「総書記3選」を前に全米騒然…! “元部下”蔡霞女史が暴露した「習近平の弱点」
米外交誌に激烈な習近平批判を寄稿
彼女の名を一躍知らしめたのが、2016年2月に「北京の不動産王」任志強氏が起こした「舌禍事件」だった。 習近平総書記が新華社通信、人民日報社、CCTV(中国中央電視台)を視察し、「すべてのメディアは党の姓を名乗れ(共産党の宣伝機関になれ)」と号令をかけた。 この「党姓論」に激怒した任氏は、「微博」(中国版ツイッター)に、「すべてのメディアに姓があって、かつ国民の利益を代表しないなら、国民は捨てられ路頭に迷うようになるだろう」と噛みついた。任氏はひっ捕らえられ、一年間の保護監察処分となった(その後、復活したが、2020年に再び「舌禍事件」を起こし、現在は懲役18年の刑で入獄中)。 この「党姓論」の時、「党章党規は任志強たちの党員としての権利」と題した文章を発表し、任氏を支持したのが、蔡霞女史だった。 さらに2016年5月に北京で起きた「雷洋事件」でも、彼女は怒りを炸裂させた。29歳のエリート青年・雷洋(らい・よう)氏が路上で警官たちに呼び止められ、「売春宿から出てきた」とでっちあげられてカネを要求され、拒否すると派出所で撲殺された事件だ。公安(警察)当局はこの事件を闇に葬ろうとしたが、蔡霞女史らが立ち上がったのだ。 2020年の年初に起こった「李文亮事件」(湖北省武漢で最初に新型コロナウイルスを暴露した医師で、公安の強い圧力を受けた後、コロナにかかって死去した)の時も、彼女は「医者と看護師には言論の自由がある」と声明を発表した。同年6月、香港に香港国家安全維持法が施行された時も、反対する文章を発表した。 この頃、2018年3月に国家主席の任期を撤廃する憲法改正を強行した習近平主席を批判する彼女の音声が、SNS上で拡散。彼女は2020年8月17日に、党籍や年金生活者としての待遇を剥奪されたが、その時にはすでに中国を脱出していた。 そんな彼女が先週9月6日、アメリカの外交誌『フォーリン・アフェアーズ』(9・10月号)に、A4用紙で12枚、約1万4000字にわたる長文の文章を寄稿した。タイトルは、「習近平の弱点ー狂妄と偏執がいかに中国の未来を脅かすか」。 タイトルが示す通り、来月の第20回共産党大会で3選を目指す習近平総書記を痛烈に批判した内容で、早くも、米欧を中心に大きな反響を巻き起こしている。 その中国語の原文と、それを翻訳した英語版の全文が、同誌のホームページに掲載されている。それは前文と全8節からなっていて、勝手に番号をつけると、以下の通りだ。 1.中国黒幕党 2.共に享けた福 3.孤独な寂しい党 4.裸の皇帝 5.過ちの人 6.作用と反作用 7.さらにあと5年? 8.制約のない習 各見出しを見るだけで、おどろおどろしい内容が想像できるが、たしかに激烈な習近平批判が、各所で展開されている。以下、順にその要旨を見ていこう。
「台湾攻撃」を建議する可能性
まず、前文で述べているのは、現在の中国が悪循環に陥っているということだ。 〈 このところの習近平国家主席は、声高らかに猛進している。中国共産党内部で権力を強固なものにし、将来は自己の公的地位を、中国共産党の象徴的な指導者である毛沢東と肩を並べようとしている。すでに国家主席の任期を取っ払い、終生中国を指導できるようにした。 国内では貧困減少に長足の進展を見せたと自称し、国外では中国の国際的な声望が新たな高みに達したと述べている。多くの中国人にとって、仮に民族復興のためだとしたら、習近平の人に厳しい策略は、もしかしたらそれを受け入れる時に代価を伴うのかもしれない。 習近平の統治方式がますます極端になるにつれ、習近平が引き起こす内紛と、積もる怨みも、ますます強烈になっていく。党内各派の間の競争は過去のいかなる時よりも強烈で複雑、残酷になるだろう。 そうなれば中国はおそらく、一種の悪循環に陥る。すなわち、習近平はさらに大胆な行動でもって、自分が意識する脅威に対して反応する。それによってさらに多くの反撃を招く。そのような悪循環に陥る中で絶望的な救いを求めて、習近平はおそらく災難を引き起こす。すなわち危険な道、例えば台湾攻撃のようなことを建議する。 習近平は、中国が過去40年で獲得してきた功績を棄て去る可能性が高い。功績とは、安定したリーダーシップのもとでの良好な国際的名声のことだ。事実、習近平はすでにそのようなことをやっている 〉
