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「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成29年(2017)12月6日(水曜日)
通巻第5535号
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 中国全土50の都市に地下鉄を掘っているが、工事中断が始まった
債務の膨張をこのまま放置しては深刻な事態が惹起されるだろう
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中国の債務は33兆ドル(1ドル=113円で計算して邦貨3700兆円)。この数字は小誌がたびたび用いてきたもので、中国政府の公式数字ではない。
中国の公式発表は2000兆円とか、IMFはGDPの285%と言っているが、いずれも過小な数字で、33兆ドルというのはウォール街の専門家の分析である。そして、スイスの老舗銀行であるUBSも、この債務数字を用いだした。
さてパオトウ(包頭)は内蒙古省の西側、ここからバスで三時間ほど南下するとオルダス市、砂漠のオアシスとして一時期は栄えた。
さらに南へタクシーで一時間近く走ると、成吉思汗(チンギスハーン)の「御陵」と称する巨大なテント村がある。この近くに世界に悪名を轟かせたゴーストタウン(カンバシ新区)があり、百万都市をつくって、がら空きのビルを林立させた。住民はいま2万8千人しかいない。
パオトウは数年前、レアアース(希土類)の供給停止で、日本企業いじめの先頭に立った。強気だった。パオトウはレアメタル生産のメッカである。
レアアース工業団地が造成され、さらに旧市街には高層のレアアースビル(ホテルも兼ねる)を建てた。筆者も行ってみたがテナントは少なく、殆どがらんどうだった。
けっきょく、日本はレアアースをカザフスタンなどに輸入先を拡げ、あるいは昭和電工などは、安定供給を確保するために、中国国内での生産に踏み切ったため価格が暴落した。
いまでは日本企業に買ってくれと泣きついてくる有様、ブーメランは徒花として彼らの元に返った。
レアアースは江西省でも産出するが、岩盤にそのまま強い化学薬品を注入してレアアースを抽出するという、乱暴極まりない遣り方なので、地下水が毒性に汚染され、住民の飲み水が飲めなくなり、土壌汚染が深刻化した。これも逆効果。
その同じことを、過去の教訓も生かさずに展開しようとしたのが、パオトウの地下鉄プロジェクトだった。
習近平は「GDP成長より安定だ」と呼号して、地方政府のGDP報告の水増しをチェックするや、遼寧省はたちまちマイナス20%という、真実に近い数字がでてきた。
地方政府のGDP水増しは、一貫して共産党の頭痛の種だったが、「今後はGDP成長率で、地方政府の優劣を評価しない」と言い出したから、レアクションは方々で、予期せぬかたちで起きてくるのは必定、その典型がパオトウの地下鉄工事中止という「英断」となるのである。
パオトウの地下鉄はトンネル工事を開始したまま、機材が放置され、労働者は解雇された。トンネルの入り口は目視できると『南華早報』の現場取材記者が書いている。
そもそもパオトウのような田舎の都市に、しかも二つのルートの地下鉄が必要なのか。すでに道路は広く、渋滞は殆どないうえ、鉄道も繋がっている。120メートル道路は、ソ連の援助で建てられた。バスは40路線もあり、たった二元で、旧市内と新都心を一時間半で結んでいる。
地下鉄の総工事予算は305億元(46億ドル)。パオトウ市の歳入(270億元)を超えており、この巨額をいかなる担保でまかない、資金を調達するかも、まじめに議論されず、中央政府はいったん、この工事を認可した。
それもこれも2008年のリーマンショック以来の中国政府の景気テコ入れ策によって、中国全土50の都市に地下鉄建設の槌音がなりひびき、計画では総延長営業キロが5770キロに及び、現在すでに開通しているだけでも3000キロある。これはアメリカ全土の地下鉄と英国を足した距離よりも長いのだ。
パオトウの地下鉄は全長42キロで、2020年の完成を目指した。繰り返すが、パオトウ市の歳入は270億元。地下鉄の総予算は305億元。誰が考えても無謀だろう。そのうえ、市がかかえる債務残高は900億元(数字はいずれもサウスチャイナモーニングポスト、2017年12月4日)。
バブル崩壊、いよいよ本番を迎えた。
□◇▽み◎□◇◎や△□◇ざ□▽◎き◇□◎
