パルデンの会

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【正論11月号】チャイナ監視台 少数民族問題と米中対立 産経新聞台北支局長 矢板明夫

インド北部カシミール地方ラダックで、中印実効支配線へ向かう道路を拡張するインド軍関係者=2014年11月(岩田智雄撮影)
インド北部カシミール地方ラダックで、中印実効支配線へ向かう道路を拡張するインド軍関係者=2014年11月(岩田智雄撮影)

 ※この記事は、月刊「正論11月号」から転載しました。ご購入はこちらをクリック

 今回は中国の少数民族問題について考えます。八月二十八日から二十九日にかけて北京で第七回チベット活動会議が開かれました。過去六回あったチベット活動会議の中心議題はチベット仏教の頂点に立つダライ・ラマ十四世に関するものでした。

 ところが今回はダライ・ラマの問題ではなく「チベット仏教の中国化」が主題となりました。これが今回の会議の大きな特徴でした。簡単に言えば中国にとってチベット問題はもはやダライ・ラマの問題というよりも、これからチベット仏教をいかに中国共産党が取り込んでいくかという問題に変容したことを意味します。

 チベットは海抜高度が高く、酸素が薄いため、漢民族の中国人が長期間の居住を続けることが難しい地域です。このため移住を進め同化を図る中国の政策もはかばかしくない。統治も安定しないし、管理も不安定な地域ですが、中国にとってここが致命傷にならないのは、ダライ・ラマはもちろんチベット仏教徒がおおむね攻撃的気質でなく、過激な暴力などをよしとしない穏やかな人々だからです。

 中国に従順なわけでは決してありませんが、といって武器を手に取り、攻撃に及ぶことはまずしない。ガソリンをかぶって焼身自殺を図り、中国に抗議の意思を示すことはあっても、執拗に噛みつくわけではありません。こうした彼らの気質が百戦錬磨の中国にとっては御しやすく、与しやすくみられてしまっていることは確かです。 これまで「ダライ・ラマをいかに取り込むか」が最優先だったチベット対策の軸足が「チベット仏教全体をどう取り込むか」にシフトしていけば、チベット仏教への中国共産党の締め付けや介入は今後ますます強まっていくとみられます。

 では中国はなぜチベット対策の軸足を変えたのでしょう。チベットでどのような事態が起きているのでしょうか。私は九月号で、中国とインドの国境紛争について述べました。六月に中国軍とインド軍が国境付近で衝突、多数の死傷者が出たことを紹介しました。この“軍事衝突”は一風変わっていて、両国軍は互いに発砲したり近代兵器や火器を使わず素手や石で戦うというものです。

 この紛争の最中、中国に衝撃が走る出来事がありました。それは中印紛争で対峙したインド軍のなかにチベット国旗である「雪山獅子旗」を掲げて戦う兵士が少なからずみられたのです。チベットの若者が中国との戦闘に駆り出され、インド軍に紛れ込んでいたのです。これはチベットとインドが関係を深め、すでにチベットに浸透したインドが背後で糸を引いていることを意味しています。

これがどれほど中国にとって衝撃だったか。中国の弾圧でチベットを逃れたダライ・ラマは一九五九年、インド北部のダラムサラに亡命政府を作りました。ですが、チベット亡命政府に対するインド政府のスタンスはこれまで事実上「生かさず殺さず」が基本でした。独立を掲げた彼らの存在は認めるが、インド政府としては原則支援も関与もしない。「出て行け」とも言わないが、歓迎もしない。いわば「居候」のような存在だったのです。

 それはかつてのインドにとっては中国との関係がそれなりに大事だったからです。インド政府が中国を刺激したり、嫌がる行動を自ら取ることは基本的にありませんでした。そう考えると、今回のインド軍との紛争現場でチベットの旗が舞う光景が中国にどれほどの衝撃を与えたか、わかるのではないでしょうか。

 最近のインドは反中姿勢を急速に強めています。中印紛争でインド側に死者が出た際も、インド政府はただちに亡くなった兵士の実名、写真を公表、国葬に近い取り扱いで弔いました。葬儀にはモディ首相が駆けつけ、兵士たちの戦いを讃え、中国との全面対決を唱えました。中国製アプリに対するインド政府の姿勢も突出しています。スマートフォンを通じて短い動画を流せるアプリ「TikTok」やメッセージを交換できる「WeChat」もそうですが、すでにインド国内での使用が禁止されてしまっているのです。これらのアプリを問題視するアメリカですら、規制が検討されてはいますが、まだ使用禁止には至っていません。

 インド政府がなぜここまで強硬姿勢を取れるか、といえばアメリカの後ろ盾があるからにほかなりません。

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