昭和47年、東京都出身。東京大学農学部水産学科卒業後、東京大学海洋研究所の修士課程に進学し、水産資源管理の研究を始める。東京大学海洋研究所に助手・助教、三重大学准教授を経て、現職。専門は水産資源学。主な著作は、漁業という日本の問題(NTT出版)、日本の魚は大丈夫か(NHK出
<奄美大島沖で大規模な石油流出事故 海洋生態系への影響は?
生態系への影響以上に心配なのが、日本国内の動きの無さです。この事故は世界的な関心事となっています。日本のEEZで起こった事故で、日本への影響が懸念されています。なぜ、国の主導できちんとした現場調査をして、これまでにわかっている情報を整理してプレスリリースしないのでしょうか。Natureの記事でも、事故の影響を評価しているのは、英国と中国の研究グループで、日本のプレゼンスがゼロです。この海域のシミュレーションをできる人間は、日本国内にいくらでもいます。出来ないのではなく、やらないのです。コンデンセートの大規模流出事故は世界で初めてで、専門家も影響を予測し切れていません。日本主導で国際的な調査チームをつくり、そのデータを他国と共有すべきでしょう。
東シナ海衝突>原油流出1カ月、日本への影響は 被害懸念
東シナ海で1月6日にタンカーが貨物船と衝突、積み荷の原油が大量に流出した事故から1カ月が経過した。ネット上では「黒潮に乗って日本近海が汚染される」「漁業が全滅する」と不安が広がっている。日本の海への影響を追った。【林哲平/上海支局、神田和明/奄美通信部、阿部周一/科学環境部】
◇軽質原油の大規模流出は前例なし
中国当局によると、衝突は上海の東約300キロで発生。タンカーは石油精製でできる軽質原油(コンデンセート)11万トンと重油1900トンを積み、衝突後に南東へ漂流。鹿児島・奄美大島の西約300キロの日本の排他的経済水域(EEZ)内で1月14日に炎上、沈没した。
軽質原油10万トン超を積むタンカーの沈没は前例がなく、英国の国立海洋研究センターは拡散の予想を公表。3月初めに関東沖にも到達すると警戒を呼びかけ、ネット上で悲観論の根拠となっている。ただし同センターは、流出量が不明で正確な被害予測は難しいと説明している。予測には流出量や揮発しやすい軽質原油の性質を考慮する必要がある。
中国当局は船や人工衛星で拡散状況を調べている。1月末時点で沈没海域延べ約80万平方キロを監視し、360カ所の水質検査で11カ所から基準値を超す油関連物を検出したとして「環境に一定の影響がある」と見る。
日本の第10管区海上保安本部は現場で船を走らせ、スクリューで軽質原油を揮発、拡散させる作戦を進めている。
◇奄美には油回収のボランティアも
よりやっかいなのは、揮発しにくい重油だ。1997年、島根県隠岐島沖の日本海で沈没したロシアのタンカー「ナホトカ号」から重油約6000トンが流出し、島根から福井、石川にかけて漂着。海辺が油で真っ黒になった。
今回の事故の流出規模はそれらより小さいが、油断はできない。
重油とみられる漂着物は1月27日に鹿児島県のトカラ列島で、2月1日以降は奄美大島や周辺の喜界島、徳之島、沖永良部島で確認された。奄美大島の朝仁(あさに)海岸では、人のこぶし大の黒い漂着物が波打ち際に大量に打ち寄せられ、表面を崩すと油のにおいがする。鹿児島県などは2次汚染防止のため、むやみに触らないよう呼びかけている。
海岸を犬と毎日散歩するという女性(52)は「犬と一緒に砂浜に入ったら、足が油だらけになった。犬の足の油はまだ完全には取れていない」と戸惑う。地元の漁師は「サンゴが死滅してプランクトンがいなくなり、漁獲に影響が出る可能性もある。春に出荷するモズクの養殖網も心配だが、それ以上に奄美の海で油が流れているという風評被害が恐ろしい」と懸念している。
すでに福岡県などから油回収のボランティアたちが来ており、県は6日、朝仁海岸に回収箱を置き、分別や処理の方法を検討している。
首相官邸の危機管理センターには2日、情報連絡室が設置され、関係省庁の会議が開かれた。中川雅治環境相は6日、閣議後の記者会見で「3日に奄美大島で油の付いたヒヨドリの死骸が確認された。釣り糸がからまり、油漂着で死亡した可能性は低い」と述べ、現地調査を検討していると説明した。
◇英国研究所の予測を疑問視する声も
鹿児島大の宇野誠一准教授(環境汚染学)によると、過去にこれほど大量の軽質原油が海に流出した例は聞いたことがないという。だが、軽質原油は短時間で揮発しやすく、水に溶けて拡散しやすい。その上、重油などに多く含まれる「多環芳香族(たかんほうこうぞく)炭化水素」という毒性の強い化学物質の含有量が少ない。
