急減する亡命チベット人 「チベット人にとっての危機」
- 産経新聞
- 2012年12月01日15時03分
中国でチベット人の焼身自殺が相次ぐ中、インドへ亡命するチベット人の数がここ数年、激減している。チベット亡命政府によると、中国政府がチベット人への弾圧を強化する上に、脱出経路となるネパールとの国境管理を厳しくしているためだ。インド北部ダラムサラの亡命チベット人社会では、同胞が受ける“二重の締め付け”に危機感が高まる一方で、自由を求める人々の結束はいっそう強まっている。
■中国が国境管理強化
ダラムサラは、ヒマラヤ山脈の西の急峻(きゅうしゅん)な斜面に広がる町だ。チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世(77)が1959年に亡命政府を置き、中国での弾圧を逃れた6000人以上の亡命チベット人が住む。
「チベット騒乱があった2008年までは、毎年約2000人が中国からダラムサラへ逃れ、インド各地や第三国へ広がっていったが、その後、難民の数は減り続け、今年はまだ355人しか来ていない。昨年、インドに定住したチベット人難民は150人ほどだった」
チベット亡命政府情報国際関係局の広報担当者、ロブサン・チョエダク氏は最近の亡命者の減少ぶりをこう説明した。
チベット自治区のラサでは08年、チベット仏教の僧侶ら数百人が中国政府の弾圧に抗議するデモを行い、多数が拘束され、当局の取り締まりが強化された。亡命政府によれば、09年以降、中国で政府の弾圧に抗議しダライ・ラマの帰還を訴えて自殺を図った人は29日までで89人。その数は、今年10、11月だけで37人に上る。
■新入生は10分の1
最近は、相次ぐ焼身自殺に業を煮やした当局が弾圧をさらに強め、隣国ネパールにもチベット人の越境の取り締まりをより強硬に求めているとされる。このため、チベット人が、ネパールを経由してインドへ逃れることが難しくなっているという。
支援団体の寄付などで幼稚園児から高校生までを教育する8校を運営する「チベット人子供村」(本部ダラムサラ)が今年新学期、新たな難民として迎えた生徒は69人と前年から半減した。08年までの700~800人と比べると、10分の1にも満たない。
中国での締め付け強化の影響は、亡命チベット人社会全体にも及んでいる。チベット亡命議会のダードン・シャーリン議員は、「チベット人の知識人や政治家は亡命人社会から生まれている。インドへの流出者の減少はチベット人にとっての危機だ」と訴えた。
■イベント自粛措置
焼身自殺者の続出で、今年、ダラムサラでは数々のイベントで自粛措置がとられ、チベット文化を発信するため毎年行われてきた「ミス・チベット」も中止された。ダラムサラはトレッキングなどの観光客でにぎわうが、「チベット人社会にはお祝いムードはない状態」(シャーリン議員)という。
ダラムサラには、祖国を知らない亡命2世や3世のチベット人も多く住んでいる。亡命政府の首相であるロブサン・センゲ氏=写真=もチベット人だが、インド生まれだ。それでもセンゲ氏は「私たちはチベットの血を受け継いでいる。先代の夢を実現してチベットをいつの日か取り戻すことは、私たちの世代の責務だと思っている」と強調した。
ダラムサラでは今秋、チベット人特別総会と国際支援団体の特別会議が相次いで開かれた。また、多くの若者がフェイスブックなど交流サイト(SNS)を使い、チベットの自由などについて意見交換するようになったという。