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原発市場は政府のさじ加減で決まる




東芝幹部の「したり顔」の裏側にあるもの

原発市場は政府のさじ加減で決まる

2015年12月9日(水)田村 賢司

 「したり顔」といえば「訳知り顔」「知ったような顔」という意味だと理解している向きが多いだろうが、本来は、物事がうまくいった時などに思わず発する感動詞である。
 では、11月末、新たな事業計画で「2029年までの15年に新たに“64基”の原子力発電所建設の受注を目指す」と発表した東芝の室町正志社長と、志賀重範副社長の顔はどちらだったのだろう。会見の場では、「原発市場は今後、全世界で400基以上の需要がある」と巨大市場になると言い切ったが、その確度はどれほどのものか。仮に大市場になるとしても、本当に受注できるのか。巨大市場になるという予測を「訳知り顔」に言ったものか、その内16%ものシェアを取れると言い抜けて「うまくいった」と思ったものか。違う角度から検討してみよう。

2030年に原発の電源構成比率は20~22%へ

 まず、後者については、本誌のスクープで報じたように、東芝の幹部自身も64基を米原発子会社、ウエスチングハウス(WH)の減損を回避するための苦し紛れの数字だったとしている。そして、どこかの段階で「リーズナブルなレベルに見直す必要がある」とも述べている。訳知り顔で監査法人の壁を突破したというわけだ。
 しかし、その顔が通じるには理由がある。原発市場が政府のさじ加減で大きく動くというそれである。今は、眉唾のように思えても、その時のエネルギー事情や政府の意向によって現実味が急に高くなる。そう捉えられているからだ。
 例えば日本市場。国は昨年初め策定したエネルギー基本計画で、震災後一時はゼロに落ちた原発の電源比率を2030年度に20~22%にするとしている。震災前でも29%だったから、それに近い水準に戻すというわけだ。
原子力の比率を大きく増やすとしているが…
主要電源の電源構成の変化
出所:経済産業省の資料を基に本誌作成
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 ただし、それが本当に新規需要を生むかどうかは、ほとんど政府のさじ加減次第ではないか。例えば、原発の代替の1つとして挙がりやすい再生可能エネルギー。これは、2011年3月の東日本大震災東京電力福島第1原子力発電所の事故以後、急速に発電量を増した。東京電力など九電力の販売電力に占める再エネ(自社発電と再エネ業者からの受電)の比率は、福島の事故以前の1~2%から2014年度で倍になり、北海道電力九州電力では6~7%にも増えている。
 国内の電力需給は、震災後深刻な供給不足に陥る可能性が言われ、事実、事故後しばらくは、首都圏などで計画停電も行われたが、結局、電力が足りない事態は起きなかった。その理由は、電力需要自体が震災以前に比べ、約10%落ち、そのまま戻っていないことと、火力発電所が休止から復活したり、新設されたりしたこと、そして、再エネによる発電急増だった。
 このうち火力発電所は、地球温暖化防止の動きの中で大きくは増やしにくい。実際、エネルギー基本計画でも、全体の電源に占める電源種別の構成比で2013年度に88%だった火力の比率を2030年度には56%に下げるとしている。一方、再エネは同年度に2013年度の10%を22~24%にするとしている。

急激に過熱し、醒めてきた太陽光ビジネス熱

 しかし、これも政策次第である。例えば、太陽光発電は2012年7月に始まった再エネの固定価格買い取り制度(FIT)で急速に発電施設が増えた。これは再エネの普及のため、電力会社に再エネで発電された電力を一定期間、固定価格で買い取ることを義務づける制度。太陽光の買い取り価格が当初、1キロワット時当たり42円と高かった上に、風力など他の再エネに比べ施設の設置がし易いことなどから急速に普及した。しかし、翌年から買い取り価格を下げ始め、さらに九州電力などが昨年から、「(設備能力面から)受入量の限界を超える」などとして買い取り量に制限を設けると言い出すと、再エネ事業への参入熱は急速に醒めていった。
 「FITによる買い取り価格の負担金は最終的に消費者に転嫁されることから、消費者の負担が増え過ぎるのを防ぐため」。経済産業省は、買い取り価格引き下げの背景をこう説明するが、政策次第で再エネ導入の動きが変わることをはっきりと示した。
 政府はFITと同時期に、再エネの設備投資をした場合、法人税を一部減免するグリーン投資減税制度を設けたが、これも来年度からは縮小される可能性が高くなっている。あるアナリストは「政策支援が小さくなり続けると、エネルギー基本計画で設定した2030年の再エネ比率は厳しくなる可能性もある」と指摘する。
 では、原発はどうか。大和証券の電力担当アナリスト、西川周作氏によると、エネルギー基本計画で示した原発の構成比率を達成した場合、発電能力は約3040万キロワットになる。一方、原発の寿命を従来通り40年とした場合、その時点で残る既存の原発の発電能力は2150万キロワット。つまり、約890万キロワット分を新・増設する必要がある計算になる。100万キロワット級の原発で7~8基分だ。

電力自由化原発投資は難しくなる!?

 しかし、現実的には容易ではない。1つには、原発新設への国民の理解がまだ進んだとは言いにくいことがある。これ自体、相当の難関だが、仮にその状況が変わったとしても、もう1つ難題もある。それは電力改革の中で、小売り電力価格が来年から自由化される影響だ。原価を積み上げ、一定割合の利益を乗せる現在の総括原価方式ならば、原発のための多額の投資もできるが、「自由化で将来キャッシュフローが予測しにくくなると、投資が難しくなる」(西川氏)のである。
 投資が難しければ、料金自由化自体に将来、制限を加える可能性も否定できない。または、既存の原発をさらに使い続けるという選択もある。実際、既に40年の寿命を60年にするという動きもあるが、それにしてもいずれは限界が来る。
 結局、将来のことはほとんど予測できないし、政策次第で原発の新増設はいかようにも変わると言っていいだろう。東芝幹部が監査法人に、遠大な原発受注計画をしたり顔で説明できたのも、そのことを共に分かっていたからではないか。東芝原発ビジネスを理解するのは、それほど難しい。
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