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元全国紙社会部記者の新 恭さんが、党本部が立ち上げた「大阪自民党刷新本部」の取り組みを紹介。さらに本部長を務める茂木幹事長の「狙い」を考察しています。

安倍派を露骨に冷遇。自民党が大阪で見せた「対維新工作」の酷い仕打ち

ak20230713

 

あくまで一時的なものと見られてきた、関西における維新の会の人気。しかしその勢いは増す一方で、もはや大阪では自民党を凌ぐ存在となっています。もちろん自民とて手をこまねいて見ているわけではありません。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では著者で元全国紙社会部記者の新 恭さんが、党本部が立ち上げた「大阪自民党刷新本部」の取り組みを紹介。さらに本部長を務める茂木幹事長の「狙い」を考察しています。

尽きた安倍氏の威光。衆院選公認争いで自民が露骨な安倍派降ろし

テレビのニュースで、この人の顔を見るのは久しぶりだった気がする。中山泰秀氏のことだ。

外務副大臣だった2015年にはしばしばメディアに登場した。イスラム過激派組織「ISIL」に日本人2人が拘束、殺害された事件でヨルダンに現地対策本部長として派遣されたときは、連日、カメラに追われていた。結果として、助け出すことができず、右往左往するばかりと批判を浴びもしたが、世襲のお坊ちゃん政治家にはまだ未来が輝いているかに見えた。

それから8年以上が過ぎた今年7月4日、中山氏は険しい表情で自民党本部にやってきた。次期衆議院選で公認されるかどうか、危うくなってきたからだ。

中山氏は衆院選大阪4区の支部長だ。つまり公認されることが予定されているはずだった。ところが、党本部は大阪4、8、11、12、15、17区の支部長6人を、公募で選び直す方針を一方的に決めてしまったのだ。

4区:中山泰秀▽8区:高麗啓一郎▽11区:佐藤ゆかり▽12区:北川晋平▽15区
:加納陽之助▽17区:岡下昌平。この6氏が支部長選びなおしの対象となった。

もちろん、公募してどんな人材が集まるかは分からず、彼らが再任される可能性はあるが、先行き不透明になったことだけは確かである。

中山氏は衆院で当選5回を数える。父は元衆議院議員中山正暉、伯父は元外務大臣中山太郎、祖母は女性初の大臣(厚生大臣)となった中山マサ、という名門家系だ。自民党にどっぷりつかってきた典型的な世襲政治家といっていい。代々、自民党のために尽くしてきたというプライドは高いだろう。

それだけに、支部長をあらためて公募する、すなわち支部長を辞めてもらうという党本部のお達しには、はらわたが煮えくり返る思いがしたに違いない。

2021年の衆院選で、自民党は、候補者を立てた大阪の15の小選挙区で維新の候補に全敗した。中山氏も大阪4区に立候補し、維新の候補に大差をつけられて落選した。

このときはまだ、中山氏にも「大阪は『お笑い100万票』と言われるけど、その100万票が今、維新に行っている」と、維新の人気が一時的なものだと見るゆとりがあった。

だが、その考えが甘いことを、今年4月の統一地方選ではっきりと思い知らされる。維新は大阪府議選、大阪市議選で目標としていた過半数議席を確保する勝利に沸いた。一方の自民党府議会で9議席、市議会で3議席を減らし、大阪府連・府議団・市議団の3幹事長もそろって落選する憂き目にあった。

かつて自民党が誇った選挙組織の足腰は著しく弱っている。大阪府政、大阪市政を維新に牛耳られるなか、自民党得意の利益誘導政治ができないのも一因だろう。権力を失った自民党大阪府連には魅力が失せ、もはやガバナンスもきかなくなっている。

茂木幹事長がメンツをかけ党内外に見せつけた荒療治

統一地方選の後、府連の宗清皇一会長は選挙結果の責任を取り、辞任届を提出するとともに、府連の立て直しを党本部に依頼した。そのころ、宗清氏はメディアにこう語っている。

大阪府連変わらなあかんよ、と言うなら自分自身が変わらないと。じゃあ、あなたはどれぐらい努力したんですか。組織のために。誰が会長であっても支えないとね。今はそうなってない。なってないね」

府連のなかで対立と責任のなすり合いがあったことがうかがえる。会長としてはどうしようもなかったのであろう。こうなると、「国政のことしか考えていない」と不満を抱きながらも、党本部に頼っていかざるを得ない。

自民党は茂木幹事長をトップとする「大阪自民党刷新本部」を立ち上げた。大阪府連に手を突っ込む以上、茂木幹事長はメンツにかけて、なんらかの荒療治を党内外に見せつける必要があった。それが、大阪における小選挙区支部長の公募だったのではないだろうか。

だが、中山氏らにはどうしても納得がいかないことがある。彼ら6人はすでに次期衆院選に向けて活動している支部長でありながら、その選挙区で新たに支部長候補を募集され、公認されるかどうか不安定な立場になっている。ところが、公募の対象となっていない選挙区の支部長、つまり公認が確定的な支部長が5人いるのである。

