■インドに亡命者8万5000人
健康不安説がある
ダライ・ラマ14世は10日、印南部
ベンガルールのイベントで、亡命を受け入れてきたインドに対する感謝の言葉を何度も口にした
ダライ・ラマの健康不安説は度々流れてきたが、直近のきっかけは、インドメディアの一つが6月に流した「末期の
前立腺がん」との報道だ。主治医や亡命政府が即座に否定し、亡命
チベット人らは「医師の言葉を信じたい」(飲食店勤務ヤンドゥ氏、27歳)と平静に努める。
インド政府は健康不安説に信ぴょう性があるとみる。政府筋によると、米国の病院で治療を受けていたが、病状が米当局を通じ筒抜けになっていると
ダライ・ラマ側が警戒し「スイスの病院へ転院するとの情報もある」という。
インドはそれを対中融和外交に用い始めた。モディ首相は4月、中印関係改善を演出した中国・
武漢での
習近平(シー・ジンピン)
国家主席との非公式首脳会談で「
ダライ・ラマ14世の健康状態に関し情報提供し、習主席は驚きを持って聞き入り、
チベット問題の議論が長時間に及んだ」(インド政府筋)。
■冷淡になったインド
インド政府筋によると、15~16年のモディ・習会談でも、中国がインド北部での領有権の主張を一部取り下げる代わりに、インドは
ダライ・ラマ14世没後には新たな亡命の受け入れを停止する案が非公式に議論された。
インドは過去60年近く、
チベット人の亡命を受け入れてきた。人道目的のほか、1947年のインド独立直後は
チベットが中印の緩衝地帯として戦略的な意味があったからだ。だが中国による
チベット自治区の掌握が進んで亡命が一段と難しくなり、年間の亡命者も2017年には57人と、10年前の2000人以上から激減した。
インド政府の
チベット人に対する姿勢も、既に冷淡になり始めている。
チベット亡命政府は昨年、筆頭職の英語訳を従来の「首相」から「プレジデント」に改名した。
ダライ・ラマ14世の通訳を長年務めた
チベット文献図書館の理事
ラクドール氏は、インド政府の提案を受けた措置と言い「国家の大統領でなく、一組織の長という意味にすぎない」と話す。インド政府は亡命
チベット人にインド国籍の取得も勧めている。
「我々
チベット人は他者の親切を決して忘れない」。説法は機知に富み、時に笑いも誘い、立ち姿は健康不安を感じさせなかった。「カルナタカにも、そしてもちろんインドにも感謝したい」。そう力を込める
ダライ・ラマの思いは、モディ首相に届いているのだろうか。