岸田文雄政権は、憲政史上最長、首相通算在任日数3188日を誇り、参院選の街頭演説中に凶弾に倒れた安倍晋三元首相の「国葬(国葬儀)」を9月27日、東京・北の丸公園の日本武道館で実施する。安倍氏の外交手腕ゆえか、米国のカマラ・ハリス副大統領や、バラク・オバマ元米大統領、フランスのエマニュエル・マクロン大統領、ドイツのアンゲラ・メルケル前首相ら、世界各国のVIPが参列する方向で調整している。日本の威信にかけて、警備・警護や接遇に万全を期す責任があるが、簡単ではない。産経新聞論説副委員長の佐々木類氏が連載「日本復喝」で指摘した。
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長期政権を見据える岸田首相にとって、第2次改造内閣発足後の最大の関門が、9月27日行われる安倍元首相の「国葬」だ。
何しろ、米国のハリス副大統領とオバマ元大統領をはじめ、世界各国の要人が参列する方向で調整している。ビル・クリントン米元大統領と、ジョージ・ブッシュ米元大統領(子)の来日観測も流れている。
オバマ氏は2015年4月、安倍氏が訪米した際、首都ワシントンのリンカーン記念堂を大統領専用車で案内した。16年5月には、安倍氏が同行して、現職大統領として初めて被爆地の広島市を訪問している。
驚くのは、米国の大統領が来日する際のシークレットサービスの数だ。正確な規模や配置は極秘だが、永田町関係者によると、ドナルド・トランプ前大統領が現職時代に来日した際は、800人以上だったという。
現職の米大統領と、日本の元首相という立場の違いがあるとはいえ、今年7月、安倍氏が奈良市内で凶弾に倒れた際の警備・警護体制とは、天と地ほどの差がある。
犯人の山上徹也容疑者の凶行を許したずさんな警備・警護体制については、警察庁が現在、検証作業を進めているが、各国首脳級が「国葬」のため来日する際は、失態は絶対に許されない。
警備陣は、各国要人の身に「まさか」のことが起きた場合、日本がG7(先進7カ国)のメンバーから外れるだけでは済まないことを認識すべきだ。
外務省によると、国葬通知を出したのは日本と国交がある195カ国と、台湾、香港、マカオ、パレスチナの4地域、国連などの国際機関で、ロシアも含まれるという。
懸念されるのは、台湾関係者をはじめ、各国VIPの接遇だ。
事件発生から3日後の7月11日、安倍氏の急逝に哀悼の意を表するため、台湾の頼清徳副総統が来日している。本来なら、人として謝意を表すべきところだが、林芳正外相は翌日の記者会見で、副総統を「ご指摘の人物」と呼び、顰蹙(ひんしゅく)を買った。
さすがは、「政界屈指の親中派」といわれるだけのことはある。内閣改造で、林氏を留任させた岸田首相の狙いは理解不能だが、台湾の首脳クラスが「国葬」のために来日した際に無礼がないよう、林氏には台湾関係者の席をしっかり用意してもらいたい。
安倍氏の死去後、多数の各国首脳から弔意が寄せられている。「国葬」にも、200以上の国や地域の首脳級が参列を希望するとみられており、「弔問外交」も多数想定される。
岸田首相は事あるごとに、外相経験の長さを口にしている。外務官僚の書いた紙ではなく、首相としてどこまで、丹田(たんでん=へそ下の下腹部)に力の入った自分の言葉を発することができるかが問われている。
■佐々木類(ささき・るい) 1964年、東京都生まれ。89年、産経新聞入社。警視庁で汚職事件などを担当後、政治部で首相官邸、自民党など各キャップを歴任。この間、米バンダービルト大学公共政策研究所で客員研究員。2010年にワシントン支局長、九州総局長を経て、現在、論説副委員長。沖縄・尖閣諸島への上陸や、2度の訪朝など現場主義を貫く。主な著書に『チャイニーズ・ジャパン』(ハート出版)、『日本が消える日』(同)、『日本復喝!』(同)など。