パルデンの会

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故障した「チャイナ・エクスプレス」

ウオールストリートジャーナルよりの転載

故障した「チャイナ・エクスプレス」

 中国には「天高く、皇帝遠し」という古くから伝わることわざがある。地方の生活は首都の政権から遠くかけ離れているという意味だ。こうした状況は共産党指導者が皇帝となった現在でも変わらない。

 しかし、中国中央政府は先週、地方がかつてないほどの勢いで北京に迫り来るとともに、地方と地方の結びつきが強まるのを実感した。1週間前に起きた高速鉄道事故の悲劇を受け、国民が怒りと悲しみを噴出させているのだ。中国国民がこれほど連帯感を持ち、インターネット上で力を得るのは異例のことである。中国の近代化と中央集権化のシンボルとなるはずだった高速鉄道は、政治的ぜい弱性の象徴と化してしまった。このことは、「皇帝」の一人である温家宝首相が事故現場を訪問せざるを得なくなったことで誰の目にも明らかになった。

 多くの国民は、これが単なる鉄道衝突事故ではなく、中国の過去と未来、野望と限界、急速な経済成長の必要性と変革不能な政治体制の衝突だったと考えている。

 この国で生じるすべての大事件と同様、北京をはじめ各地で連鎖反応が起きている。その結末は、いかに見識の高い中国専門家にも予測することができない。高架から宙づりになった脱線車両に乗客の命が翻弄されたように、政治家や政策の運命、そして国家の展望や自尊心が瀬戸際の状態に置かれている。

 今回の事態を、20世紀初頭の中国の状況と比べることができる。当時、弱体化し、堕落していた清王朝は遅まきながら国家の近代化、工業化に着手した。外国からの融資を使い、全国に鉄道網を敷くことが主な戦略だった。

 王朝は地元鉄道の国有化を試みるが、猛反発に直面する。商人階級の投資家たちが反乱を起こし、新たに台頭していた国内メディアが暴動を扇動した。この大混乱が100年前の清王朝滅亡につながった。

 高速鉄道網をめぐる今日の危機が、直接現政権を脅かす兆しは見られない。しかし、新たな中流階級を中心にオンライン・メディアが騒然とするなか、現政権の弱さが露呈した。はびこる汚職と秘密主義が、長期的な政権弱体化の原因となる可能性もある。

 100年前と同様、中央政権に対する信頼が今、急激に崩れつつある。共産党政権にとっては非常に深刻な事態だ。党幹部は、国家の危機に直面して「天命」――神から授かった統治権――を失った歴代王朝と同じ運命をたどることにならないよう、神経をとがらせている。

中国の野心が海外の技術と合体した高速鉄道

 高速鉄道は、過去10年間の中国の高度経済成長を象徴する存在だ。巨額の予算を投じ、汚職まみれの国で、最高速度を目指し、お上が国民に押しつけた大規模プロジェクトである。国民は驚きと疑いを持ってこれを受け止めている。鉄道網は、外国の技術と中国の野心を合体させ、世界最大かつ最先端のネットワークとして構築された。1人当たり国民所得がジャマイカにも及ばない国で、これだけ大胆なことを目指したのである。

 「速やかなるを欲するなかれ。速やかならんと欲すれば、則ち達せず」――中国で最も著名な思想家、孔子が約25世紀前に残した言葉だ。中国指導部は今、この賢人の教えを無視した報いを受けている。

 衝突事故は1週間前、中国東部浙江省温州市近郊で起きた。数両の車両が高架から転落し、40人が死亡、190人以上が負傷した。中国政府の自慢だった高速鉄道は、政権の無能さと尊大さを表す象徴と化した。

 事故とそれに続く政府の不手際な対応に国民は激怒、インターネットのマイクロブログには怒りの声が多数寄せられた。共産党幹部はその様子を不安げに見つめていた。

 苦情を押さえ込もうとする当局の動きが、新たな非難を招いた。事故の翌日、大破した車両を建設機械で穴に押し込もうとしている映像が公開されると、理由を問いただす声が噴出した。鉄道省の報道官は24日の会見で、救助機材を運ぶためだったと説明したが、国民は手抜き工事の証拠を隠そうとしているのではないかと冷ややかに反応した。

 4日後、温家宝首相が現地を訪れると、国営中央テレビの記者が事故の証拠が現場から一掃されている理由を厳しく追及した。また、鉄道当局が28日、事故原因は信号設備の「設計上の重大な欠陥」だったと発表すると、新華社通信は「衝突の原因説明で国民の疑問さらに高まる」という見出しの英文記事を掲載した。

