北京五輪に「全面ボイコット」の可能性浮上。テニス選手不明事件で広がる中国不信
人権問題の観点から、欧米諸国が検討している北京五輪の外交的ボイコット。しかし一部からは、選手団を含めた全面ボイコットを主張する声も上がっているようです。今回のメルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』では台湾出身の評論家・黄文雄さんが、中国のプロテニス選手失踪事件により、これまで以上に民主主義国の間で習近平政権の人権弾圧に対する不信感が高まりを見せているという事実を紹介するとともに、そのような国家が開催する五輪への参加意義を疑問視。さらにこのタイミングで中国当局から訪中要請を受けた林外相に対しては、彼らの求めに応じぬよう強く求めています。
本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2021年11月24日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:黄文雄(こう・ぶんゆう)
1938年、台湾生まれ。1964年来日。早稲田大学商学部卒業、明治大学大学院修士課程修了。『中国の没落』(台湾・前衛出版社)が大反響を呼び、評論家活動へ。著書に17万部のベストセラーとなった『日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか』(徳間書店)など多数。
加えて、民主主義サミットでは、人権尊重の促進がテーマということもあって、ウイグルや香港問題に加え、テニスプレーヤーの彭帥氏に対する共産党幹部の性的関係強要問題、その後の失踪問題も議題として登る可能性もあります。
中国側がさかんに彭帥氏について「元気で問題ない」とアピールしているのは、来年の北京冬季五輪もさることながら、この民主主義サミットを意識してのことでしょう。
言うまでもなく、民主主義において最重要視されるのが人権であり、その価値を共有している国々が集まることで、北京冬季五輪への「政治ボイコット」への流れが加速する可能性もあります。中国としては、それはどうしても避けたいことでしょう。
彭帥氏はIOCのバッハ会長とテレビ電話会談をして自身の身の安全を証言したとのことですが、もちろん、それをお膳立てしたのは中国当局です。なぜバッハ会長と会談させたかといえば、北京五輪のこともありますが、五輪憲章には最重要の項目として人権尊重が謳われていますから、バッハ会長にお墨付きを与えてもらうことで人権問題もクリアしたということで、民主主義サミットを牽制しようとしたのでしょう。
とはいえ、中国とバッハ会長は五輪開催で利害共有関係にあるため、かなり露骨な結託でした。バッハ会長が中国の人権問題に疑念を抱いて、五輪を中止にすることなどありえないからです。とはいえ、国際的に評判が良くないバッハ会長をアリバイ作りの共犯にしたのは、逆効果だったようです。WHOのテドロス事務局長と同様、中国の金に丸め込まれたという評判がもっぱらだからです。
共和党米議会下院の外交委員会で共和党の筆頭委員であるマイケル・マコール議員は、IOCとバッハ会長について「中国共産党による虐待に積極的に参加している」と強く批判しています。
国際人権団体のアムネスティ・インターナショナルも、ヒューマン・ライツ・ウオッチも、IOCに対して「中国政府のプロパガンダの役割を果たしている」と批判しています。誰もが彭帥氏とバッハ会長のテレビ電話会談は「茶番」であり、まったく信用していないということです。
● IOC、中国テニス選手との電話で限界露呈 中立性は支持されず
もしも彭帥氏の身の上が本当に安全だったとしても、中国は情報を隠蔽しすぎました。彭帥氏の微博を閉鎖し、外国メディアの報道を人民に伝われないようにシャットアウトし、本人には自由に語らせない。だから誰も信じないのです。そしてその不信感はウイグルや香港での人権弾圧にも及びます。
中国とIOCへの不信感は、いずれ北京五輪の選手のボイコットまで発展する可能性もあります。あれだけ「多様性」が謳われた東京五輪の次が「人権弾圧」の北京五輪では、何のための五輪なのか、その意義すら失いかねません。参加するアスリートにとってもかえってイメージダウンでしょう。
すでにカナダ紙「グローブ・アンド・メール」は、11月23日、米英が検討している外交ボイコットは派遣選手を人質に取られる危険があるとして、全面ボイコットすべきだという、カナダの元外交官の論評を伝えました。
カナダはファーウェイの孟晩舟副会長を逮捕した際、中国にいるカナダ人が逮捕されるという「人質外交」を経験しているだけに、何をされるかわからないという危惧を抱いているのでしょう。
北京冬季五輪およびパラリンピックの公式モットーは、「Together for a Shared Future(未来に向かって一緒に)」だそうです。中国語では「一起向未来」と書きます。
しかし、人権弾圧と独裁政治が行われ、世界から警戒され嫌われている中国が「一緒に未来へ」などというスローガンを掲げるのは、まるで喜劇です。滑稽であると同時に哀れでもあります。金目当て以外で、現在の中国と未来を共にしたいという国は、同じ専制国家を除いて一つもないでしょう。
一方、日本は「親中派」とされる林芳正外務大臣が、中国から訪中を打診されているとのこと。これは米英を中心とした外交ボイコットの動きや、民主主義サミットの輪を壊そうとするものであり、中国の求めに応じることは、海外に誤ったメッセージを送ることになりかねません。
● 林外相への訪中打診 “政府 慎重対応を” 自民 佐藤外交部会長
天安門事件による欧米の対中制裁を崩すことになったのも、1992年の天皇訪中でした。これにより欧米の制裁の輪が緩み、その後の中国の驚異的な成長と増長につながったのです。現在の中国の増長慢を招いた責任の一端は、日本にあるのです。同じ過ちを繰り返すべきではありません。過去の戦争を反省するより、こちらのほうがよほど世界に対して罪深いことなのです。