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「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成28年(2016)9月8日(木曜日)
通算第5023号
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(休刊のお知らせ)海外取材のため小誌は明日9月9日から19日まで休刊します。
国際秩序をやぶって一方的な侵略を繰り返す中国に G20もアセアン首脳会議も無力。「会議は踊る」だけだった
**********************中国杭州でのG20(2016年9月4日―5日)に引き続き、ラオスのビエンチャンで開催された「アセアン首脳会議」(9月7日―8日)。とくにアセアンの「共同声明」は南シナ海の仲裁裁判所の判決に関して、何の言及もなされなかった。
呆れるばかり、驚くばかり。
ともに「成果」は空っぽ、何のために国際会議を開催したのかという結末だった。
しかし、静かな成果はあった。
第一に米中対立が明確になったことである。オバマ専用機に赤絨毯を敷かないという中国側の「歓迎」ぶりは、カーター、ブレジンスキー時代から言われた「G2」構想が音立てて消滅したことを意味し、習近平が就任以来執拗にオバマに迫ってきた「新しい大国関係」は蜃気楼となって何処かへ消えた。
第二にアセアン諸国が中国の脅しとカネを目の前に、いかに脆弱であるかを晒したこと。日本の頼りなさは以前からの問題だが、安倍首相は限られた条件のなかで、個別会談を重視し、プーチンの来日確約、韓国へは慰安婦像撤去再度要請など多少の得点があった。
第三に数限りない「国際会議」に中国がきょろきょろと参加するようになってから、中国は自らの孤立感を自己認識できるように進歩したことである。とりわけ「シャングリラ対話」で、中国の強硬路線がアジアの多くから嗤われており、四面楚歌の状況であることを知覚した。
「米中戦略対話」は、経済に特化しはじめた。
野蛮人がネクタイをし、文明人は裸に憧れるように、懸命に文明国に近づこうとする北京だが、国際会議での発言やパフォーマンスをともなう演出は、すべて国際世論に訴えようとするより国内の権力闘争への思惑が基軸となってきた。
それでも「国際秩序」なるものが他の国々の価値観のなかで重要な位置をしめていることに気がついたらしい。
▼西側共通の価値観「自由」「民主」「法治」「人権」はまだ達成されない
中国が軍艦を派遣して軍事力を誇示する。
フィリピン、ベトナムの領海である海洋の七つの珊瑚礁を破壊して人口島を埋立て、軍事施設をつくり、挙げ句に2600メートル級の滑走路まで敷設し、レーダー基地と防空ミサイルを配備した。
そのうえで一切の証拠を提示することなく、堂々と「古来より中国領だった」と居座る。
白昼堂々の強盗、侵略行為を、国際社会は弱々しく、「秩序を守れ」「航行の自由」「一方的な秩序の変更は許されない」と批判はしたものの、侵略者=中国を名指ししない。
チャンバレンの宥和政策は、けっきょくナチスの横暴と中欧諸国への侵略をもたらした。チャンバレンは「平和を持ち帰った」と言ったが、お土産は戦争だった。
ナチスはワイマール共和国というたぐいまれな民主制度の下で、選挙民が撰んだ結果がヒトラー政権の誕生だった。
そして「初期のヒトラーはシオニズムに理解があった。ユダヤ人が中東の地に帰り、国家を建設することに賛同していた」(リビングストン元ロンドン市長)。途中から路線が変更となったのも、ドイツ国民の民意ではなかったのか。
G20は、各国代表がそれぞれの主張をがなり立てるだけ、アセアンは、親中派のラオスが議長国、南シナ海を議題としないようにカンボジアとともに北京の意向を受けて、根回しをして、まわった。
要するにこれら一連の「国際会議は」えんえんとお喋りを続け、合間に踊りを愉しみ、ワインを空けて平和を語ったウィーン会議の再来でしかない。
メッテルニヒの時代のように、宮殿で「会議は踊る」。されど侵略を制御することも、押し返すことも出来なかった。
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■仲裁受け入れ 結束訴え
「南シナ海は日本にとって死活的に重要であり、(領有権問題は)地域全体の平和と安全にとって重要な問題だ」。安倍晋三首相は7日の東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳との会議で、南シナ海問題は仲裁裁判当事国の中国とフィリピンの2国間にとどまらず、影響が地域全体に及ぶことを強調した。(ビエンチャン 小島優)
東シナ海での中国の海洋進出を警戒する日本は、仲裁裁判所が中国の主権主張を否定する裁定を下して以降、米国と「法の支配」を共通概念に、中国を裁定受け入れへ追い込むよう包囲網形成に向けてASEANに結束を呼びかけてきた。
7日の会議では「中国とASEANの対話を歓迎するが、対話は国際法に基づき、非軍事化、自制が維持されることを前提として行われるべきである」とも述べ、中国支持に回らないようクギを刺した。
安倍首相は6日にフィリピン、ラオス、7日にオーストラリア、ベトナムの首脳らと会談。7日には予定になかったインドのモディ首相との会談を急遽(きゅうきょ)、行った。8日にはASEANに日中韓や米豪印などを加えた18カ国による東アジアサミット(EAS)が開かれる。EASは地域の安全保障を議論する場と捉えられており、この“最終決戦”を前にして、中国包囲網の結束を呼びかけた形だ。
フィリピンのドゥテルテ大統領との会談で、海上自衛隊の練習機の有償貸与や大型巡視船の円借款供与で合意したのも、米国という“真打ち”の登場を前に舞台作りをする狙いもあった。
その成果は少しずつ表れ始めている。領土や主権をめぐる争いについて、7日にまとめられたASEAN首脳会議の議長声明、中国とASEANとの首脳会議の共同声明でも、日米が主張する国際法に基づく解決の重要性が確認された。
関係者は「安倍首相は南シナ海の問題についてEASで質的にも量的にも一番多く発言する」との見通しを示す。EASで中国に引導を渡すことができるか。首相は舞台を整えた上で一気に勝負をかける構えだ。