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安倍首相、「不意打ち解散」の内幕

 
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安倍首相、「不意打ち解散」の内幕

狙いは長期政権、景気失速で誤算も

2014年11月20日(木)  安藤 毅
 消費税率10%への引き上げ延期を決め、衆院解散に踏み切る安倍晋三首相。任期2年余りを残した今、なぜ「不意打ち解散」に打って出るのか。長期政権をにらみ、政権基盤の再強化を図ろうという舞台裏を検証した。
 「税制こそ議会制民主主義と言っても良い。その税制において大きな変更を行う以上、国民に信を問うべきであると考えた」
 18日の記者会見。安倍晋三首相は2015年10月に予定していた消費税率の10%への引き上げを1年半先送りする方針を正式に表明。政策変更について国民の審判を仰ぐことを大義に21日に衆院を解散すると宣言した。

節目は「ダブル辞任」

  消費増税の延期と解散――。長期政権をにらむ安倍首相や菅義偉官房長官らはこの夏ごろから解散・総選挙のタイミングを模索していた。関係者によると、増 税延期を理由とした解散戦略に安倍首相が舵を切ったのは、小渕優子経済産業相らがダブル辞任に追い込まれた10月20日前後だった。
 2006~07年の第1次安倍内閣では「政治とカネ」の問題などで閣僚の進退問題が続出。「辞任ドミノ」に陥り、内閣支持率は急落した。
 その反省から早期の事態収拾に動いたものの、一部の閣僚への野党の攻撃が継続。自民党内でも「これで安倍1強体制は変わる」といった空気が広がり始めていた。
 改造失敗を帳消しにし、政権基盤を立て直す。安倍首相はその最も有効な手段である「解散カード」を早期に切る意向を固めたのだ。
 後はタイミングと大義が問題だったが、答えはほどなく「年内」と「消費増税先送り」に絞り込まれた。
 安倍首相らは2020年の東京五輪まで首相の座に就けるよう自民党の総裁任期を延長する「超長期政権」の実現を目指している。その間に宿願の憲法改正に道筋を付けたいとの思いもあるためだ。
 そのためには2015年9月の自民党総裁選までに総選挙を乗り切り、総裁選を無風で通過するのが大前提と考えている。ただ、来年1月の通常国会冒頭の解散では2015年度予算案の今年度内成立は困難になり、多方面に影響を及ぼす。
 4月の統一地方選と同時は連立パートナーの公明党が渋り、通常国会の会期末やそれ以降は原子力発電所再稼働問題や集団的自衛権の行使容認に向けた安全保障法制の国会審議の影響などから世論の逆風も見込まれる。
 さらに、米連邦準備理事会(FRB)のゼロ金利解除が早まれば市場が混乱し、政権が重視する株価も不安定になりかねない。今はダブル辞任にも関わらず、内閣支持率も高水準を維持している。
 今は野党の選挙体制が整っていない。過去の経験則から師走選挙は低投票率になりがちで、組織選挙に有利に働くとの計算も働いた。
 アジア太平洋経済協力会議APEC)を利用した日中首脳会談の実現にこだわりを見せたのも、外交成果を選挙のプラス材料にしようとの思惑からだ。

大義は「消費増税先送り」に

 年内解散となれば、大義は1つしかなかった。目前には消費税率再引き上げの判断が迫っている。10%への引き上げを延期し、政策変更について国民に信を問うとのストーリーが固まった。
 デフレからの脱却を優先すべきという立場の安倍首相はもともと、消費税率を2014年4月に8%、2015年10月に10%へと短期間に2段階で引き上げる民主党、自民、公明による「3党合意」に懐疑的だった。
  2012年末の第2次政権発足時には既に敷かれていた増税へのレール。渋々決断した8%への引き上げ後、景気見通しは事前の予測より大幅に悪化し続けた。 年率換算で見た4~6月期の実質GDP国内総生産)が前期比7.3%減と落ち込むに至り、安倍首相や菅氏は警戒感をさらに強めた。
 10%への引き上げについても粛々と行うのが首相としての責任との“常識”に従えば、アベノミクスは失速し、政権運営は行き詰まりかねない――。 
 再増税の可否を巡り思い悩むことも多かった安倍首相だったが、最重視していた今年7~9月期のGDPの民間予測が個人消費の停滞などから夏場と比べ大きく下振れしていることを受け「延期」へと大きく傾斜した。
  安倍首相の決断の背景には財務省主導の「包囲網」に対する反発もあった。財政再建を錦の御旗に与野党や経済界などに「予定通りの引き上げ」の重要性を説 き、環境整備に躍起となった財務省。安倍首相は最近も「消費税さえ上げさせれば、後は政権や景気がどうなってもいいというのが財務省の本音だ」と親しい関 係者に漏らし、不信感をあらわにしている。
 同省出身で増税の必要性を強調していた日銀の黒田東彦総裁に対しても安倍首相は距離を感じ始めていた。フリーハンドを保ちたい安倍首相は9月11日、首相官邸に黒田総裁を呼び、「最終的に政策判断をするのは自分」という趣旨の言葉でくぎを刺している。
 その黒田総裁は10月31日、官邸に根回しすることなく追加の金融緩和を主導。「財務省と連携して消費増税への環境整備を進めた」とみた安倍首相はこの時、親しい関係者に「聞いていなかった」と不快感を示している。
 黒田総裁は今月12日の衆院財務金融委員会で、追加緩和は「2015年10月に予定される消費税率の10%への引き上げを前提に実施した」と言い切って最後の抵抗を試みたが、安倍首相の決意は変わらなかった。
 11月に入るや、親しい関係者に安倍首相は「1~2%程度の成長率なら消費税は上げない」と断言。「庶民が求める消費増税の先送りは争点にならない。仮に民主党内で意見が割れれば、それも選挙戦にプラスになる」とみて最終的に解散を決断した。
  APECなど一連の外遊から帰国してからでは解散までの時間が足りない。そこで安倍首相は出発前の今月7日に自民の谷垣禎一幹事長、公明の山口那津男代表 に年内解散を検討していると表明。この直後から突風のような解散風が吹き出し、安倍首相が帰国するまでにそれは確報に変わった。公明幹部は「この時期の解 散はベスト」と漏らしている。

