維新の国会議員が問題発言 兵庫・斎藤知事疑惑の告発は「自民党とつくった怪文書」、元県民局長のプライバシー暴露も
パワハラや「おねだり」などの疑惑が噴き出ている兵庫県の斎藤元彦知事。県議会の文書問題調査特別委員会(百条委員会)で斎藤知事らの疑惑について調査が続いているが、そのさなかに維新の国会議員が、調査のもととなった元西播磨県民局長(7月に死去)の内部告発文書について、「自民党とつくった怪文書」だと言い、亡くなった元県民局長のパソコン内にあったプライバシー情報を漏らす発言までしていたことがわかった。 【写真】斎藤知事の問題で弱り果てている維新の代表はこの人 「亡くなった方(元県民局長)は、あれ(告発文書)は自民党さんらとつくった。あの怪文書」 こう発言したのは、日本維新の会の掘井健智(ほりい・けんじ)衆院議員(比例近畿)。兵庫県加古川市出身で、県議を2期務めた後、2021年の衆議院選挙で兵庫10区から維新公認候補として立候補し、小選挙区では敗れたが比例復活で初当選した。
この掘井議員の発言に、「ただ驚くばかりでした」と話すのは、県内に在住するAさんだ。 9月2日朝、Aさんは仕事のために最寄りの駅に向かった。その際、駅頭に立ってあいさつしていたのが、掘井議員だった。維新が斎藤知事のもと、県政与党として斎藤知事を支えていることを知っていたAさんは、思い切って掘井議員に声をかけてみた。 「おはようございます。兵庫県知事の問題、どう考えてはるんですか」 という声がAさんのスマートフォンに残っている。 Aさんは持っていたスマートフォンで録音しながら掘井議員とやりとりした。
掘井議員はAさんの質問に気軽に応じ、Aさんがほとんど口をはさむ間もないほど、斎藤知事の問題について独壇場で語り始めた。 Aさんに録音データを確認させてもらうと、掘井議員は、内部告発の文書を「ビラ」と呼びながら、内容については信用性がないという発言を繰り広げている。 「あのビラ(告発文書)は皆さん、ちゃんと見ているかどうかわからへんけども」 「1週間前に怒鳴っただろうとか、そんな内容で、(元県民局長は告発文書を)K新聞(地元新聞社)に出したと思うけど、やっぱりくしゃくしゃにして放(ほ)られてるわけですよ。内容がそんなやから」 元県民局長は3月に内部告発の文書を作成し、マスコミや県議に送っていた。それをメディアがすぐに報じなかったことをもって、内容がいいかげんだと言いたいようだ。
斎藤知事が、告発文書の内容について「嘘八百」「誹謗中傷」などと言ったことと通じるものがある。
■「やっぱり政局やった思うんですよ」 元県民局長の内部告発の一つは、阪神とオリックスの優勝パレードに関する疑惑だ。パレードの資金を集める際、県が金融機関に補助金を増額するかわりに、寄付金の形で「キックバック」させた疑いを告発された。 これについて掘井議員は、 「パレードのも問題。(補助金で)キックバックあったとかね。それも本人(斎藤知事)呼んだら、ないという」 と、斎藤知事から直接、疑惑を否定されたというように話した。 また、斎藤知事の疑惑解明のために県議会が設置した百条委員会については、 「(百条委員会を)やりたいというのは、やっぱり政局やった思うんですよ」 と発言。百条委員会の設置は県議会の自民党が提案し、維新は反対した。それを「政局」と言うのだろうか。 そして掘井議員は冒頭のように、元県民局長の内部告発自体を、それこそ「政局」のように語り始めた。 「亡くなった方(元県民局長)は、あれは自民党さんらとつくった。あの怪文書」 「怪文書っていうのは、自民党と一緒に作った。怪文書って言い方悪いけどね」 告発文書の作成に自民党が関与したというのだ。
■内部告発は「公益通報じゃない」 元県民局長がつくった告発文書を斎藤知事が入手したのは3月20日。直後から県は作成者が誰か「犯人捜し」に着手し、その中で元県民局長のパソコンを押収して調査した。 これについて掘井議員は、県内部の動きを詳細に語り始めた。 「(内部告発は)公益通報じゃない、その時点では。(元県民局長に)パソコンでこれ、きみ、怪文書こんなん作っとったんかいうたら、『はい』(と返事した)。君が(告発文書の内容を)現認したんかいうたら、『いやもう聞いたやつを集めました』と、聞いたんですよ」 元県民局長の告発を「公益通報ではない」と否定するのは、斎藤知事と同じだ。そして、掘井議員はこう続けた。 「なんで(パソコン)押収したかいうたら証拠があったから押収したんやけど、出てきたもん、なんや思います?」 「えらいもんが出てきた。彼(元県民局長)の(交友関係のプライベートな)データがいっぱい出てきたわけ。それでお前、何しとんねんってなった」