1区:大西宏幸▽2区:左藤章▽7区:渡嘉敷奈緒美▽13区:宗清皇一▽19区:谷川とむ。この5氏だ。

中山氏らとの差はどこにあるのか。5人とも中山氏らと同様、21年衆院選で維新候補に大差で敗れた。宗清氏と谷川氏は比例で復活し、現職の衆院議員であるからまだしも、あとの3氏については、どういう基準で選びなおしを免れたのか、きわめて不透明であり、疑念を呼んでいる。

疑念には、もちろん理由がある。大西氏と左藤氏は岸田派、渡嘉敷氏は茂木派であることだ。ちなみに、選びなおしの対象となった中山氏は安倍派であり、佐藤氏と岡下氏は二階派である。高麗氏、北川氏、加納氏に国会議員歴はない。

明らかに、総裁派閥、幹事長派閥が優遇されている。候補者の公認争いが、権力の縮図となるのはあたりまえとしても、露骨なものである。

大阪の19の小選挙区のうち、公明党が候補者を立てる4選挙区と支部長が確定した5選挙区を除く10選挙区が、今回、支部長公募の対象となった。中山氏ら現職支部長のいる6選挙区と、支部長が決まっていなかったとされる9区、10区、14区、18区の4選挙区だ。

さて、この決定に納得できない中山氏ら6人は7月4日、党本部を訪れ、茂木幹事長と森山選対委員長に直談判した。しかし、茂木幹事長らは情勢調査などを踏まえ総合的に判断したと言って、譲らない。それなら判断データを開示してほしいと訴えても、かなわなかった。

中山氏は「ブラックボックスの中で公募が決まった」と憤りを隠さない。「私より惜敗率が下回る左藤氏とか、大西氏が対象にならないのはなぜのか。非常に理解に苦しむ、合点がいかない」

もちろん、過去の選挙で何度か当選したからといって、それが既得権になるのはおかしい。公認が得られなければ立候補できないわけでもない。党が、清新な人材を集めること自体は、いいことである。だが、それならいっそのこと、現職支部長がいようといまいと、すべての選挙区で公募をしたらどうなのだろうか。

無能無策のレッテルを恐れる茂木幹事長

そもそも、大阪における自民党の衰退は、大阪府連のせいだけとも思えない。

維新の大阪での政策実現を支えてきたのは安倍・菅政権だった。安保法制などをめぐる対立が強まるなか、野党分断のため維新の存在を重視した当時の安倍首相と菅官房長官は、大阪都構想の実現のための法整備に協力した。国会で自民党の補完勢力としての役割を担った維新は、官邸の支援で「大阪・関西万博」という褒美を手にした。

中央政界では蜜月、大阪府市では対立といういびつな自維関係のなか、自民党大阪府連の幹部たちが複雑な立場に置かれて苦しんできたことは確かである。

岸田政権になり、国会で維新がやや野党らしい対決姿勢を示すようになったため関係に変化はみられるが、茂木幹事長が頭越しに万博会場の人工島・夢洲を視察して吉村知事らと会食するなど、地元軽視の姿勢は変わらない。当然のことながら、「蚊帳の外」に置かれた府連の地方議員には不満がたまっている。

府連の鹿田松男幹事長(府議)は「公募で良い人が来て、差し替えても勝てるのかなという不安がある」と、党本部の決断に懐疑的な目を向ける。

大阪においては「改革の維新」「ダメな自民」というイメージが定着してしまっている。既得権の網にからめとられた自民党は、その守旧性を維新が批判して有権者喝采を浴びるのにうってつけだった。メディア出演で好感度を高めた吉村府知事の人気も異常なほどである。ブランド化した「維新」との戦いは、どうみても不利な状況だ。

公募したところで、泥船でもいいから乗ろうという物好きがわれもわれもと集まるわけはない。茂木幹事長とて、そんなことは百も承知だろうが、「大阪自民党刷新本部」を仰々しく立ち上げた以上、解決策らしきものを示さなくては、無能無策のレッテルを貼られかねない。

結局のところ、適材が見つからず、現支部長は全員、公認される可能性が高いと筆者は思う。それでも茂木幹事長としては、公募によって候補者を選びなおすポーズをとることで、“出直し”のイメージを世間にアピールしたかったのではないか。

中山泰秀氏のTwitterには、最上部に安倍晋三元首相の応援メッセージ動画が固定されている。

中山泰秀さんは、私が最も信頼し期待する政治家です。安倍内閣においては外務副大臣を務めていただき、地球儀を俯瞰する外交を手伝ってもらいました」

安倍派に所属し、安倍元首相の引き立てを頼みとしてきた政治家が、いまや自民党本部からも冷たくあしらわれている。人の世の移ろいは哀しくも残酷なものだ。

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image by: Twitter@自民党大阪府連

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