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チベットの聖地、ラサ旧市街の破壊を阻止せよ


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チベットの聖地、ラサ旧市街の破壊を阻止せよ

習近平国家主席への公開書簡に世界の研究者が署名

2013522日(水)  福島 香織 

 
 チベット自治区ラサが再開発の波に飲み込まれそうだ。
 チベット地域では、信仰や言語などチベットの「文化的ジェノサイド」に抵抗 し、焼身自殺が止まらない。そんな中、貴重なラサ旧市街の伝統的建築までが破壊され、成金趣味のショッピングモールに変貌しつつあると、中国国内のチベッ ト作家や学生たちがSOSを出している。これを受けて515日に、世界のチベット学の学者や専門家らが署名したラサ旧市街および周辺環境への憂慮を訴え た「公開書簡」が習近平国家主席と国連教育科学文化機関(ユネスコ)宛てにネット上で発表され、より多くの署名を募っている。
 きっかけは、北京在住のチベット族女流作家で、米国国務省が主宰する「国際勇気ある女性賞」など多くの国際賞を受賞しているツェリン・オーセルさんが、55日に自身のブログで、「ラサを助けて!」と訴えたことだ。
  これに対して人民日報(513日付)は「ラサの旧市街が取り壊され再開発されている、とは事実ではない!」と反論の大論文を掲載しているが、公開書簡の 署名は日本人学者も含めて増え続けている。また、民間の署名も集められており、こちらはすでに6800人以上の署名が集まっている。
地元住民を追い出してショッピングモールを建設
 オーセルさんのブログには、ラサに旅行にいった観光客の微博の書き込みが、多くの写真とともに紹介されていた。書き込みは訴える。
  「今、ラサの目標は麗江雲南省の有名な観光地、ナシ族伝統建築による旧市街の街並みが世界遺産に指定されている)のような、キンキラキンの贅沢ざんまい な鬼や狼が泣きわめくような観光地になってしまった。地元民(チベット族)の売店や民宿は全部追い出され、高級な骨董品屋や高級ホテルが進出。韓国式美 容整形で全部作り変えないと気が済まないのか?」
 昨年12月にスタートした「ラサ旧市街保護プロジェクト」と銘打った再開発は、実際のと ころ、ラサのジョカン寺をめぐる巡礼路のバルコルを中心に、地元住民を完全に追い出して一大ショッピングモールを建設する計画という。プロジェクトの概要 は、建設予定面積15万平方メートルで、一期工事では地下に1117台、地上に101台の自動車が収容できる巨大駐車場を造る。上下水を整備し、道路、緑 化、消防、電気インフラを整え、ラサの観光と商業発展を見据えた総合ショッピングモールを建設するという。昨年末に営業が開始された産官合同のショッピン グモールの名は「神力タイムズスクエア」。
 ショッピングモール完成後のイラストがブログにも掲載されていた。これは個人の感性によって差があると思うが、私の目にはラサの景観を壊す俗悪なデザインに映る。
 オーセルさんは、地下駐車場建設のために行われている大量の地下水くみ上げによって、ラサ旧市街の古い建物に亀裂が入り、非常に危険な状況であるとも指摘する。
水質汚染や水流減少問題も発生
  また、再開発工事で近くを流れるラサ河がせき止められ、歴史上干上がったことのないこの川が今では、川底が現れ、魚が死ぬほど水が減っているとも。チベッ トでは、人が死ぬと川に水葬し魚に食べてもらうので、魚は神聖なものとされる。ブログでは干上がった河から神聖な魚を救おうと、人々が懸命に魚を移動して いる光景の写真もアップされていた。
 チベット水質汚染と水流減少問題は、チベット現代化を建前にしたむやみなダム建設や鉱山開発によって、今や深刻な環境問題の1つとなっている。オーセルさんは「強欲な餓鬼みたいなやつらに、ラサが破壊されてしまう!」と訴えている。
  ポタラ宮1994年、ジョカン寺とノルブリンカ(ダライ・ラマ離宮)は2000年と2001年に世界遺産リストに入った。ラサの宗教と歴史、神聖なる 人文的価値を保護する必要があると認められてのリスト入りだ。ところが、1996年にはポタラ宮のふもとにある1100年の伝統があるチベット族の村が強 制移転させられ、2002年にはポタラ宮の真向かいにロケット形にそびえるチベット平和解放記念碑なるものが建てられた。
 2007年の世界遺産会議において、ポタラ宮があまりに観光収入を追求する方向に再開発が進められているという指摘を受け、世界遺産資格を取り消す警告のイエローカードが出されたほどだ。
 しかし引き続きポタラ宮の過剰な観光地開発は進み、毎年数百万人以上の旅行者を受け入れ、ラサ旧市街の景観は著しく破壊されている。
  ラサの旧市街の歴史建物の修復に尽力しているドイツの国際NPOチベットヘリテージファンド(THF)創設者で建築家のアンドレアレキサンダー氏(故 人)は、1996年から2002年までの間に、ラサおよび付近の76棟の歴史的伝統建築を再開発の破壊から救ったが、同時に「1980年からラサの都市建 設プロセスにおいて、旧市街の伝統建築と街並みは絶えず破壊され続け、1993年からは毎年平均35棟の歴史的建築物が撤去されてきた」とも証言してい た。この調子で再開発が進めば、4年以内に残りの伝統的建築もすべて失われると憂いていたそうだ。彼は20121月に心臓発作で47歳の若さで急逝し、 今やラサの再開発に歯止めをかける人物がほとんどいなくなってしまった。
