米首都ワシントンのホワイトハウス前で、チベットを支持するデモで掲げられたチベットの旗(資料写真)。(c)AFP/JIM WATSON〔AFPBB News

「私は司法の手続きがないまま中国当局に逮捕され、苛酷な拷問を受けました。『虎のイス』と呼ばれる鉄のイスに手足を縛りつけられ、2カ月近く締めつけられたまま、連日、殴打や電気ショックを受けたのです」
 中国政府から長年弾圧され、現在はスイスに亡命しているチベット仏教の僧侶、ゴログ・ジグメ氏が4月14日、米国議会の公聴会で初めて証言した。
 この証言により、中国政府が国内で少数民族や宗教組織の代表を拘束し、厳しい拷問を行っている現実が改めて明らかにされた。

政治犯や宗教犯に集中的に実施

「中国の広範な拷問行使」という名のこの公聴会は、米国の立法府と行政府が合同で中国の人権や社会について調べ、米国の対中政策に反映させる「中国に関する議会・政府委員会」が開催した。
 同委員会は、長年中国の人権問題を提起してきたクリス・スミス下院議員(共和党)と今回の大統領選にも立候補したマルコ・ルビオ上院議員(同)が共同議長を務め、行政側からは国務省や大統領府の代表などが加わっている。
 今回の公聴会では、実際に被害にあった関係者や国際人権擁護団体の代表らを証人に招いて、中国当局による拷問の実態や目的などを中心に報告を聞いた。

 冒頭ではルビオ議員が「中国の刑法システムの中で拷問は今も広範に実施されています。その違法性は広く提起されねばなりません」と強調した。中国の拷問については、米国政府の国務省なども厳しい監視の目を向け、国際的な人権擁護規範に違反するとして証拠を集めてきた。国務省公聴会の前日の4月13日に「2015年人権報告」を発表し、その中で中国の拷問について以下のように指摘していた。

「中国の多数の元囚人や元被拘束者たちが、当局者から殴打され、電氣ショックを与えられ、堅いイスに長時間あるいは何日間も縛りつけられ、睡眠も禁じられたという実態を報告している。中国ではこの種の拷問が刑事犯、政治犯一般に対して広く実行されており、特に政治犯、宗教犯、反体制活動家に集中的に実施される。活動家はその家族までが逮捕され、この種の拷問を受けることがある」

 マルコ議員はこうした拷問の目的について、「最近は、反政府活動家らから虚偽の自供を得て、その自供をテレビで放映することが顕著にみられます」と述べた。つまり中国当局は、実際には行っていない違法行為の自白を拷問によって活動家から取得し、その内容を本人の口からテレビあるいはビデオなどで公表するのだ。卑劣な手法と評する以外にないだろう。

肋骨が折れ膝の関節が脱臼したことも

 さて、チベット人の僧侶ゴログ・ジグメ氏は公聴会に赤い僧衣を着て登場し、通訳を使って証言した。ジグメ氏の証言にクリス、ルビオ両議員や100人以上の傍聴者が耳を傾けた。
「私が中国当局者たちの拷問にいかに苦しんだか、すべてを語れば、時間がいくらあっても足りませんので、要点をお話しします。

 最初の2008年の拘束では52日間、連日拷問を受けました。『虎のイス』という鉄製のイスに縛りつけられ、両手にきつい手錠をかけられ、両足も後ろに曲げてカセをかけられました。全身の関節が痛む姿勢です。昼も夜もそんな状態が続き、食物も飲み水もほとんど与えられず、眠ることも許されませんでした」

「当局が私を拘束した理由は、ドゥンドゥプ・ワンチェンというチベット人の映画製作者が『恐怖を乗り越えて』というドキュメンタリーフィルムを作ることに私が協力したからです。この映画はチベット人の文化や信仰をあるがままに描いた作品です。しかしワンチェン氏は逮捕され、裁判もなく、6年間も刑務所に入れられました。中国当局は私に、同氏と共謀して中国国家への反逆行為を行ったと自供するよう命じました。さらにダライラマを誹謗することも迫りましたが、私は命令に従いませんでした」

中国当局者は私を頻繁に殴り、蹴りました。当初は木の棍棒でよく殴られました。肋骨が折れ、膝の関節が脱臼したこともあります。また、体のいろいろな部位に電気ショックを起こす器具を押し付けられました。両手を背中で縛られ、天井のフックから宙釣りにされたこともあります。

中国当局はいつも『中国に拷問はない』と否定しますが、私自身が拷問を受けた体験者です。チベットの伝統的な宗教や習慣を守ろうとする多数のチベット人が今も不当に逮捕され、拷問を受けている証拠が多数あります」

3回逮捕され拘束されたジグメ氏

ジグメ氏は地元チベットでは、宗教面だけでなく貧困層の救済や天災被害者の支援などでも指導的な役割を果たしてきた。しかし、前記の映画製作への関わりを理由に2008年に逮捕され、7カ月間ほど拘束された。2009年後半にも「国家機密を暴露した」という理由で数カ月拘束された。

 さらに2012年にも中国当局に逮捕された。このときは、当時チベット全土で頻繁に起きていた、中国当局の弾圧に抗議する焼身自殺の「主要な扇動者」という容疑をかけられた。そして逮捕後すぐに肉体の不調を理由に特殊な病院に入院させられることになった。過去の事例からこの種の病院では殺される危険があると判断し、脱出を図って成功したのだという。ジグメ氏はチベットに1年半ほと潜伏し、2014年5月にインドに脱出。その後、スイスへの亡命を認められた。

 このようにジグメ氏は2008年から2012年の間に中国当局に3回逮捕され拘束されている。その悲痛な体験を基に、今回、米国の公聴会で初めて証言したのである。
中国当局による人権弾圧の実態、そして正面からその弾圧を非難する米国の姿勢など、今後の中国との関係のあり方を考えるにあたって、日本にとっても貴重な材料となるだろう。