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非公式に出ていた日本人へのビジネスビザ         なぜ中国は”報復措置”を解除したのか ビザ発給めぐる「ボタンの掛け違い」

なぜ中国は”報復措置”を解除したのか ビザ発給めぐる「ボタンの掛け違い」と知られざる日本の「ファインプレー」

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テレビ朝日系(ANN)

中国便り06号  ANN中国総局長 冨坂範明  2023年1月 2022年12月にゼロコロナ政策を撤回した中国で、1~2カ月の間に起きた新型コロナのすさまじい感染爆発。感染した人の数は、14億人の総人口のうち、9億人とも11億人とも言われている。 2023年1月25日までの全世界の累計感染者数が6億6000万人強であることを考えると、3年間の全感染者数を優に超える人たちが、一気に感染したことになる。 懸念されるのが、変異株の発生で、当然各国は水際対策の強化に乗り出したが、中国当局は「差別的だ」と猛反発。 そこで起きたのが、日本と中国の、ビザをめぐる「せめぎ合い」だ。 だが、実はそれは、勘違いから始まり、日本側の“あるメッセージ”がきっかけで、何もなかったかのように修正されたと思われるのだ。

■口火を切ったのは日本 駐在の日本人に影響も

最初に口火を切ったのは日本だった。12月30日から、中国からの渡航者に対して抗原検査の実施を発表、陽性の場合は原則7日間の施設隔離とした。 この時点までに中国国内では、火葬場に行列ができるなど、コロナによる死者が急増していた。しかし、中国当局の発表する死者数はいつまでも1桁台。情報提供の姿勢に懸念が出るのは当然で、日本が自前で科学的な予防措置を取るのは合理的だといえた。 しかし皮肉にも、この措置で一番影響を受けたのは、正月の一時帰国を予定していた中国駐在の日本人だった。中国での隔離がなくなったと思ったら、母国で隔離されてしまうかもしれない不条理。日本に自宅があっても、原則は施設隔離という点も、不興を買った。隔離の影響で、中学受験ができなかった子供の話は、新聞でも大きく取り上げられた。 さらに、日本は1月8日から、検査のレベルを、PCR検査もしくは抗原定量検査に引き上げた。この措置はさらなる反発を呼び、今度は中国が「報復措置」に踏み切ることとなる。

■韓国から始まった報復 日本にはさらに厳しい「全面停止」

1月10日、まず報復措置が発表されたのは韓国に対してだった。韓国は日本と同じ到着時のPCR検査に加え、中国人に対する短期ビザの発給停止に踏み込んでいた。 そこで中国も、韓国人に対する短期ビザの発給を、同じく停止した。この時点までに、中国外務省は「差別的な」入国制限を行った国には「相応の措置」を取ると示唆していた。 私は日本が、中国人へのビザを停めていない以上、報復措置があるとしても、ビザの発給停止はないだろうと踏んでいた。しかし、その予想はあっさり裏切られた。 同じ日に発表された日本への報復措置は、長期も短期も含めた全ての「一般ビザの発給停止」という、韓国よりもさらに厳しい内容だったのだ。 「一般ビザ発給停止」の発表を受けて、北京駐在の日本人には、再びショックの波が押し寄せた。家族が呼べなくなってしまう…後任が来られなくってしまう…様々な不安の声が飛び交った。 なぜ、中国は日本に対して、ここまで厳しい措置を取ったのか、中国側の色々な人に聞いたが、はっきりした理由はわからなかった。しかし多くの人が誤解して口にしたのは「だって、日本だってビザを止めているでしょう?」という答えだった。繰り返すが日本は「ビザ発給」は停止していない。 もしかしたら、どこかでボタンを掛け違えたまま、不要な「せめぎ合い」をしているのではないか。そんな思いが確信に変わったのは、この言葉を耳にした時だ。 「中国のビザ、出ていますよ」

■非公式に出ていたビザ 振り上げた拳の行方

中国政府による「ビザ発給停止」の発表から数日たって、「実はビザが出ている」という話が、色々な筋から聞こえてきたのだ。商用ビザ、留学ビザ、就労ビザ…様々なビザが、政府の招聘状を用意するなど、一定の条件を満たせば、日本のビザセンターや領事館で通常通り申請できるという。ネット予約はできないが、窓口に行けば1月30日の発給再開の前でも受け付けてもらえたというから驚きだ。 中国経済が減速する中、日本との関係を悪化させたくないというのが中国政府の「本音」だろう。しかし、拳を大きく振り上げてしまった以上、「建前」としてはビザ停止を貫くしかなく、非公式に苦しい運用をしているのではないか? そして、拳を大きく振り上げる原因となったのは「日本がビザを止めている」という、中国の人たちの誤解にあったのではないだろうか? 確かに現在、中国人に対する観光ビザの発行は、一部を除いて止まっている。しかしそれは、日本政府が止めているのではなく、中国側の文化旅行部が日本への観光旅行を認めていないため、代理店による申請ができない状態が続いているためだ。 そのあたりを誤解している中国の人たちの不満に応えるため「勇み足」で、中国政府が、全面的な「一般ビザの発給停止」に踏み切ったのではないかと、次第に思えるようになってきた。

■「ビザ再開」呼び水となった1行の通知

「ボタンの掛け違い」を感じていたのは、北京の日本大使館も同じだった。1月20日春節休みを前に、日本大使館は不思議な一行の通知を出した。 「日本大使館はコロナの影響でやむを得ずビザ業務を縮小していたが、コロナの状況が変わり、ビザ業務はすでに正常に回復している」 実はこの一文は、一時期縮小していたビザの窓口が、今は元通りに戻っていますよと通知しただけのもので、新しい内容は何もない。事実、1月4日には、日本側は縮小していた窓口を元に戻し、通常通りの来館が可能としていたのだ。 しかし、大事なのは「正常に回復」という文言にあった。 日中関係筋によると、この文言の狙いは2つ。1つは、「日本はちゃんとビザを出していますよ」と、誤解している中国の人たちにアピールすること。そしてもう1つは、日本側から先にアクションを起こし、中国側が、振り上げた拳を下ろしやすくすることだ。 そして、その狙いは的中した。1月30日、中国側が「一般ビザの発給再開」を発表したのだ。再開の理由を問われた中国外務省の報道官は、「1月20日日本大使館の通知」を挙げた。新しい内容は何もない通知が、発給再開への呼び水となったのだ。メンツを重視する中国側の心理を読んだ、日本側のファインプレーと言ってもいいだろう。 こうして、1カ月近くに及んだ「せめぎ合い」は、ひとまず幕を降ろした。中国の感染状況がこのまま落ち着いていけば、航空便は徐々に増便され、人々の往来も少しずつ回復していくだろう。コロナで止まっていた交流が再開し、改めてお互いを知る機会が増えることで、日中関係の基礎がしっかりと固まっていくことを期待したい。

ANN 中国総局長 冨坂範明(テレビ朝日