英国の国立海洋研究センターなどの研究チームが関東や東北の沿岸に汚染が広がるとの予測を公表したが、宇野さんは「軽質原油の希釈、拡散を反映していない過大予測ではないか」と疑問視する。沈没時の火災で多くが燃焼した可能性も考えられるという。
奄美大島などに漂着しているのは重油で、脱脂綿でも吸着できないほど粘り気が強いという。宇野さんは「放置すれば何年間も分解せず残り続ける」として、人の手で取り除くしかないと指摘。「付着性の貝への影響は出るかもしれない。しばらく食べるのは避けた方がよいだろう」と話す。
宇野さんは、海面に浮かぶ油膜は減り、鳥や魚への影響も少ないと予想。「一時的、局所的な生態系への影響がないとは言い切れないが、海から強い油臭がするような状況でもなく、影響は小さいだろう」と冷静に受け止めている。
◇軽質原油の大規模流出は前例なし
中国当局によると、衝突は上海の東約300キロで発生。タンカーは石油精製でできる軽質原油(コンデンセート)11万トンと重油1900トンを積み、衝突後に南東へ漂流。鹿児島・奄美大島の西約300キロの日本の排他的経済水域(EEZ)内で1月14日に炎上、沈没した。
軽質原油10万トン超を積むタンカーの沈没は前例がなく、英国の国立海洋研究センターは拡散の予想を公表。3月初めに関東沖にも到達すると警戒を呼びかけ、ネット上で悲観論の根拠となっている。ただし同センターは、流出量が不明で正確な被害予測は難しいと説明している。予測には流出量や揮発しやすい軽質原油の性質を考慮する必要がある。
中国当局は船や人工衛星で拡散状況を調べている。1月末時点で沈没海域延べ約80万平方キロを監視し、360カ所の水質検査で11カ所から基準値を超す油関連物を検出したとして「環境に一定の影響がある」と見る。
日本の第10管区海上保安本部は現場で船を走らせ、スクリューで軽質原油を揮発、拡散させる作戦を進めている。
◇奄美には油回収のボランティアも
よりやっかいなのは、揮発しにくい重油だ。1997年、島根県隠岐島沖の日本海で沈没したロシアのタンカー「ナホトカ号」から重油約6000トンが流出し、島根から福井、石川にかけて漂着。海辺が油で真っ黒になった。
今回の事故の流出規模はそれらより小さいが、油断はできない。
重油とみられる漂着物は1月27日に鹿児島県のトカラ列島で、2月1日以降は奄美大島や周辺の喜界島、徳之島、沖永良部島で確認された。奄美大島の朝仁(あさに)海岸では、人のこぶし大の黒い漂着物が波打ち際に大量に打ち寄せられ、表面を崩すと油のにおいがする。鹿児島県などは2次汚染防止のため、むやみに触らないよう呼びかけている。
海岸を犬と毎日散歩するという女性(52)は「犬と一緒に砂浜に入ったら、足が油だらけになった。犬の足の油はまだ完全には取れていない」と戸惑う。地元の漁師は「サンゴが死滅してプランクトンがいなくなり、漁獲に影響が出る可能性もある。春に出荷するモズクの養殖網も心配だが、それ以上に奄美の海で油が流れているという風評被害が恐ろしい」と懸念している。
すでに福岡県などから油回収のボランティアたちが来ており、県は6日、朝仁海岸に回収箱を置き、分別や処理の方法を検討している。
首相官邸の危機管理センターには2日、情報連絡室が設置され、関係省庁の会議が開かれた。中川雅治環境相は6日、閣議後の記者会見で「3日に奄美大島で油の付いたヒヨドリの死骸が確認された。釣り糸がからまり、油漂着で死亡した可能性は低い」と述べ、現地調査を検討していると説明した。
◇英国研究所の予測を疑問視する声も
鹿児島大の宇野誠一准教授(環境汚染学)によると、過去にこれほど大量の軽質原油が海に流出した例は聞いたことがないという。だが、軽質原油は短時間で揮発しやすく、水に溶けて拡散しやすい。その上、重油などに多く含まれる「多環芳香族(たかんほうこうぞく)炭化水素」という毒性の強い化学物質の含有量が少ない。
英国の国立海洋研究センターなどの研究チームが関東や東北の沿岸に汚染が広がるとの予測を公表したが、宇野さんは「軽質原油の希釈、拡散を反映していない過大予測ではないか」と疑問視する。沈没時の火災で多くが燃焼した可能性も考えられるという。
奄美大島などに漂着しているのは重油で、脱脂綿でも吸着できないほど粘り気が強いという。宇野さんは「放置すれば何年間も分解せず残り続ける」として、人の手で取り除くしかないと指摘。「付着性の貝への影響は出るかもしれない。しばらく食べるのは避けた方がよいだろう」と話す。