父親・母親のコネに頼った過去
このように、前書きから大変手厳しい。第一節の「中国黒幕党」では、習近平主席が過去に、父親である習仲勲(しゅう・ちゅうくん)副首相と母親・斉心(さい・しん)女史のコネに頼り切っていたことを暴露している。 〈 習近平は父・習仲勲との関係の中で、浅からぬ利益を得てきた。習仲勲は疑いもない資質と経歴を有した中国共産党のリーダーであり、毛沢東時代の一時期、宣伝部長も担当していた。 1980年代の初め、習近平が河北省北部で県(日本の郡にあたる)の書記を担当することになった時、母親が河北省の高揚(こう・よう)書記に手紙を書き、習近平をよろしくと頼んだ。 だが高楊書記は、河北省の党常務委員会議でその内容をばらしてしまい、習近平は非常にバツが悪い立場に置かれてしまった。なぜならそうした行為は、幹部の特権的な制度に反対する新たな規定に違反していたからだ。 習近平は、永遠にこの一件を忘れなかった。2009年に高楊が死去した時、葬儀に行くことを拒絶した。両者とも中央党校の校長を務めたのに、習近平は慣例を破ったのだ。 当時、福建省党委書記の父親は、習仲勲の旧い親友だった。それでありえないことに、両家族で示し合わせて、(河北省から)習近平を福建省に転勤させたのだ。 習近平は福建省でも、一向にぱっとしなかった。1988年、ある地方の選挙で、習近平は現地の常務副市長に落選した。それでもその後、別の地域の党委書記になった。だがそこでも凡庸だったので、ずっと出世できなかった。 中国共産党の官界では、地方庁級(地方中堅幹部)から省部級(大臣・県知事クラス)に上がれるかが一つの「関門」だが、習近平は長くこの壁を越えられなかった。そこで一族が再び介入した。 1992年、習近平の母親が新たに福建省党委書記に就いた賈慶林(か・けいりん)に、お願いをした。すると習近平は、省都の福州勤務となった。そこから飛躍の道を歩み始めたのだ 〉
習近平の出世の経緯
第二節の「共に享けた福」では、トウ小平氏が個人崇拝を禁じ、共産党の内部が民主化されていったことで、習近平の出世の道が開けたと書いている。 〈 (党内の民主化は)ますます成功し、胡錦濤(こ・きんとう)は過去にない制度―政治局委員(トップ25)は党の幹部たちの投票で選ばれた人を就けるという制度―を作った。だが皮肉なことに、まさにこの準民主的な制度が、習近平を権力の頂点に立たせたのだ。 2007年、中央委員会拡大会議で、400人余りの高位のリーダーたちが北京に集まり、200人の部長級(大臣級)幹部の中から政治局のメンバーとなる25人を推薦した。すると習近平がトップとなった。それはおそらく、習近平の浙江省と上海市での成績がよかったからではなく、父親が党内で尊重されていたのと、退任した長老(江沢民)の支持と圧力によるものだ。 それから5年後(2012年)の同様の投票でも、習近平の得票数が一番多かった。それで退任する幹部たちの総意ということで、権力ピラミッドの頂点に抜擢されたのだ。すると習近平は瞬く間に、中国共産党が何十年も築いてきた集団指導体制の進展を抹消してしまった 〉
まさに毛沢東時代のように
第三節の「孤独な寂しい党」では、習近平政権が遂行した前例のない反腐敗運動が、恣意的なものだったと指摘している。 〈 習近平がトップに立った時、西側の多くの人が「中国のゴルバチョフ」と称賛した。一部では「ソ連の最後の指導者と同様、習近平は急進的な改革を行い、国家の経済に対するコントロールを解除し、政治制度も民主化する」と認識されていた。 もちろん、結果はそれが幻想であることを証明した。それどころか、習近平は毛沢東の忠実な学生であり、毛沢東のように歴史に名を刻むことを渇望し、ついに自己の絶対権力確立に着手した。現在は、まさに毛沢東時代のように、中国で独り舞台が再演されている。 習近平は反腐敗運動を発動した。党を滅亡の危機から救うのが使命だと称している。習近平はこれを、政治的な粛清運動に利用した。公的データによれば、2012年12月から2021年6月まで、中国共産党は393人の省部級(県知事・大臣級)幹部を調べ上げ、処理している。その他、63.1万人の基礎的党組織で政策を執行する処(課長)級幹部を処分した。 こうした粛清行動の中には、習近平から見て脅威となる最有力の権勢を誇る官員たちも逮捕された。 そこには、元政治局常務委員で中国の安全機構の責任者だった周永康(しゅう・えいこう)や、習近平がライバルに映り、潜在的な後継者だった政治局委員の孫政才(そん・せいさい)も含まれる。ただ注意すべきは、習近平の出世を助けた者は免れているということだ。 例えば、1990年代の福建省党委書記で最後は常務委員にまでなった賈慶林。彼とその家族は極度に腐敗していて、一家の事務所はパナマ文書でも暴露され、孫娘と娘婿は複数の秘密オフショア会社を所有していたにもかかわらず、習近平の反腐敗運動で安泰無事だった 〉
