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「宮崎正弘の国際情勢解題」
令和五年(2023)3月18日(土曜日)
通巻第7672号 <前日発行>
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中国は米国債保有を漸減させ、サウジにも人民元決済をもとめた
イランとサウジの修復を中国が仲介したが、その打算は奈辺にあるか
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2022年末の統計で中国の米国債保有額は8671億ドルだった。その後、米国は金利の上昇がつづいたため海外勢は米国債を購入し、ドル高と金利高で利益をあげた。
ところが利にさといはずの中国は米国債の保有額を減らし、23年1月には8594億ドルとなった。
ピークは2013年で1兆3000億ドル前後を保有し、日本の保有高をぬいていた。その位置は十年近く不動だった。
ちなみに日本の米国債は22年末に1兆760億ドル。23年1月には1兆1040億ドルに微増させていた。海外勢も多くが買越しに転じていた。
従来、保有額の枠内でドル取引を行うため、中国は米国債を断固保有し続ける理由があった。これを担保として外銀からドルを借りることが出来るからだ。
中国がドル建て債券を減らし始めたのはもっぱら『政治』が理由である。
第一に人民元のシェア拡大、すなわち通貨覇権を狙っている。
第二にウクライナ戦争でロシアからの原油とガス輸入決済に人民元が可能となったからだ。ドル建てを減らせば、その分ユーロ取引も可能となる。
第三にSWIFTから排除されたロシアを支援するため中国の銀行間送金システムのCIPSが本格稼働し始め、ユーロなど通貨に切り替えても取引が成立することとなった。
第四に、ロシアと中国は経済苦況にもかかわらず金保有を激増させていた。
これらに連動し、米国債保有を減らしたのもドル基軸体制に代替できる人民元実現を目指し、自国通貨の強化、IMFのシェア拡大を目指しているからだろう。
▲イランとサウジが中国の仲介で仲直り?
中国が仲介し、犬猿の仲だったサウジアラビアとイランが外交を回復させる。メディアはこれを中国外交の勝利、バイデン政権の大失策だと分析したが、はたしてそうか?
仲介を言い出したのは22年12月にサウジを歴訪した習近平である。サルマン皇太子に打診した。当時メディアが騒いだのは中国がサウジに石油決済を人民元でという提案があったという報道ばかりだった。
サウジとイランの対立はスンニ派とシーア派の対立ゆえ千年を超える怨念がこもる。表面的な仲直りは政治的打算いがいの何物でもなく、おりしも中国がしゃしゃり出たことは両国にとって渡りに船だった。
第一にイエーメンにおける代理戦争に双方が疲れを見せていること。イエーメンの反政府武装勢力「フーシ」にイランは武器援助をしてきたが、サウジが越境攻撃を開始したうえ、ISなどのテロ組織もフーシを批判するようになった。米国はイエーメン安定のため、サウジとイランの国交回復を前向きに評価するとブリンケン国務長官が語った。
第二にシリアにおける代理戦争はロシア、トルコが支援主体となってISならびにイラン系テロリストのヒズボラ等が追い込まれ、イランとしては他の選択肢を模索していた。
イランは中国とロシアの均衡をたもつためオマーン沖合で中露イラン合同の海軍演習を行うなど示威行為も烈しくなっていた。
第三に米国との関係である。サウジにとって米国との関係は死活的重要性を帯びていた。それゆえに1974年にペトロダラー体制という密約が成立し、サウジ王家の安全を米国が保証し武器供与を持続する見返りにサウジは石油決済をドル建てとしてきた。
米国にシェールガス増産が実現して、サウジの地政学的重要性が稀釈されたうえ、カショギ暗殺などの人道批判にサウジは飽き飽きしていた。かと言って安全保障上、米国と決定的な対立を避け、3月10日にはボーイング787機を121機発注した。78機を正式契約、のこりの43機がオプション。総額は370億ドル。
第四にウクライナ戦争が派生させた新状況がある。
サウジはモスクワ寄りとなり同時に中国が石油最大のバイヤー、イランもモスクワへドローンを提供していた。イランの3月13日報道では近くテヘランはスホイ35をモスクワに発注する。共通の地盤が醸成されていた。
第五に周辺国がイスラエル敵視を止め、イランが孤立していた。
イスラエルと共存し、和平を維持することがエジプト、UAE、オマーン、ヨルダンなどの共通の利益となったためイランは活路を求めて23年二月に中国へライシ大統領が訪問した。
問題はもうひとつ、アルジャジーラが指摘したが、イスラエルのイラン核施設空爆作戦はサウジ上空を通過するための黙認が必要(イラクには米軍が駐屯しているがイランの防空システムが迎撃態勢にある)、しかしサウジのイラン接近により、このオプションはやや難しくなったのでないかと分析している。
◎☆□☆み□☆☆□や☆□☆□ざ☆□☆□き☆□☆□