中国本土に容疑者を引き渡せば「一国二制度」が崩壊する「香港はもう私たちの政府ではない」200万人デモ

容疑者の中国本土引き渡しに反対 香港で大規模デモ(写真:ロイター/アフロ)

「逃亡犯条例」改正案に反対

[ロンドン発]中国本土に容疑者を引き渡せるようになる「逃亡犯条例」改正案に反対する香港の大規模デモ(主催者発表200万人、警察発表24万人)を受け、旧宗主国・英国の議会で10日、高度の自治を香港に約束した「一国二制度」を守るよう訴える討論会が行われました。
1989年に中国政府が学生の民主化運動を武力鎮圧した天安門事件から30周年を迎えたばかり。主催者発表通りなら1997年の香港返還以降、最大規模のデモが展開されたことになります。
中国本土やマカオ、台湾と犯罪人引き渡し協定を結んでいない香港政府は今年2月、引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案を立法会(議会)に提出。直接のきっかけは、香港の男性が妊娠中の彼女を台湾で殺害したにもかかわらず、香港から台湾に身柄を引き渡すことができなかった昨年の事件です。
しかし香港の民主派は「中国共産党に批判的な市民活動家の弾圧に悪用される」「高度な自治の崩壊や人権侵害につながる」と反発。普段は親中派のビジネス界も「香港の法の支配が損なわれる。国際市場としての評価が低下する」と慎重な姿勢を見せています。
香港政府が強行突破の姿勢を見せていることについて、市民団体「香港の報道の自由」の共同創設者エヴァン・ファウラー(方禮倫)氏(40)は英議会内で筆者のインタービューに応じ、こう答えました。
「香港の報道の自由」共同創設者エヴァン・ファウラー氏(筆者撮影) 「香港の報道の自由」共同創設者エヴァン・ファウラー氏(筆者撮影)
「極めて重大な時を迎えている。これは単に『逃亡犯条例』を改正するという問題ではない。2014年の反政府デモから香港ではいろいろなことが起きている」

「政府は一つしかない」

「『逃亡犯条例』を押し通すのは香港の人々が反対する声は大した問題ではない、力を持っていないことを思い知らす手段だ。香港政府はもう私たちの政府ではない。『一国二制度』ではなく、政府は一つしかないことを私たちに思い知らせようとしている」
「中国の習近平国家主席は香港の人々の反対だけではなく、国際社会の批判にも耳を閉ざしている。彼にとって関心があるのは中国共産党の永続だけだ。中国共産党を批判する声をその脅威とみなし、『反愛国的』『反中国的』というレッテルをはっている」
「私自身、香港に帰らないようアドバイスされているが、大学から講演に招かれているので今月末に帰る予定だ。香港とのつながりを失うことは、私にとって大切なものを失うのと同じだからだ。香港で拘束されるようなことはないと思うが、香港で暮らす家族のことが心配だ」

報道の自由」は世界18位から73位に転落

中英共同宣言では1997年の香港返還から50年間は「一国二制度」を維持するとうたわれており、「報道の自由」も守られるはずでした。しかし駐英中国大使館は無効を通告。国境なき記者団の「報道の自由」指標で香港のランキングは2002年の18位から19年には73位まで下がっています。
香港の外国特派員クラブの副会長を務める英紙フィナンシャル・タイムズのアジア編集長は昨年10月、ビザ更新を拒否され、追放されました。香港で外国メディアのビザが拒否されるのは初めてのことでした。
香港メディア所有者の半数以上は中国本土と商業上の利益を持ち、全国人民代表大会中国人民政治協商会議のメンバーです。ファウラー氏によれば、主要メディア26社のうち8社は中国資本に所有されているか、多くの株式を保有されています。
香港の英語日刊紙サウスチャイナ・モーニング・ポストも中国のテクノロジー企業アリババに買収されてから「独立したジャーナリズムから新しいプロパガンダの形を切り拓いた」と批判されています。

20回以上も放映された自白シーン

人権問題を取り上げるサイト「香港ウォッチ」を運営するベネディクト・ロジャーズ氏は1997年から5年間、香港に住み、民主主義の大切さを訴えてきました。17年に「香港ウォッチ」を立ち上げたとたん香港への入国を拒否され、自宅周辺に嫌がらせの手紙がバラまかれるようになりました。
「香港ウォッチ」のベネディクト・ロジャーズ氏(筆者撮影) 「香港ウォッチ」のベネディクト・ロジャーズ氏(筆者撮影)
香港で拉致され中国本土で8カ月、拘束されていた「銅鑼湾書店」の林栄基店長がロジャーズ氏に語ったところによれば、精神的な拷問を受け、自白する様子を20回以上にわたってテレビ放映されました。裁判所も裁判官も一度も見なかったそうです。
取調官は林店長に「もし私たちが犯罪に関与していると言ったら、お前は犯罪者なのだ」と言い放ちました。
林店長はロジャーズ氏にこうも語りました。「逃亡犯条例改正案が成立したら、死刑宣告を受けたのも同じだ。これまでなら中国当局は私のような批判者を違法に拉致しなければならなかったが、この条例が成立すれば合法的に拉致できる」
「これは何も香港の人だけに限らない。外国の批判者が香港で航空便を乗り継ぐ際、人権問題についてソーシャルメディアで批判しただけで拘束される恐れがある。もはや外国人であっても安全は保障されていない」
ロジャーズ氏はこう強調します。「中国はこの条例を改正して香港を完全に支配しようとしている。改正案が成立したら香港の自由と自治が崩壊する。中国本土では法の支配に基づく公正な裁判も保障されていない」「中英共同宣言があるので、英国は特別な道徳的で法的な責任がある」
次期首相レースに名乗りを上げるジェレミー・ハント英外相は5月30日、カナダ外相とともに「逃亡犯条例改正案は中英共同宣言にうたわれた権利と自由を損なうリスクがある」と重大な懸念を示しました。西側諸国は歩調を合わせて声を上げる必要があります。
香港では14年、中国の愛国教育カリキュラムに反発した学生を中心に大規模な抗議運動「雨傘革命」が起きました。今回のデモはその規模を上回っています。
討論会を主催した英シンクタンク「ヘンリー・ジャクソン・ソサイエティ」の報告書によると、香港の若者のうち自分のアイデンティティーを中国人だと考えているのは全体の3.1%に過ぎないそうです。
(おわり)