他人の建議は断固として排斥
第四節の「裸の皇帝」では、習近平総書記が文字通り「裸の皇帝」と化している様を述べ、その理由についても言及している。 〈 習近平はいったん権力を掌握したら、二度と批判的意見を容認しなくなった。習近平は常務委員会や政治局会議の席で政策を討論しないという習慣を制定した。ややもすれば自分の冗長な講話を発表するだけだ。 公的なデータによれば、2012年11月から2022年2月までの期間で、習近平は80回も政治局の「集団学習」を招集し、会議では「学習する」特定の主題について長大な講話を述べる。 習近平は部下のいかなる者からも、耳の痛い建議を受けることを拒否している。 例えば、核心的人物で習近平1期目の常務委員だった王岐山がある時、習近平が党内で要求している「八項規定」(贅沢禁止令)の名称を変えて、正式な党内の制度にしてはどうかと建議した。まったく理のある建議だが、習近平は自分の領域を冒されたと捉えた。なぜなら、自分から言い出したことではないからだ。それで習近平は王岐山を、その場で叱りつけたのだ。 中国共産党には、毛沢東時代に遡って、幹部が最高指導者に直筆の手紙を出して建議したり、ある時は批判するという長きにわたる伝統がある。しかしながら習近平は、権力の座に就いてまもなく、そのようなことを試みる人物を反面教師とした。 2017年頃、中国人民解放軍の将軍で、元国家主席の娘婿である劉亜洲(りゅう・あしゅう)が、新疆ウイグル自治区の政策に関して手紙を書き、新疆ウイグルの少数民族の人々への弾圧を止めるよう建議した。すると、習近平の政策について二度と妄言を吐くなと警告を受けたのだ。 習近平は他人の建議を受け入れず、自分の誤りを正すという重要なルートを閉ざしてしまっている。 なぜ習近平は前任者たちと違って、他人の建議を排斥するのか? 思うに、原因の一部は習近平のコンプレックスにある。他の中国共産党のリーダーたちと較べて、習近平は自分の教育程度が著しく低いことを自覚している。 たとえ(最難関の)清華大学で化学の工程を勉強したと言っても、「工農兵」(工員・農民・兵士枠)学生の一人だ。1970年代までは、学術的な成績ではなく、政治的要素や出身階級によって学生を採っていた。江沢民や胡錦濤(こ・きんとう)が激しい受験競争を勝ち抜いて大学に合格したのとは違うのだ 〉
毛沢東時代の計画経済が復活
第五節「過ちの人」は、習近平体制の外交と経済、コロナ対策などの過ちを指摘している。 〈 いかなる政治システムにおいても、制約を受けない権力というのは皆、危険である。現実から離脱し、グループの意見に束縛されずにリーダーが軽率な行為に出て、実施した政策は往々にして愚かなものになるか、不人気なものになる。もしくはその両方だ。 習近平も、「一切の権力を自分が手にする」という統治スタイルによって、多くの災難的な決定が下されてきた。それらに共通するのは、指令を出した後の実際の結末をコントロールする能力に欠けていることだ。 まず外交政策を見てみよう。習近平は、トウ小平が定めた「韜光養晦」(とうこうようかい=才能を隠して内に力を蓄える政策)を放棄して、アメリカと直接対決し、中国を中心とした世界秩序を追求している。 そしてその政策のため、冒険的、攻撃的な行為に出ている。南シナ海の軍事化、台湾への威圧、外交官に一種の粗暴な外交政策スタイルを奨励し、「戦狼」外交と呼ばれていることなどだ。 習近平はロシアのプーチン大統領と事実上の連盟を結び、国際社会との関係はますます疎遠になっていっている。各国はそうしたことと関連した債務や腐敗に嫌気がさし、習近平の「一帯一路」は、ますます逆境に直面している。 同様に、習近平の経済政策もうまくいっていない。市場化改革の開拓は中国共産党の象徴的な成果の一つで、数億人の中国人を貧困から救った。