2011/04/07
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アナウンサー
今回の福島第一原発の放射能漏れ事故で地元住民や環境への影響が注目されていますが、一部で過剰反応や風評被害の心配が広がるなか、福島県は昨日、被曝医療の専門家である長崎大学大学院の山下俊一教授と高村昇教授の二人に放射線健康リスク管理アドバイザーを委嘱しました。山下俊一教授はWHO世界保健機関の緊急被曝医療協力研究センター長もつとめていらっしゃいます。福島県で対応にあたっている山下さんに放射能が健康に与える影響や今後の注意点について電話でお話をうかがいます。山下さん。よろしくお願いいたします。昨日いわき市で、そして今日は福島市で、放射線のリスクについて講演されたということですが、どのような内容だったのでしょうか。
山下氏
事故について予測することはできませんので、出てくる環境放射線のレベル、放射能の数値というものを解釈しながら経緯を見守るということで解説しました。例えば、一時間あたり20マイクロシーベルトという放射線がふりそそいだとしても、人体への影響はないんだと、いうことみなさんわからないんですね。すぐそういう数字が、放射線を浴びる、あるいは汚染されると健康被害が問題になりますけれど、そういう問題とはずいぶん程遠いんだという話をひとつひとつ説明いたしました。
アナウンサー
一時間に20マイクロシーベルトという数字がなぜ安全なのか、安全の根拠というところではどんなふうに説明してらしたのでしょうか。
山下氏
これは1年間に人が受ける被ばく線量、平均して日本人は3.5ミリシーベルトですけども、それに比べて、病気あるいは放射線に影響が出る線量が100ミリシーベルト、つまり非常に少ないレベルで我々普段から放射線を浴びています。この自然放射線と余り変わらない量を年間としての量に匹敵するので、こういう場所にいても、一ヶ月も二ヶ月も続くと思いませんけれど、もしよしんば一年いたとしても例えばの話ですけども数ミリシーベルトにしかならない。どんなに考えても50ミリシーベルトを越すことはないということで、全く体に影響ありませんよという説明をしています。
…100ミリシーベルトというのは、公衆の年間摂取限度1ミリシーベルトの100倍で、原発労働者の5年間の摂取限度に等しい値です。過小評価が問題になっている国際放射線防護委員会(ICRP)の評価でも、200人に1人が過剰にガン・白血病で死亡するリスクです。実際にはリスクはより高いとする研究報告があります。また、子供は成人よりものリスクもより高いことから、10倍のリスクを考慮すると20人に1人の過剰死となります。
…死亡に至らなくても、免疫不全により、原爆ブラブラ病といわれる症状(疲労がとれない、病気が治らない)が多数生じる恐れがあります。原発労働者にも原爆ブラブラ病と同様の症状がみられます(原発ブラブラ病)。
アナウンサー
現状は原発から20圏内の避難指示、30キロ圏内の屋内退避ということになっているわけですが、実際に集まった方たちも、実際にここにいて本当に大丈夫なのか不安に思われているということですかね。現在の避難体制についてはどのように考えてらっしゃいますか。
山下氏
国のご存知のように原子力発電所の事故の場合は10キロが想定されているわけですね。10キロ以上20キロというのはこういう状況でしかたがないし、正当だと思います。問題は普通は屋内退避があってそこに居られないから、避難ということで安全な場所に避難するわけです。今回は先に避難あり気で、避難したということは20キロから離れたら大丈夫だという場所に避難したわけです。それにもかかわらず、屋内退避が20キロから30キロだということは、1号炉、2号炉、3号炉そしてまた4号炉と連鎖的に予期せぬ事故が起こって、それぞれコントロールされていないと、いう状況の中で放射性の物質が大気中に放出されたということが、屋内退避ということになったんだろうということだと思います。
アナウンサー
新たにほうれん草や牛乳の原乳ですね。放射性物質が検出されました。この点についてはどのようにお考えでしょうか。
山下氏
これはもう最初から予想されていたことで、放射性物質が土壌に落ちますので、そこでいろんなところで測定されると。特に測定値が高いのが野菜とかミルクとか葉っぱについた、あるいは牛乳に濃縮されたという状況だったろうと思います。
アナウンサー
それでほうれん草や牛乳に出て暫定基準値を上回っていても大丈夫ということなんですね。これはどういう
山下氏