宇野さんは、海面に浮かぶ油膜は減り、鳥や魚への影響も少ないと予想。「一時的、局所的な生態系への影響がないとは言い切れないが、海から強い油臭がするような状況でもなく、影響は小さいだろう」と冷静に受け止めている。
漂着した油は、これまでに奄美地方の4つの島で確認されていて、専門家は今後1か月ほど奄美地方の海岸に、漂着が続くおそれがあるとしています。
奄美地方の海岸で相次いで漂着している黒い油。
十管本部などによりますと先月28日以降、これまでに奄美大島、十島村の宝島、喜界島、徳之島で確認されています。
十島村の宝島では5日から週3回のペースで、地元の消防団らが油の回収作業を始めました。
住民からは不安の声も。
(住民)「10畳分の大きな油のプールになっているなど、かなり広範囲にわたる。島の人間だけで取り除くといつまでかかるんだろうというくらいの量」
漂着した油は、先月14日に奄美大島の西およそ315キロの東シナ海で沈没した、イランのタンカーから流出したとの見方が強まっています。
十管本部によりますと、タンカーには「コンデンセート」と呼ばれる原油およそ11万トンと、重油2000トンを積んでいたとみられています。
コンデンセートは、蒸発しやすいことなどから、奄美地方の海岸に流れ着いたのは、重油と見られています。
(鹿児島大学・宇野誠一准教授)「粘性が高いのと、色や性質を見ると、重油が漂着していると思う」
海洋汚染の影響について研究している、鹿児島大学の宇野誠一准教授によると、奄美地方では、今後1か月ほど油の漂着が続くおそれがあるとしています。
(宇野准教授)「状況見ると、一時的・局所的なものにとどまるのでは。踏みつけてしまうと土に潜って取り除きにくくなり、汚染も続く。サンゴなどはある程度影響あるかもしれない。人が手で取ってあげたほうがいい。なるべく専門家の指示のもと、継続的に取り除くべき」
一方、イギリスの研究機関が発表した油の拡散シュミレーションでは、油が黒潮などに乗り九州や本州の沿岸に流れていく予測が示され、広範囲での影響が懸念されています。
これに対し、宇野准教授は…。
(宇野准教授)「油が北上するとシミュレーションしているが、実際は奄美に着いたりして南下している。油は揮発・拡散・吸着するが、これはそのまま流れた場合を想定。かなり過剰な評価」
一方、タンカーが沈没した海域では、十管や中国の巡視船が、スクリューで油を薄める作業を続けていますが、十管本部によりますと、沈没したタンカーからは現在も油が流出していて、今後、どのような影響が続くが懸念されます。
奄美地方の海岸で相次いで漂着している黒い油。
十管本部などによりますと先月28日以降、これまでに奄美大島、十島村の宝島、喜界島、徳之島で確認されています。
十島村の宝島では5日から週3回のペースで、地元の消防団らが油の回収作業を始めました。
住民からは不安の声も。
(住民)「10畳分の大きな油のプールになっているなど、かなり広範囲にわたる。島の人間だけで取り除くといつまでかかるんだろうというくらいの量」
漂着した油は、先月14日に奄美大島の西およそ315キロの東シナ海で沈没した、イランのタンカーから流出したとの見方が強まっています。
十管本部によりますと、タンカーには「コンデンセート」と呼ばれる原油およそ11万トンと、重油2000トンを積んでいたとみられています。
コンデンセートは、蒸発しやすいことなどから、奄美地方の海岸に流れ着いたのは、重油と見られています。
(鹿児島大学・宇野誠一准教授)「粘性が高いのと、色や性質を見ると、重油が漂着していると思う」
海洋汚染の影響について研究している、鹿児島大学の宇野誠一准教授によると、奄美地方では、今後1か月ほど油の漂着が続くおそれがあるとしています。
(宇野准教授)「状況見ると、一時的・局所的なものにとどまるのでは。踏みつけてしまうと土に潜って取り除きにくくなり、汚染も続く。サンゴなどはある程度影響あるかもしれない。人が手で取ってあげたほうがいい。なるべく専門家の指示のもと、継続的に取り除くべき」
一方、イギリスの研究機関が発表した油の拡散シュミレーションでは、油が黒潮などに乗り九州や本州の沿岸に流れていく予測が示され、広範囲での影響が懸念されています。
これに対し、宇野准教授は…。
(宇野准教授)「油が北上するとシミュレーションしているが、実際は奄美に着いたりして南下している。油は揮発・拡散・吸着するが、これはそのまま流れた場合を想定。かなり過剰な評価」
一方、タンカーが沈没した海域では、十管や中国の巡視船が、スクリューで油を薄める作業を続けていますが、十管本部によりますと、沈没したタンカーからは現在も油が流出していて、今後、どのような影響が続くが懸念されます。