ナゾの漁船群に格納庫・・・中国が進める南シナ海の“軍事拠点化”と自然破壊
- スプラトリー(南沙)諸島中国の“軍事拠点化”が進む
- 小笠原のナゾの“漁船群”も中国軍の指揮下か
- 中国による“軍事拠点化”で、漁獲量は大打撃
5か国がおよそ70の岩礁に90以上の建築物を配置している状況だ。
基地に格納庫・・・中国が進めるスプラトリー諸島の「攻撃拠点」化
中国の南シナ海への侵出は、(注釈:筆者が「侵出」と表記する理由は、のちに述べる国際仲介裁判所の判決と関連する)アメリカ海軍がフィリピンから撤退した1991年から1995年の間、南シナ海の暗礁における軍事施設の建設着手から始まった。
“中国の侵出”と“フィリピンからの米軍撤退”については、米海軍の戦略的基地が遠く離れたことによる影響からも、関連性があると考えられる。
上空から見たスプラトリー諸島(2016年)
これらの事実から中国のスプラトリー諸島での軍事施設は、防衛拠点というよりも戦略的な攻撃拠点としての位置づけがより重視されていると分析することができる。
小笠原の闇夜に浮かぶ異様な「漁船」群の正体
これだけではない。アメリカ当局が注目しているのが、中国の漁船群だ。
中国の漁船群が2014年、小笠原諸島に突然出没した事件があった。夜になると無数の漁火が島を取り囲み、小笠原の島民の中には恐怖で寝られない夜を過ごした人もいたと村議が話していた。
すると漁船がひとつ残らず島の周りから姿を消したのだ。
この統率力、統制された動きを見る限り、国が関与しているとしか思えない、と日本の海上保安庁の幹部が感想を漏らしていたのを記憶している。
小笠原にあらわれた中国漁船(2014年)
米軍も海保の幹部と同じ考えを持っている。
一部の中国の漁船群は、明らかに中国の人民軍の兵士が乗組員として操船していると米軍は考えており、漁船群は軍により統制された行動をとっている、と分析している。
建設のウラで・・・消えるサンゴや魚たち 漁業に大打撃
ここからは、海洋資源の観点からみてみたい。
漁礁を失ったことで、海域における漁獲量が20年間で66-75%も減少している。
南シナ海での漁獲量は世界全体の12%を占めているのに、だ。
周辺国は、いずれも漁業で生計をたてている人口が多い事から、中国の自然破壊活動は一刻も早く止めなければならないだろう。
南シナ海をめぐっては、中国はかなり以前から領海権を主張していた。
中国が主張する領海について、英語では「ナイン・ダッシュ・ライン」と呼ばれている。領海を主張する線が9つあるからだ。
主張する領海の形が「舌」に似ていることからアメリカでは「レッド・タン」とも呼ばれている。
ご承知のように、フィリピンと中国が常設仲裁裁判所に領海権を争う裁判を起こし、2016年7月、裁判所は、中国が領土と主張する岩礁は「岩」とみなし、UNCLOS(=国連海洋条約)に基づき中国が主張する領海権には法的根拠がなく、スプラトリー諸島などでの占有は国際法に違反する、と判断された。
この判断を受け、周辺国が事態の改善を期待したが、そんな中、裁判で勝利した当事者であるフィリピンに新しい大統領が誕生。
新大統領となったドゥテルテ大統領は判決受け入れを一時棚上げにし、中国との経済交流を優先すると判断。
中国はスプラトリー諸島において軍事施設の建造を継続することになった。
フィリピンは漁業権を獲得したが、スプラトリー諸島の海域の海底に眠る海底資源については中国に持っていかれる危険性が増すことになった。
ドゥテルテ大統領は中国との経済交流を優先
先述したように、そもそも漁獲量が激減していることも改めて述べておく。
当然、ベトナムなど周辺国も承知しているだろうが、中国との経済交流を優先したい政治的な思惑が妨げとなり、裁判を起こせないのかもしれない。
アメリカの団体は、1つの国が中国という大国と争うのはリスクが高いが、周辺国が束になって訴えたらよいのではないかという意見も述べている。
アメリカの動きだが、米海軍による「航行の自由作戦」がたびたびスプラトリー諸島周辺で展開されているが、これは単なるPR活動ではなく、軍事衛星だけでは捉えられない海底・地上設備の偵察・監視が主な任務となっていると推察される。
アメリカは「資源重視」 堪忍袋の緒が切れるタイミングは・・・
ただアメリカ側にも弱点がある。
航行の自由作戦の根拠となっているUNCLOSという国際条を、当のアメリカ政府が批准していないのだ。
160か国以上、ほぼすべての海洋国が批准しているのになぜアメリカが批准していないのか?
海底資源の権利が「途上国側にメリットが高い」内容になっているからだ。
実は歴代の大統領は批准にサインしているのだが、資源を扱う大企業などからの圧力からか、議会で幾度となく却下されてきた。
(執筆:フジテレビ社会部 大塚隆広)