パルデンの会

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「認知戦争」という新しいタームをご存じですか?

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宮崎正弘の国際情勢解題」 
令和三年(2021)4月13日(火曜日)弐
     通巻第6860号  
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「認知戦争」という新しいタームをご存じですか?
  マインドコントロール応用、相手国民の認知を根底からひっくり返す。
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 「認知戦争」(COGNITIVE WARFARE)という新しいターム。國際政治学上の語彙は豪のシンクタンクに集ったエミリー・ビエンヴニュ、ザック・ロジャース、そしてシアン・トロースらによって最初に提議された

 エミリー・ビエンベニュー女史は豪防衛科学技術グループのシニア・アナリスト。彼女の研究は戦略的資源としての信頼、戦争の性質の変化、紛争よりレベルが下の競合状況も含む。ザック・ロジャースは、米国・アジア政策研究センターの上級研究員。南オーストラリア州フリンダース大学ビジネス、政府、法律大学で博士号取得。シアン・トラウスはフリンダース大学で博士号を取得、「複合戦闘戦略応答」「複雑な人間システムのモデリング」研究に取り組む。専門分野は国際関係論、信頼理論、外交政策等。
 脳科学と防衛とサイバーを結びつけた国防理論であるところが新しい。

 この「認知戦争」を、台湾の軍事研究のシンクタンクがすぐに応用し、中国は台湾に対して、認知戦争を行っているが、これは「明日の戦争」の先駆となり、戦場は陸・海・空、宇宙からサイバー空間へ移行していると分析した。
 簡潔に言えば、相手の心理、良心、感受性に影響を与える。「マインドを乗っ取れ」という戦法である。

 認知戦争という語彙を駆使した最初の米国軍人はデビッド・ゴールドフェイン将軍(米国空軍)で、「消耗戦争から認知戦争への移行」と述べて、注目された。

 通常兵器の消耗戦から、効果重視の作戦へ移行させ、明日の戦争を支えるのは、デジタル化され、ネットワーク化されたインフラをベースとする。
これに沿ってインテリジェンス、監視、偵察、電子戦争、心理作戦、サイバー作戦を総合して情報をコントロールする。米軍の考えることは総合的でシステマティックである。

 米国ならびに盟国はハイテクを防衛し、知財を擁護する政策に転じているが、かえって敵対国家の軍事戦略の方向性の転換、敵に学習の機会を提供したと言えなくもない。なにしろ孫子以来、中国は「戦わずに勝つ」ことに戦略的文化の中枢があり、心理戦の優劣が勝敗を決めるという戦争の本質を理解している。


 ▲中国の「超限戦」とロシアの  「ハイブリッド戦争」は同質のカテゴリー

 従来の戦場での優位性、その実践経験の蓄積があり、米国と同盟国は兵器、そのシステムに改良を重ねた。インターネットとはそもそも米軍の通信網から発展したではないか。
宇宙衛星による敵情報のモニターもスパコンによる解析も圧倒的に米国が有利だった。それも昨日までの話である。

西側によって考案され、商業部門に転用され民生活用され、あげくはGAFAの興隆であり、その中国の亜流(ファーウェイ、テンセント、パイドゥ、アリババ)が世界市場を席巻した。
こうしてネットワークによるデジタル時代の技術は、摸倣的想像力が豊かな敵対者への戦略的贈り物に化けた。まことに皮肉である。

 「認知戦争」は広範な文脈での「情報戦」。狭義に捉えると情報操作である。
つまりマインドコントロールの応用で、相手国民の認知を根底からひっくり返す。COGNTIVEはCOGNITION(認識)の形容詞だ。

2016年の大統領選でトランプが勝利した時、「ロシアが介入した。フェイクニュースを流した」と左翼が騒ぎ、民主党は弾劾騒ぎに持ち込んだが、これぞロシアが企図したアメリカの分断である。
米国はまんまとロシアの仕掛けた認知戦争に引っかかったのだ。

 中国の唱える「超限戦」とロシアの「ハイブリッド戦争」は同質のカテゴリーに捉えてよいのではないか。

 廣瀬陽子『ハイブリッド戦争 ロシアの新しい国家戦略』(講談社現代新書)はこう定義する。

「政治的目的を達成するために軍事的脅迫とそれ以外のさまざまな手段、つまり、正規戦、非正規戦が組み合わされた戦争の手法である。いわゆる軍事的な先頭に加え、政治、経済、外交、プロパガンダを含む情報、心理戦などのツールの他、テロや犯罪行為なども公式、非公式に組み合わされて展開される。ハイブリッド戦争は、2013年11月の抗議行動に端を発するウクライナ危機でロシアが行使したものとして注目されるようになった」

 その年の二月に参謀総長だったゲラシモフが「新しい戦争の形態や方法を再考すべきだとしたうえで、21世紀の戦争のルールは大幅に変更され、政治的、戦略的目標の達成のためには、非軍事敵手段は、特定の場合には軍事力行使と比較してはるかに有効であることが証明されていると主張し」ていた。

 廣瀬陽子教授に従えば、プーチンの手法はハイブリッド戦争である。これは言葉を換えて言えば、プーチンが仕掛けていたのは「認知戦争」だったのだ。
 人間の認知、情報を如何に捉え直し、理解するかを変える。情報を変えるのでない。相手の認知の捉え方を変えてしまう。いかなる情報に対しても、正しい判断をしにくくなる。


▲目の前にあるものを操作してしまうと人間の意思決定サイクルは狂う

 専門家のジェイムズ齋藤氏は「トカナ」というサイト(2021年2月23日)のなかで次のように発言している。

「ロシアが仕掛けたのは情報空間の二極化を加速させたということです。ロシアの認知戦には「反射的コントロール(reflexive control)」というものがあって、
簡単に言いますと、人間の認知を徹底的に分析し、相手の意思決定サイクルに入り込むものです。このサイクルはウーダループ(OODAループ)と呼ばれるものが
代表的で、少し説明すると人間には「観察(Observe)、方向付け(Orient)、決心(Decide)、実行(Act)」の流れを繰り返すループがあって、客観現実=目で見たもので意思決定をするということがわかっています。逆に言えば、目の前にあるものを操作してしまうと人間の意思決定サイクルは狂っていくんです。ロシアはこのウーダループに介入して、自分たちが意図した方向に意思決定サイクルを狂わせたんです。
 情報操作を深化させて洗脳の域にまで達しているということです。昔から行われている情報操作は敵国内のプロパガンダだったんですが、いまは世界がソーシャルメディアでつながっていますよね。つながっているということはいつでもあなたの目の前にロシア、中国が介入できるということになります」。

 さて日本はハッカー対策がやっとこさ軌道に乗りつつある段階、左翼の情報操作は日常茶飯、認知戦争には対応さえ取れない状態ではないのか。

 ところで「朗報」がひとつ。
 中国の公安部サイバーセキュリティ対策室の前責任者(元陝西省省長)のリュウ・シンユ(音訳不明)が、「不適切は業務逸脱」として過去一年間捜査を受けていたが、さきごろ「腐敗行為」があったとして逮捕されという(『サウスチャイナ・モーニングポスト』、2021年4月12日)。
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