展示している矢島保治郎の写真を説明する八木原さん=みなかみ町で
明治期に鎖国状態だったチベットを2回訪問した群馬県伊勢崎市出身の探検家、矢島保治郎(1882〜1963年)の足跡を紹介する企画展が、みなかみ町の谷川岳山岳資料館で開かれている。出身地でも知る人がほとんどいなくなり、主催した館長の八木原圀明(くにあき)さん(76)は「再評価のきっかけになってほしい」と期待する。8月31日まで。(小松田健一)
矢島は当時の殖蓮(うえはす)村(現在の伊勢崎市)生まれ。日露戦争に従軍し戦功をあげて軍曹に昇進したが、日本人で初めてチベット訪問に成功した僧侶の河口慧海(えかい)(一八六六〜一九四五年)の影響を受け、除隊して中国経由で単身チベットを目指した。
道中で金を稼ぎながら一九一一(明治四十四)年、首都ラサ入りを果たす。密入国が発覚しそうになったため一カ月で立ち去り、二回目は翌年に日本軍部の依頼で再訪。当時のチベット仏教最高指導者、ダライ・ラマ十三世の信頼を得て、現地の女性と結婚し長男にも恵まれた。
しかし、矢島はチベットを取り巻く複雑な国際情勢に翻弄(ほんろう)され、一八年に帰国を余儀なくされた。前橋市に居を構えたが、妻は異国になじめず体調を崩し若くして亡くなり、長男も太平洋戦争で戦死して後半生は不遇だった。
企画展では、チベット滞在中の矢島の写真など約四十枚や関連する資料、八木原さんが現地で収集した仏具、民芸品などを展示する。八木原さんは「帰国後は目立った活動をせず、周囲からは大言壮語のほら吹きと思われていたようだ。今年は没後六十年の節目であり、困難に挑戦した矢島の再評価につながればいいと思う」と話した。
開館は午前十時半〜午後四時半。木曜休館。無料。