しかしながら習近平時代になって以降、民営経済は統治上の脅威と見なされ、毛沢東時代の計画経済が復活してきている。 習近平は国有企業を強化し、民営企業に共産党組織を作らせ、企業経営を指導している。そして腐敗への攻撃と独占禁止法を楯にして、私営企業と民営企業家の資産を略奪している。 ここ数年、安邦保険や海航集団などを含む中国の一部の最も活力ある企業が、事実上、業務を遂行する権限を国家に移行させられた。その他の一部の企業、テンセントやECの巨頭アリババなどは、新たな法規のもとで、調査と罰金を組み合わせて圧力をかけて屈服させた。 大午農牧集団の所有者で億万長者の孫大午(そん・だいご)は、公開の場で習近平の弁護士弾圧を批判して逮捕され、懲役18年を喰らった。孫の企業はやらせのオークションにかけられ、即席の国有企業に売り払われた。買収価格はもとの企業価値からすれば、タダ同然だった。 2022年2月、オミクロン株の変異株が上海を襲った時、習近平は再度、奇妙な対応策を取った。私は国務院の人から、政策決定に至る詳細を伝え聞いた。それによると、上海で感染爆発が起こってまもなく、約60人の疫病の専門家からなるオンライン会議を開いた。 その参加者は一致して、緩やかな隔離要求を含む、その時に公布していた最新の指導方針に厳格に従えば、上海の生活は大枠普段通りで済むと考えた。また上海市の党と政府の系統や、衛生系統の多くの官僚たちも、そうしたやり方を支持した。 ところが、習近平がこれを聞いて、激怒した。専門家から意見を聴取することを拒絶し、自らの「ゼロコロナ」政策を強制的に執行させたのだ。それによって、上海の数千万人の住民は外出を禁止され、食品を買うことも救急医療を受けることも許されなくなった。そのため、ある人は病院の門前で死に、またある人はマンションから飛び降りて死亡した 〉
政治家・官僚たちの不満と失望
第六節「作用と反作用」では、習近平総書記が、左派・中間派・右派の政治家、及び官僚たちから、まんべんなく嫌われていると主張している。 〈 中国の指導層はもともと一枚岩ではない。左派は正統的なマルクス主義者で、トウ小平の時代までは主動的地位を占めていた。彼らは継続して階級闘争と暴力革命を進めようと主張している。習近平が権力の座に就く前に、窓際に行かされ監禁された薄熙来(はく・きらい)政治局委員が左派だし、習近平本人も左派だ。 中間派は、トウ小平政治を引き継ぐ幹部たちが主だ。現在の幹部の大多数がトウ小平時代に養成された人たちなので、中間派は、中国共産党の官僚システムの派閥では主導的だ。彼らは全面的な経済改革と限定的な政治改革を支持している。 限定的というのは、共産党の永久統治を確保するためだ。江沢民、元国家副主席の曽慶紅(そ・けいこう)、胡錦濤、それに現総理の李克強(り・こくきょう)らだ。 右派は市場経済と、温和な権威主義ないしは憲政民主の自由主義者だ。胡耀邦(こ・ようほう)と趙紫陽(ちょう・しよう)の追随者、2003年から2013年まで総理を務めた温家宝(おん・かほう)らだ。 習近平は、上述の左派・中間派・右派の三派のどこからも日増しに反対に遭うようになっている。左派は最初こそ支持していたが、いまでは毛沢東的な政策が足りないと思っている。 また一部は、習近平が労働運動を弾圧して以降、幻想から覚めた。中間派は、習近平が経済の改革に逆行しているので不満だ。右派は、完全に沈黙させられている。習近平がささやかな政治評論すら取り締まるからだ。 官僚機構の中で、エリート層の憤慨は、彼らの部下たちにも拡散している。習近平は統治を始めて初期の頃に権力の「ガラガラポン」(既得権益剥奪)をやったために、官僚機構の多くの人々は不満と失望を募らせている。とはいえ彼らは、積極的に抵抗するのではなく、不作為(サボり)という行動を取っている 〉
審査、監視、逮捕の恐怖から