これは二つの理由があります。ひとつは過去に遡って数日間の量では全く健康に及ぼす、よしんば誤って食べて飲んだとしても健康に及ぼす量ではないということがひとつ。もうひとつは、今後そういうものは流通されません。自主制限とか、あるいは福島県産のものが少し流通がストップするでしょうから、日本では非常に食の安全については厳しく管理されています。ですから継続して汚染されたものを食べ続けるというリスクはほとんどないということで、問題ないと発言しています。
…暫定基準値の野菜や水や牛乳などを摂取した場合、放射性ヨウ素が全身換算で年間2ミリシーベルト、放射性セシウムが5ミリシーベルトこれだけで合わせて7ミリシーベルトの内部被曝となります。これは公衆の年間摂取限度1ミリシーベルトの7倍にあたります。
アナウンサー
ほうれん草などは表面に付着しているというふうに考えていいでしょうか。
山下氏
はい、ですから洗えばほとんど落ちると思いますが、でもそういう出荷段階で計り直すことも大事でしょうし、あるレベルの暫定の値以下であれば出荷もできると思います。
…厚生労働省食品安全部による緊急時測定マニュアルには、野菜などは洗ってから測定せよとあります。洗った状態で計っても基準を超えるものがあるというのが現状です。
アナウンサー
一方で牛乳の原乳に含まれている。これはどう理解したらいいでしょうか。
山下氏
牛乳そのものが汚染したわけではありません。牛がおそらく汚染された牧草を食べた、汚染された食料を食したということが原因だと思いますので、そのへんの汚染が濃縮されて、放射性ヨウ素がですねミルクにたまるんですね、チェルノブイリの場合がそうでした。チェルノブイリの事故で第一に汚染されたのは子供たちですけれど、汚染経路は、汚染されたミルクを長期間経口に飲んだというのが問題になりました。
アナウンサー
それがよくミルクの場合は原乳の場合は濃縮されやすいという問題でしょうか。
山下氏
…山下氏は福島の住民が放射性ヨウ素などを極力摂取しないよう注意を促すべき立場にあるのに、それをしません。
アナウンサー
それから福島県の飯舘村の水道水から放射性ヨウ素が検出されたと発表されました、飲料以外に使う分には心配ないとされていますがという、匿名の方からの質問のメールをいただいたのですが、この点についてどうでしょうか。
山下氏
おそらく放射性雲に乗って、雨が降ったんだと思います。飯舘村あるいは福島まである程度レベルが高いですから、そういうところのレベル水はやはり基準値を超えていれば飲んではいけませんし、基準値が下がるまでそういう状況は続きます。しかし、洗濯に使ったり、シャワーを浴びたり一般のそういうものには全くありません。
アナウンサー
今日は雨が降っているところが多いんですけれど、こういう日は雨に放射性物質が含まれるのではないかと聞きますがそのあたりいかがでしょうか。
山下氏
実際に大気中に放射性物質があれば、雨が降れば地上に落ちてきます。しかし今回はそういう放射性物質が出たという情報は現実にありませんから、今降っている雨には、まったくといっていいほど放射性物質は入っていないと思います。
…水道から放射性ヨウ素が検出されたのは、雨によって落ちてくると考えられます。空間線量が高い状態が継続しているのは、放射性物質からの放射線によるものであり、降雨時に高くなることからも、放射性ヨウ素などが含まれると考えるのが当然ではないでしょうか。
アナウンサー
基本的なところなのですが、放射能というのは放出されたあとにいつかは自然消滅するものなのでしょうか。
山下氏
不安定な物質が安定になるときに放射線を出すのですけれど、これは時間とともにどんどん減っていって、最終的にはなくなります。例えば放射性ヨウ素の場合は、放射性の活性が半分になるまでにはだいたい8日間です。例えばセシウム137というのが体に入ると、大体60日間ぐらいで半分になります。
アナウンサー
どんどん蓄積されていくというものではないんですか。
山下氏
…放射性セシウムの半減期は30年、30年でようやく半分が消滅するだけで非常に長期にわたって影響します。60日というのは生物的半減期で、体に取り込むことを前提にした議論です。放射性セシウムの話になって急に生物的半減期を持ち出し、さも60日で半分が消滅するかのように議論するのは問題ではないでしょうか。
アナウンサー
山下氏
例えば盆地とか、あるいは窪んだところにたまりやすいという傾向があります。ただ日本の場合多くは雨が降ると流されてしまうという傾向があります。多くの土は洗い流されると思います。注意しなければならないのはたまり場ですね。そういうところは、きちんと環境モニタリングというのが必要になってくると思います。
アナウンサー
土壌汚染というのは注意しなければいけないということですね。