中国がねらうアメリカの薬物中毒者
日増しに高まる米国の圧力に悩まされている中国にとって大打撃だったのは言うまでもないが、米国側も今回の訪問をなんとしても実現したい事情があった。 日本ではあまり知られていないが、中国はこのところ米国社会のアキレス腱を狙ってひそかに反撃に出ているからだ。 米国社会は銃乱射を始め様々な問題を抱えているが、最も深刻なのは薬物中毒だ。 薬物で最も問題になっているのは医療用麻薬フェンタニル。モルヒネの50倍の強度を持つ鎮痛剤であるフェンタニルは、末期のがん患者の苦痛を緩和するために開発されたが、過剰摂取による死亡事故が多発している。 米国では2021年、薬物の過剰摂取で死亡した約10万7000人のうち、3分の2がフェンタニルが原因だ。通常の麻薬より安価であることに加え、医療用とされていることから、依存性が強いがにもかかわらず安易に手を出してしまうと言われている。
中毒者に警察も逃げだした…
米国では7分に1人がフェンタニルで命を落としている計算だ。18歳から49歳までに限れば、死亡原因の第1位はフェンタニル中毒だ。 フェンタニルへの恐怖は米国人の間で広まるばかりだ。歯の溶けた中毒患者が通りをふらつきさまよっている様はまさに「ゾンビ」そのものだ。 1月下旬、ロサンゼルス市警の警察官たちが、警戒中に致死性のあるフェンタニルを「俺は持っているぞ」と聞いたとたんに逃げ出す様子を収めた動画がネット上で拡散して話題を呼んだ。 米国政府はフェンタニルの取り締まりに躍起になっているが、フェンタニルの海外からの流入に歯止めがかからない。 その原材料は、中国産だ。 さらに後編記事『中国が仕掛けた「現代版アヘン戦争」がヤバすぎる! 輸入規制のウラで着々とすすんだ「中国→メキシコ」ルートにアメリカが激怒したワケ』では、アメリカのアキレス腱「麻薬問題」で揺さぶりをかける中国の「卑劣な戦争」の実態をお伝えする。
藤 和彦(経済産業研究所コンサルティングフェロー)
中国が仕掛けた「現代版アヘン戦争」がヤバすぎる!輸入規制のウラで着々とすすんだ「中国→メキシコ」ルートにアメリカが激怒したワケ
7分ごとに一人が命を落とす危険な薬物が、アメリカで蔓延し恐怖が広がっている。
メキシコルートで流入する麻薬に米政府は取り締まりに躍起だが、実はその原材料は中国産だった。
偵察気球問題で米中関係は亀裂が深まっているが、薬物問題はアメリカ国民の対中感情をさらなる憎悪へと駆り立てている。
前編『習近平がアメリカに「21世紀版アヘン戦争」を仕掛けていた…!中国に狙われた米国・麻薬中毒者のヤバすぎる実態』につづき、危険なレベルに達しつつある米中関係の実態をお伝えする。
バイデン大統領は米中関係を楽観視しているが…Photo/gettyimages
中国が原料の供給源
米麻薬取締局によれば、昨年に押収されたフェンタニルは粉末で4.5トン以上、錠剤で5060万錠に上った。
3億7900万人分の致死量に相当し、約3億3000万人の米国人全員の命を奪うのに十分な量だ。
米国で蔓延するフェンタニルの直接の生産者はメキシコの麻薬マフィアだが、その原料を供給しているのは中国だ。
トランプ前政権は2018年から中国政府に対し、フェンタニルの米国への輸出を規制するよう、働きかけを強めた。
この問題が重視されたのはトランプ氏の支持者が多い「ラストベルト」が全米で最も深刻な被害を受ける地域の1つだったからだ。
アメリカではフェンタニルの過剰摂取で死亡する人が相次いでいる Photo/gettyimages
もう戻れない……「あやうい亀裂」
中国側の動きが顕著になったのは、昨年8月にペロシ連邦下院議長(当時)が台湾を電撃訪問した直後だ。
中国政府はフェンタニル規制関連の交渉窓口を閉鎖した。
米国政府は駐米中国大使館などを通じて対話を求めているが、中国側は没交渉の姿勢を貫いている。米国からの度重なる抗議に対し、中国外交部は「米国人による過度の薬物依存が問題だ。なぜ中国のせいにするのか」とけんもほろろだ
米国との貿易摩擦を回避する観点から、中国政府は2019年からフェンタニルの輸出規制を強化した。これによりメキシコ経由での流入は続いているものの、中国からフェンタニルが米国に直接輸出されることはなくなった。
だが、バイデン政権の圧力強化に不満を募らせる中国政府は、報復として2019年に強化したフェンタニルに関する輸出規制を緩和している(2022年12月27日付ウオールストリートジャーナル)。
ホワイトハウスで薬物問題を担当するグブタ国家薬物管理政策局長は1月24日付英フィナンシャルタイムズのインタビューで「中国とメキシコの犯罪集団が(米国での)フェンタニルの流通を拡大させるのは時間の問題だ」と危機感を露わにしている。
ラウール・グプタ国家薬物政策局長 Photo/gettyimages
ブリンケン氏の中国訪問を前に、ルビオ氏を始め14名の共和党上院議員は「フェンタニルの規制を主要議題の一つにすべきだ」との書簡を国務省に送っていたが、その願いはむなしく露と消えてしまった。
米中対話が中断したせいで、メキシコ経由の中国製フェンタニルの流入が一層拡大し、米国社会の不安定化がさらに進むとの不安が頭をよぎる。
「21世紀版アヘン戦争」を仕掛ける中国に対する米国側の怒りがエスカレートすれば、両国関係は危険なレベルにまで悪化してしまうのではないだろうか。
さらに連載記事『これは宿命なのか・・・「習近平体制」に富裕層が海外逃亡!「先の見えた中国」に国民があいそをつかす日』では、いま中国で起きている経済失速の実態をお届けする!
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