 ラサ旧市街の再開発は、歴史的景観の破壊だけでなく、環境問題であり、聖地をけがしているという意味でも、信仰深いチベットの人たちの心を深く傷つけている。オーセルさんは指摘する。
  「ユネスコの世界文化・自然遺産の条約では、『遺産はいかなる国のコントロールも受けないだけでなく、まれにみる希少な文化遺産および自然遺産の突出した 重要性は人類の何にも代えがたい財産であり、全世界人類にとって極めて重要かつ貴重であり、いったん破壊し失ってしまえば、全世界遺産に有害な影響を与え るので全人類が共同して保護せねばならない』とうたっている。ラサで今、恐ろしいほどの勢いで進む『現代化』に歯止めをかけてください!」
中国当局は事実ではないと反論
 中国当局側はこのオーセルさんの訴えに対して、人民日報の「求証」という検証ページを通じて、事実ではないと反論している。
  同紙は記者の現場ルポをもとに、「現在進められているラサ旧市街の保護プロジェクトは、古い建築物を最大限保護しつつ修復する作業」と主張。「旧市街保護 プロジェクトは文物保護に実際的な良い影響をもたらしている 文物の天敵は水と火だが、前のジョカン寺の電線は密集しすぎて、漏電火事の危険性が高かっ た。大雨が降れば、排水が悪く、ジョカン寺の壁画や基礎部分を傷つけた。保護プロジェクトは電線を地下に埋め、下水を整備し火災と水害の危険性を減らして いる」「これまで、夜は街灯がなく、道を歩くと転びやすかった。排水が悪く、いつも汚水が道の上を流れていた。プロジェクト後には、道がきれいになって夜 は街灯で明るくなることを期待する」と地元の僧侶や市民の声を紹介しつつ、「ラサ市のアンケート調査によると96%の住民が保護プロジェクトを支持、 91%の商店主らが立ち退きを理解している」と報じた。さらに「プロジェクトの核心は、ラサの風貌を保護し、文物・建築を修繕し保護すること。チベット族 建築専門家の指導を受けて、古いものは古いままに、修復している」と説明した。
 また、ラサの水資源破壊の問題については、「地下水脈は破 壊されておらず、建物の陥没や亀裂などは引き起こしていない」とオーセルさんの言い分を否定。ラサ河の流れがせき止められているという伝聞についても、 「ラサから6キロ離れたところに観光テーマパーク『文成公主』大型実景演出館を建設中。これはチベット文化産業促進のためだが、ここのテーマパークとラサ 市の交通を便利にするため、ラサ河に橋を建設しているところで、一時的に水流が少なくなっただけ」と説明。「ラサ河の水流は季節によって差があり、水流が 減って見えるのは工事以外に、季節的なものもある」としている。
中国の指導者に世界の声が届くことを願う
 中国の世界 遺産が、恥ずかしいような成金趣味のテーマパークに改造されるというケースはラサだけではない。雲南麗江もシャングリラも似たような運命をたどってい る。何せ中国の観光開発とは、万里の長城にジェットコースター風下山用乗り物施設を造ってしまうセンスなのだ。
 中国政府および地元にとって世界遺産リスト入りの目的は観光地として大勢の観光客を呼び寄せるための看板が欲しいだけであり、景観保護といった意識はもともとない。また、中国人観光客もそういうテーマパークの方を喜ぶふしがある。
  ただ、ラサの観光地化において最大の問題は、ラサはチベット仏教の聖地であり、その宗教性の維持こそが地元の人々にとって観光化よりも重要であるという点 だ。宗教と伝統文化はチベットの人々にとって今ある生活の大部分を構成していると言っても過言ではない。それを排除しては生きていけない。チベット各地域 で120人近い抗議の焼身自殺者が出ているという事態の背景に、チベットの信仰や文化への迫害がある点を考えれば、これは単なる世界遺産の観光地開発の問 題にとどまらないし、現代化と伝統保護の相克という単純な問題でもない。
 目下、米国インディアナ大学チベット研究者、エリオット・ス パーリンク教授の呼びかけで、チベット学者・専門家たちはユネスコ中国当局に対し、実態調査の実施と再開発の停止を求める公開書簡を発表し、すでに 120人以上の署名が集まっている。公開書簡ではこう指摘している。
 「この種の破壊はまさに、チベット人およびチベット学者からチベットの活きた歴史とのかかわりを奪うことである。この種の破壊はまさに、各階層のチベット人の文化と宗教活動を傷つける行為である」「これはチベットの問題でも、単に中国の問題でもない。国際問題である」
  オーセルさんは訴える。「なにもチベットに現代化が不必要だといっているのではない。ただ、現代化とは、古いものを根絶やしにするということでは決してな い。重要なのは、現代化のプロセスにチベット人が参与すること。今の現代化は全部、他者からどのように暮らせと命じられたものです。自分の家にいるのに、 自分の意見を言えないのと同じです」
 この声により多くの人が耳を傾け、中国およびチベット自治区の指導者たちが聞き入れてくれることを切に願う。