第七節「さらにあと5年?」では、反習近平派の苦しい立場を解説している。 〈 心に不満を持つことと、行動に訴えることとは別だ。共産党の幹部たちは、ヘタすると腐敗のレッテルを貼られてしまうことを知っているので、あえて習近平と対決することはない。 高性能の監視カメラで常に見張られていて、すでに退職した国家指導者をも含めて、党内のエリートたちは、公の仕事以外で相互に交流をしたがらない。審査、監視、及び逮捕を恐れて沈黙を保っているのだ。 5月に中国共産党は、リタイアした幹部への指導原則を急ぎ取りまとめた。そして彼らに対して、「公開の場で党中央の政治の方針を歪める謀議をしてはならない」と警告した。 マイナスの政治的言論を散布してはならず、非合法の社会組織の活動にも参加してはならない。かつての権威、地位、影響を、自己や他人の利益獲得のために利用してもならず、各種の思想錯誤には、決然と反対し抵抗するようにと指導されている。 それでも第20回共産党大会前の数ヵ月間、中国共産党内部の暗闘は、ますます激烈になるだろう。習近平はおそらく、さらに多くの高級幹部に対して逮捕令を出し、さらに多くの審判を行うに違いない。 また習近平の批判者も、さらに多くの情報を暴露し、多くのデマも流すだろう。ともあれこうして、トウ小平の執政以来、ただ一つ意義深かった政治改革は、雲散霧消していく 〉
習近平路線を改変するただ一つの方法
おしまいの第八節「制約のない習」は、まるで「ヨハネの黙示録」のように、習近平総書記の「3選後の中国」に対する予言である。この一節は結語も兼ねており、興味深いので全訳する。 〈 そして、その後はどうなるのか? 間違いなく習近平は勝利し、ある種の特権を得るだろう。すなわち、中国共産党が中国を振興させるという既定の目標を実現するため、もう何でもありになる。習近平の野心は、新たな高みにまで上がるだろう。民営企業にプレッシャーがかかり、経済を振興させる努力も失敗に帰す。 その後、習近平は自己の中央集権経済政策を倍加させるだろう。権力維持のため、いかなる潜在的なライバルに対しても、引き続き先制攻撃して消滅させる。社会のコントロールを強化し、中国はますます北朝鮮と化していく。 習近平は、3期目の任期が過ぎた後も、引き続き権力を掌握し続けようとするのではないか。誇大妄想的な習近平は、南シナ海の係争地域の軍事化を加速させ、台湾を強行的にコントロール下に置こうと企図するに違いない。そして、習近平が不断に中国の支配的地位を追求するのに伴い、中国を一段と、世界から孤立させていくことになる。 ただ、こうした上述の挙措は、党内の不満の雰囲気を消すことにはならない。たとえ3選できても、中国共産党内部で習近平の権限拡大や個人崇拝に対する反対の声が減ることはない。さらに習近平は、日々悪化していくように映る国民の合法的権益の問題を解決することはできない。 事実上、習近平が3期目の任期内に起こることは、おそらくは戦争のリスク、社会動乱と経済危機を増すことだろう。つまりさらに、国民の不満の雰囲気を増加させるということだ。 中国においては、たとえ武力と恐怖によってのみ権力を掌握しようとしても、うまくいかない。業績は依然として重要だ。毛沢東とトウ小平は、ともに成果を挙げて権威を獲得した。毛沢東は国民党を敗走させ、中国を解放した。トウ小平は中国を開放し、経済的繁栄の道を開いた。それらに較べて、習近平には勝利と呼べるものがない。同時に過失を犯す余地もない。 私が見るに、中国が習近平路線を改変するただ一つの可能な方法は、最も恐ろしくて最も致命的だが、中国が戦争を起こして屈辱的な敗北を喫することだ。 もしも習近平が、その第一目標である台湾を攻撃すれば、戦争はおそらく計画通りには進まないだろう。また台湾も、アメリカの援護の下で侵入に抵抗し、中国大陸に深刻な破壊をもたらすだろう。 そのような状況下で、エリートと大衆は習近平を見放す。それは、習近平個人が失脚するだけでなく、中国共産党も失脚するだろう。 歴史の先例を遡れば、19世紀の乾隆帝は帝国の版図を中央アジア、ミャンマー、ベトナムまで拡大することはできなかった。そして中国は、日清戦争で惨敗し、それは大清朝が滅亡する土台となった。さらに、長期的な政治的混乱を引き起こした。皇帝は必ずしも永遠のものではないのだ 〉 以上である。蔡霞女史の「蜂の一刺し」は、どんな「効果」を生むのだろうか? 個人的な感想を言えば、直接的な影響はほとんどない気がする。直接的な影響とはつまり、この寄稿文によって習近平総書記の3選が揺らぐといったことだ。 ただ、『フォーリン・アフェアーズ』に、これだけ詳細な「元部下の暴露」が載ったことは、間接的な影響は生むだろう。それは例えば、習総書記の3選後の西側諸国の対中政策が、より厳しいものになるといったことだ。 ともあれ、5年に一度の共産党大会の前というのは、毎度何でもありの暴露合戦が起こる。あと1ヵ月、何が起こるか分からない。