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ダライ・ラマの「難民は最終的に祖国へ」発言が物議 人道主義と生活不安で揺れる欧州

ダライ・ラマの「難民は最終的に祖国へ」発言が物議 人道主義と生活不安で揺れる欧州


 ダライ・ラマ14世がドイツの新聞社から受けたインタビューの内容が、欧州で波紋を広げている。このインタビューの中で、ダライ・ラマ14世はドイツの難民問題に言及。「難民の数が多すぎる」「倫理的な観点からも、難民は期間限定でのみ認めるべきだと思う」と自身の見解を述べた。そして、「難民の中でも、とくに女性や子供については、彼らの辛い気持ちに共感する」としながらも、「最終的には祖国に帰り自分たちで国を再建すべきだ」と訴えた。

 世界経済が不透明ななか、欧州でも自分自身の生活に不安を抱えている人は多い。自分自身の生活への不安と人道主義の間で板ばさみになっている欧州の人々。報道内容やそれに寄せられたコメントから、現地の人々の葛藤が浮き彫りになった。

◆「クレイジーと呼ばれてもいい。正直、彼は正しいと思う」など賛同の声多数
 チベット出身のダライ・ラマ14世は、1959年に中国軍の侵略から逃れるためインド北部ダラムサラへ亡命。その後祖国に一度も帰っていないため、彼自身もある意味“難民”であると複数メディアで紹介された。そして、難民であると同時に“人道主義の象徴”的な人物でもあるため、今回の発言はことさらに注目を集めたようだ。

 このインタビューは、チベット亡命政府の本拠地があるダラムサラで、ドイツの新聞社『Frankfurter Allgemeine Zeitung』が実施した。

 英デイリーメール紙は、ダライ・ラマ14世を「57年間難民生活を送っている“生き仏”」と紹介。同紙では、ダライ・ラマ14世のインタビュー概要とともに難民問題を巡る欧州の厳しい現状を紹介した。また、難民がフランス経由で英国を目指していることや、英国政府が難民問題への対応に苦心していることなども伝えた。

 同記事には700件以上ものコメントが寄せられ、「彼は100%正しい」「ローマ法王とちがってコモンセンスがある」などダライ・ラマ14世の発言を肯定する内容が目立った。賛同数が最も多かったのは、英国マンチェスターのユーザーからの「クレイジーと呼ばれてもいい。正直、彼は正しいと思うよ」という意見。この意見に対し、「あなたはクレイジーだし間違っている」という反論も同じく英国のユーザーから投稿されたが、これには大きくマイナス評価がついていた。

◆もちろん反対意見も多い「ショッキングなコメントだ」「排外主義的考え」
 米ワシントンポスト紙は、「このような意見は主にナショナリスト・グループの間で培われてきたものだったが、思いがけないところから共感を得られた」と伝えた。

 しかし同紙は、「欧州の難民が多すぎる」というコメントについては誤りがあると指摘している。「真実は違う。実は、ほとんどの難民が避難しようとしているのは、欧州ではなく、トルコやレバノン、ヨルダンなどのアラブ人が多数派を占める国々だ。人口8,000万人のドイツが受け入れた難民の数は、たったの100万人強だ」(ワシントンポスト紙)

 一方、英インデペンデント紙に寄稿したJessica Brown氏は、「難民問題についてのショッキングなコメント」というタイトルで批判。「私自身ダライ・ラマ14世の大ファンだが、このようないい加減な排外主義を受け入れる前に慎重に再考しなければならない」と訴えた。同記事には、難民の子供たちの悲痛な写真が11枚掲載されていた。

 インデペンデント紙にも多数のコメントが寄せられ、賛成派と反対派が言い争う一幕も。そして中には、激しい怒りに満ちた意見もあった。
・「一体誰が彼のことを“人道と情けの象徴”などと言ったのか?メディアだ!彼はただの人間で、神権政治のトップだ」
・「なぜ彼のような人間のことを人々がこれほどまでに信用するのか、私には全くわからない」

 各メディアの記事に寄せられたコメントを総合的に見てみると、ダライ・ラマ14世の発言に賛同している人が多数派のようだ。人助けをしたいのはやまやまだが、政府には自国の安全や生活維持をもっと考えてほしい、という思いが伝わってくる。「表立って言い出しにくいことを、当の本人が難民であるダライ・ラマ14世がよく言ってくれた」というのが人々の本音なのかもしれない。

(北川恭子)

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