 政府は29日、事態の沈静化を図るべく、遺族への賠償金を当初の約2倍となる犠牲者1人当たり91万5000元(約1100万円)に引き上げることに合意した。

 怒りの噴出は重大な局面に達しつつあるようだ。衝突原因や対応の不手際だけでなく、急激な経済成長を最優先する無謀な統治体制がそもそもの根本原因ではないかという点を問う声が相次いでいる。

主流メディアも相次ぐ不祥事を批判

 この惨劇は、共産党政権の抱える矛盾の核心を浮き彫りにした。党が存続するためには、高度成長を実現して雇用を創出し、社会的緊張を抑えなければならない。しかし、急激な成長は、本来ならほぼ回避可能な死亡事故や、食品安全や違法な土地収用をめぐる不祥事の多発など、政権を脅かすリスクをももたらした。批評家らが強調するように、近代経済には透明性と説明責任が求められるのだ。

 国民は主にオンラインで怒りを発散しているが、その声は主流のメディアにも広がっている。国営中国中央テレビ(CCTV13チャンネル)の人気アンカー邱启明氏は事故後の放送で異例のコメントをし、次のように語った。「現在の中国の発展速度は高速鉄道のようであり、全世界から羨望されている。だが、速度要件を満たす一方、多くを犠牲にしかねない。われわれは何の心配もせず牛乳を飲むことができるか。倒壊しない家に住めるか。崩落しない道路を運転できるか。安全に電車に乗れるか。もし大規模な鉄道事故が起きてもエンジンが埋められない保証はあるか。つまり、人間の幸福に必要とされる基本的な安心感が得られるか」

 鉄道不祥事は、共産党幹部にとって極めて不運なタイミングで起きた。党指導部は来年、10年に一度の世代交代を控えており、党の最高意思決定機関である中央政治局常務委員会のメンバー9人中7人が引退する予定だ。ただでさえややこしい新メンバー選出のプロセスが、一層複雑化する可能性がある。

 胡錦濤国家主席共産党総書記の後継と目される習近平氏は、今のところ鉄道事故に関する公式コメントを発表していない。おそらく不祥事との関わりを避けようとしているのだろう。しかし、習氏が来年、党のトップに就任すれば、これまでに露見した統治問題への取り組みを監督せねばならない立場に置かれる。

 インターネット上では、高速鉄道の車名「和諧号」をやゆする書き込みもなされている。和諧は中国語で「調和」を意味し、胡政権は「和諧社会」の創出を国家目標の一つに掲げている。だが、この言葉は事故の前から政治的弾圧を意味する隠語として広く使われていた。

 10年ほど前であれば、中国の国民がこうした反応をすることなど不可能だった。既存のメディアは国に厳しく統制されていたし、インターネットはまだ普及しておらず、2000年初頭当時の利用者数は1000万人に満たない状況だった。

 現在、中国には約4億8500万人のインターネット利用者がいるとみられる。そのなかでも特に存在感を増しているのが、ツイッター風のミニブログ・サービス「新浪微博」の利用者だ。新浪微博は新浪社が2年前に開始したサービスで、ユーザー数は1億4000万人と、国内人口の1割を超える。新浪微博のようなサイトがいわば国の神経系となり、友人や「フォロワー」のネットワークに意見やニュースを瞬時に伝達している。最も熱心なユーザーは、共産党がここ数十年間、取り込みに躍起になっている若者や都市部のエリート層だ。

 政府はインターネット上の多くのコンテンツを検閲しているが、新浪微博などのサイトは驚くほど野放しにしている。専門家は、政府がこうしたサイトを国民の不満のはけ口と捉え、閉鎖して彼らの怒りが爆発することを恐れているためだと指摘する。

 新たなテクノロジーは中国政府と人民の関係を根本的に変えた。インターネットのない時代、厳しい情報統制のもと、国民は地元当局者の汚職しか知ることができなかった。地元当局者は、国家指導者にとって便利なスケープゴートだった。今日のインターネット利用者は、食品安全や違法な土地収用、汚職といった問題が全国にまん延していることを知っている。

 中国有数の人気ブロガー、韓寒(ハン・ハン)氏は先週、「脱線する国」と題する辛辣な記事をオンラインに掲載したが、すぐに検閲官に削除された。この中で同氏は、無慈悲な開発を主導する指導部を皮肉って次のように書いた。「彼らはこう考える。『われわれはこれも建てたし、あれも建てた。君たちはそれを利用する限り、途中で何が起きたか、誰が利益を得たかなど気にする必要はない。なぜ喜ばないのか。なぜ疑問を抱くのか。』と」


続ー1