習近平は江沢民閥出身－周永康事件を読み間違えるな＝東京福祉大学国際交流センター長（特任教授） 遠藤誉
習近平が今日の身分まで上り詰めることができたのは、江沢民のおかげだ。２００７年３月に上海閥のトップに君臨する「江沢民閥」に組み込まれた。
江沢民の後ろ盾がなかったら、０７年の第１７回党大会で、習近平がチャイナ・ナイン（中共中央政治局常務委員）に選ばれることもなかったし、またその時に胡錦濤が推薦する李克強の上の党内序列に位置付けられることもなかった。胡錦濤は長年にわたって共青団（中国共産主義青年団）において弟子的な存在として李克強を育て上げ、李克強を次期国家主席にしようとしていた。
しかしその願望は、０７年の北戴河の密談で断たれた。江沢民が李克強の抜てきに反対し、強烈な勢いで習近平を推薦したためだ。その結果、第１７回党大会におけるチャイナ・ナインの党内序列は「習近平が６位」で「李克強が７位」と、習近平が李克強の上に立つことになった。職位も、習近平が国家副主席、李克強が国務院第一副総理となり、１２年の第１８回党大会における習近平の中共中央総書記と１３年の全人代における国家主席就任が約束されてしまったのである。
◇習近平はなぜ江沢民閥に取り込まれたのか？
習近平が江沢民派閥に取り込まれたのは０７年３月。
０６年に江沢民の最大の子飼いだった上海市書記、陳良宇が腐敗問題で中共中央紀律検査委員会の取り調べを受け、後に１８年の懲役刑が言い渡されている。
胡錦濤が０２年に中共中央総書記になること自体、江沢民にとっては腹立たしいことで、江沢民は胡錦濤が憎くてならなかった。そのため、０７年の党大会で何とか胡錦濤を引きずり降ろし、陳良宇を総書記に持っていこうと画策していた。そこで、胡錦濤政権が０６年に打ち出した第１１次五カ年計画で出した「経済成長率を、これまでの８％から７．５％に引き下げる」というマクロコントロール政策に真っ向から反対。江沢民は陳良宇に堂々と「そのようなことをしたら中国の経済は失速する」と言わせて、胡錦濤政権が打ち出したマクロコントロール政策を阻止しようとした。
胡錦濤政権としては貧富の格差があまりにひどくなっていたので、何とか「和諧社会」（調和のとれた社会）を実現すべく、富の一極集中と急速な経済発展がもたらす貧富の格差を和らげようとしていたのである。
それでも利益集団である江沢民閥になかなかメスを入れることができずにいた胡錦濤は、陳良宇を汚職で摘発し、その後釜の上海市書記に上海市共青団の書記からのし上がった韓正を据えた。
ここで「悪知恵」を働かせたのが曽慶紅（当時はチャイナ・ナインの一人で国家副主席）。
習近平と仲がいい曽慶紅は、このとき浙江省の書記を務めていた習近平に白羽の矢を立てた。そして江沢民に「習近平を陳良宇の代わりに据えて、次期政権のトップに持って行けば、われわれはもっと安泰ではないか」とささやいたのである。
江沢民は最初あまり乗り気ではなかったが、結局首を縦に振り、習近平を浙江省から呼び寄せて上海市書記に据えることを胡錦濤に要求した。
驚いたのは胡錦濤。
しかし習近平の父親である習仲勲（中国文字では員に力）には恩義がある。習近平が上海市書記になるくらいは譲歩しようと、江沢民の要求に応じた。こうして０７年３月、習近平は上海市書記に就任し、江沢民閥に組み込まれたのである。
胡錦濤としてはこの時、まさかその習近平が数カ月後の北戴河の密談で、自分の後継者として育ててきた李克強をしのぐ駒として、天下分け目の勝負に使われようとは、思ってもいなかった。
こうして誕生したのが習近平政権だ。
その習近平が江沢民との間で権力闘争などするはずがない。腐敗分子が江沢民閥に集中していただけである。周永康事件を権力闘争と位置付けると、中国の真の姿は見えなくなり、未来予測を誤る。（敬称略）
http://www.jiji.com/news/kiji_photos/140730_jnt202.jpg遠藤 誉（えんどう・ほまれ）
東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。
１９４１年中国生まれ。中国革命戦を経験し１９５３年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授、上海交通大学客員教授、（日本）内閣府総合科学技術会議専門委員などを歴任。著書に『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』『チャイナ・ナイン 中国を動かす９人の男たち』『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』『卡子（チャーズ） 中国建国の残火』『チャイナ・ギャップ 噛み合わない日中の歯車』『完全解読 「中国外交戦略」の狙い』『中国人が選んだワースト中国人番付』など多数。
（2014/08/13-17:00）
