。夫婦であろうと親子であろうと、どの政党、どの候補者を支持するかは、一人ひとりの独立した判断だ。それとも自民党という政党には、家族には政党支持の自由もないということなのか。こんな時代錯誤の文書を出して恥ずかしくない感覚というのは、空恐ろしい。

 もうひとつ酷かったのが、選挙戦終盤の26日、自民党本部で行われた増田陣営の総決起大会だ。石原慎太郎元知事を引っ張り出し、話をさせたのだが、決起どころか逆効果にしかならなかった。

 石原氏の話は、「大年増の厚化粧がいるよな。これは困ったもんでね。私はあの人はウソつきだと思いますよ。厚化粧の女に任せるわけにはいかない」 と小池氏に罵詈雑言を浴びせるだけの低レベルなものでしかなかった。これを知った小池氏に、「今日は、薄化粧できました」と軽くいなされただけだった。息子の石原伸晃氏は、小池氏批判を続けた後、「今日をもって小池氏は自民党の人間ではないと思っている」と 「追放宣言」まで行った。

 これに対して、知事選に出馬した山口敏夫元労相が実に的確な批判を選挙中に行っていた。「老いた慎太郎さんに選挙の応援を頼んだのがせがれの石原伸晃。伸晃はもうすぐ60歳。大臣もやってる。それが5歳や10歳の子供じゃあるまいし、『父ちゃん、俺たちの担いだ候補が負けそうだから、ぜひ応援して下さい』と応援ベンチに引っ張り出した」「挙げ句の果てに小池批判をさせた。結果的に小池さんだけでなく、全国の女性を怒らせて、小池さんを応援するようなことになった。慎太郎さんも親バカだから、せがれに頼まれたら引き受けちゃう。しかし、頼むせがれはもっと頭が悪い」

自民党分裂選挙になったのは、小池氏のせいというよりも、都連執行部の無能な対応が最大の原因と言うべきだろう。その結果が、この惨敗である。会長や幹事長は、当然、その責任を問われなければならない。

「都議会のドン」などという存在を許してはならない

 小池氏の公約の1つに、2020年東京オリンピックパラリンピックの利権にメスを入れることや、都民の負担を軽減するということがある。大賛成である。もともと東京でオリンピックをすることに、大きな疑念を持ってきた。大阪とか、福岡というのなら、理解はできる。しかし、これほど東京に何もかもが集中している現状のもとで、巨額の資金を投下してオリンピック行う必要があるとは、到底思えないからだ。

 それはともかく『週刊文春』(8月4日号)に、衝撃的な報道がなされている。自民党東京都連幹事長でもある内田茂都議は、「都議会のドン」とも呼ばれており、「石原慎太郎氏、猪瀬氏、舛添氏ら歴代都知事ですらひれ伏して」きたというのである。

この内田氏が監査役を務める東光電気工事という会社が、内田氏の地元である千代田区にある。この会社が、大手建設会社などとジョイントベンチャーを組んで、バレーボール会場の「有明アリーナ」(落札額=約360億円)、水泳の「オリンピックアクアティクスセンター」(約470億円)の施設工事を受注しているというのだ。このほかにも、この会社は豊洲新市場の関連工事など、東京都発注の工事をたびたび受注し、売りあげを急速に伸ばしているというのである。

 知事すらひれ伏させる“実力者”が、都の公共工事にまで影響力を発揮しているとするなら、これは重大である。小池氏には、徹底的な情報公開で闇をなくしてもらいたいと思う。