財務省包囲網」突破もプラスに

 ふたを開けてみれば、7~9月期の実質GDP速報値は、年率換算で1.6%減と事前の予測を大きく下回り2四半期連続のマイナスに。消費増税後の反動減からの回復が見込まれていた内需の不振が鮮明になった。
 安倍首相周辺は「増税先送り以外の選択肢はあり得なかった。解散に動いていたことでアベノミクスへの国会追及などをかわすこともできた」と胸をなでおろす。
 さらに「財務省や日銀、経済界の反対を押し切った形をとることで生活重視の姿勢もアピールできる」と「増税先送り解散」の意義を強調している。
  安倍首相は会見で10%への引き上げについて、2017年4月には「確実に実施する」と明言。退路を断ったうえで、財政健全化の目安になる基礎的財政収支 (プライマリーバランス)を2020年度に黒字化する目標を堅持する考えを表明し、増税先送りに伴う財政悪化懸念に配慮してみせた。
 野党による攻撃ポイントに先手を打った形。だが、安倍首相にとって盤石にみえた不意打ち解散シナリオにもいくつかの不安要素が生じてきた。
 まずは、景気の足踏みだ。消費増税先送りの判断の正当化には追い風だったが、7~9月期のマイナス成長は想定外の悪さ。専門家の間で景気後退局面入りとの観測も出る中、争点設定に悩む野党にアベノミクス批判という格好の攻撃材料を与えた格好だ。

「政局的には正解。政治空白はマイナス」

 「政局という観点からすれば、このタイミングでの解散は正解。一方、景気の腰折れ懸念が強まっているさなかに政治空白を作るのはリスクが大きい」。安倍首相に批判的な自民のベテラン議員はこう語気を強める。
 これに関連するが、「なぜ今解散なのか」「何が大義なのか」という重要な点が有権者に浸透しているとは言い難い点も波乱要因になりそうだ。
 「今選挙をしたほうがいいといった話はしょせん、内輪の論理。こんな大変な時期に金を使って選挙などしている場合かといった批判の矛先が向けられてもおかしくない」。自民の中堅議員はこう漏らす。
 自民の選挙対策部門のスタッフは「身勝手解散といったレッテルを張られ、勝たせすぎてはいけないとの空気が広がるのが怖い」と警戒する。選挙戦を通じて、安倍首相や与党幹部がどれだけ有権者に納得感を与えることができるのかが問われる。
 勝敗のカギを握るのが野党共闘の行方だ。2012年の衆院選は政党が乱立したまま選挙戦に突入。自民・公明と民主以外の第三極が分散したことで、結果的に自民の圧勝につながった。
 生活の党の小沢一郎代表は「野党が統一戦線を組めば勝てる。そのためには新党を作るのがベストだ」と強調するが、野党の大同団結には「野合」批判がついて回ることもあり、困難な情勢。現実的選択として、民主を中心とした選挙区調整が動き出している。
 その1つとして、元々同じ党だった生活の現職の選挙区に民主が候補者を立てない方向が固まった。これにより、例えば小沢氏のおひざ元の岩手県では情勢がかなり変わり、少なくとも選挙区では自民候補は前回より厳しい戦いを強いられる見通しだ。
 みんなの党が解体に向かうなど第三極は腰の定まらない動きが続くが、仮にこうした野党間の調整が進めば、流れひとつで与党は思わぬ苦戦を強いられる展開もあるかもしれない。何しろ、各種世論調査では、特定の支持政党を持たない「無党派層」が一番多いのだから。
 「私が進めている経済対策が間違っているのか、正しいのか。ほかに選択肢があるのか、論戦を通じて明らかにする」。会見で安倍首相はこう強調し、アベノミクスの是非を争点に選挙戦を戦うと宣言した。
 実質的に安倍政権の信任投票となる師走の選挙戦。その結果は日本経済の今後をも左右することになるのは間違いない。