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「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成29年(2017)12月6日(水曜日)
通巻第5535号
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 中国全土50の都市に地下鉄を掘っているが、工事中断が始まった
債務の膨張をこのまま放置しては深刻な事態が惹起されるだろう
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中国の債務は33兆ドル(1ドル=113円で計算して邦貨3700兆円)。この数字は小誌がたびたび用いてきたもので、中国政府の公式数字ではない。
中国の公式発表は2000兆円とか、IMFはGDPの285%と言っているが、いずれも過小な数字で、33兆ドルというのはウォール街の専門家の分析である。そして、スイスの老舗銀行であるUBSも、この債務数字を用いだした。
さてパオトウ(包頭)は内蒙古省の西側、ここからバスで三時間ほど南下するとオルダス市、砂漠のオアシスとして一時期は栄えた。
さらに南へタクシーで一時間近く走ると、成吉思汗(チンギスハーン)の「御陵」と称する巨大なテント村がある。この近くに世界に悪名を轟かせたゴーストタウン(カンバシ新区)があり、百万都市をつくって、がら空きのビルを林立させた。住民はいま2万8千人しかいない。
パオトウは数年前、レアアース(希土類)の供給停止で、日本企業いじめの先頭に立った。強気だった。パオトウはレアメタル生産のメッカである。
レアアース工業団地が造成され、さらに旧市街には高層のレアアースビル(ホテルも兼ねる)を建てた。筆者も行ってみたがテナントは少なく、殆どがらんどうだった。
けっきょく、日本はレアアースをカザフスタンなどに輸入先を拡げ、あるいは昭和電工などは、安定供給を確保するために、中国国内での生産に踏み切ったため価格が暴落した。
いまでは日本企業に買ってくれと泣きついてくる有様、ブーメランは徒花として彼らの元に返った。
レアアースは江西省でも産出するが、岩盤にそのまま強い化学薬品を注入してレアアースを抽出するという、乱暴極まりない遣り方なので、地下水が毒性に汚染され、住民の飲み水が飲めなくなり、土壌汚染が深刻化した。これも逆効果。
その同じことを、過去の教訓も生かさずに展開しようとしたのが、パオトウの地下鉄プロジェクトだった。
習近平は「GDP成長より安定だ」と呼号して、地方政府のGDP報告の水増しをチェックするや、遼寧省はたちまちマイナス20%という、真実に近い数字がでてきた。
地方政府のGDP水増しは、一貫して共産党の頭痛の種だったが、「今後はGDP成長率で、地方政府の優劣を評価しない」と言い出したから、レアクションは方々で、予期せぬかたちで起きてくるのは必定、その典型がパオトウの地下鉄工事中止という「英断」となるのである。
パオトウの地下鉄はトンネル工事を開始したまま、機材が放置され、労働者は解雇された。トンネルの入り口は目視できると『南華早報』の現場取材記者が書いている。
そもそもパオトウのような田舎の都市に、しかも二つのルートの地下鉄が必要なのか。すでに道路は広く、渋滞は殆どないうえ、鉄道も繋がっている。120メートル道路は、ソ連の援助で建てられた。バスは40路線もあり、たった二元で、旧市内と新都心を一時間半で結んでいる。
地下鉄の総工事予算は305億元(46億ドル)。パオトウ市の歳入(270億元)を超えており、この巨額をいかなる担保でまかない、資金を調達するかも、まじめに議論されず、中央政府はいったん、この工事を認可した。
それもこれも2008年のリーマンショック以来の中国政府の景気テコ入れ策によって、中国全土50の都市に地下鉄建設の槌音がなりひびき、計画では総延長営業キロが5770キロに及び、現在すでに開通しているだけでも3000キロある。これはアメリカ全土の地下鉄と英国を足した距離よりも長いのだ。
パオトウの地下鉄は全長42キロで、2020年の完成を目指した。繰り返すが、パオトウ市の歳入は270億元。地下鉄の総予算は305億元。誰が考えても無謀だろう。そのうえ、市がかかえる債務残高は900億元(数字はいずれもサウスチャイナモーニングポスト、2017年12月4日)。
バブル崩壊、いよいよ本番を迎えた。
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