街角:チベット ダライ・ラマの写真「ダライ・ラマの写真を恵んでよ」
2010.3.14 毎日新聞
中国チベット自治区第2の町シガツェ。海抜4000メートル以上の美しい風景を撮影するため、私たちを乗せたマイクロバスが速度を落とすと、後ろからあかだらけの少年たちが追いかけてきた。 「チベット族たちは闇で写真を売り買いしているようですが、中国の法規ではダライ・ラマの写真配布は違法行為です」。隣にいた自治区政府職員が記者を制止した。 少年たちは、外国のガイドブックにダライ・ラマ14世の写真が載っており、現金に交換できることを知っているのだろう。漢族の政府職員は、あきらめきれずにバスの窓枠にすがりつく少年の腕をピシリとたたいた。 チベット自治区ラサで08年3月14日に大規模な民族暴動が起きる数年前の話だ。暴動後、自治区政府は外国人記者の立ち入りを厳しく制限したため、少年たちのその後を知るのは難しくなった。 暴動後、中国当局は「ダライ・ラマが画策した」と批判し、仏教寺院に対する締め付けを強化した。北京で14日に閉幕する全国人民代表大会(国会)でも、共産党・政府の宗教政策は追認される見通しだ。 現在も中国国内のチベット仏教寺院などにはダライ・ラマの写真は飾られていないが、チベット僧の多くはその写真を携帯電話やパソコン内に隠し持っているという。 「ダライ・ラマがチベットに帰ってくる日が来ると信じ祈っています」。取材した高僧の言葉だ。ダライ・ラマの映像を見るたび、バスを追いかけてきた少年たちの姿を思い出す。【浦松丈二】