■自民党に言われて「彼は悩んだんです」 掘井議員はさらに、元県民局長が亡くなった理由についても、自説を語り始めた。 「その(プライベートな)データが外に出た。(片山)副知事が誰かに見せたいう噂。それで彼(元県民局長)はえーとなって、今度、自民党さんとこ行って、百条(委員会)、今から証人、ようしませんと。(自民党は)『今さらおまえ何言うとるねん』なったわけです。それで彼は悩んだんです。それで……」 記事では省くが、掘井議員は元県民局長のプライベートなデータや亡くなった状況についても、詳細に発言していた。どこまで真実かはわからないが、元県民局長のプライベートなことについて、街頭で質問を受けた市民に気軽に話す掘井議員の行為は許されるものではない。元県民局長の自死の原因は、自民党が百条委員会への出席を強要したためだというような見解も、斎藤知事の問題を無視した発言だ。
■斎藤知事は「もともと自民党の推薦や」 Aさんにとって、掘井議員の発言は、これまで報道などで知っていた話とかなり違う内容で、一方的と思えるものだった。 そこで、維新が県知事選で斎藤知事を推薦したことを踏まえ、Aさんが「推薦って責任ありますやんか」 と問うと、掘井議員は、 「もともと(斎藤知事は)自民党の推薦やのに、維新が維新がと言うからね、みんな(維新の県議)がビビッてしまっている」 「だから(百条委員会ではなく)刑事事件で検察が調べるなり、正義の立場で調べるのが(いい)って維新は言うとんが、それが(維新は斎藤知事を)擁護している、となっている」 などと、維新が斎藤知事を推薦した責任には一切こたえず、維新の正当性を主張した。
■自民議員は「反論する気にもなれん」 問題が多い掘井議員の発言だが、告発文書を元県民局長と自民党が作成した、というのは本当だろうか。 自民党の県議に掘井議員の発言を伝えると、怒り出した。 「あまりにおかしな話で、反論する気にもなれん。なぜ元県民局長と自民党が一緒に内部告発の文書を作るのか、証拠があるのか? 自民党が絡んで内部告発の文書を作っていたら百条委員会をやる前にバレてますよ。ひどいもんだ」 野党の県議にも掘井議員の発言内容を伝えると、こう憤慨した。 「掘井議員の発言は本当かどうかわからない元県民局長のプライベートなところまで語り、元県民局長を冒涜(ぼうとく)する許されないものだ。それになぜ掘井議員は元県民局長の公用パソコンのデータ内容まで知っているのか。これ、維新の県議から聞いたとすれば情報漏えいで、大きな問題だ」
■「私なりの見解を語ったつもりだ」 発言の真意を聞くため、9月8日、加古川市内での国政報告会にやってきた掘井議員を直撃した。 「録音されたような話をしたのは事実だ。ただ、なんで録音があるのか。そんな話もあるという、私なりの見解を語ったつもりだ。情報は『こういう話もありますよ』と新聞記者から聞いた。私もそうも思えるなという意味で話した。私の真意でないような形で拡散しているとすれば、よくないと思う。斎藤知事から直接聞いたことはない。維新の県議からも聞いていない。話を聞いてきた人(Aさん)はいつも私の横を通り過ぎるときに『ちぇっ』と舌打ちして嫌がらせするような人。反維新の人で、印象操作だと思う」 失言ではないのか、とさらに問うと、こう話した。 「失言、いや違います。ただ、誤解される発言ではあった。そこは反省している」
■Aさんは「嫌がらせしたことない」と否定 Aさんにこの発言を伝えると、こう話した。 「ニュースで斎藤知事のことが話題になり、維新が応援していたというので、興味があって初めて直接話をした。あまりに具体的な話なので、録音を聞きなおして、これはおかしくないかと思った。掘井議員に嫌がらせなんてしたことないです」 掘井議員に直撃した翌日の9日、掘井議員の事務所から改めて文書でも回答があり、次のような内容だった。
「本件駅立ちにおける対応は、私が報道機関の記者間で飛び交う、いわば噂レベルの情報を、その旨の留保もせず、駅立ちの際に声を掛けてこられた質問者に対して発してしまったというものです。地元有権者の質問を無碍にせず丁寧に応えたいという思いのあまり、不適切な対応をした、その点は自覚し、強く反省しております。元県民局長含め私の発言内で名前を挙げてしまった方々に対して、心よりお詫び申し上げます」 (AERA dot.編集部・今西憲之)
今西憲之