熱中症で死なないための最低限の基礎知識
猛暑の年は1700人を超える人が熱中症で死亡している。今年の夏もここ数日で急に暑くなり始め、救急搬送される人が増えており、すでに死亡例が報告されている。熱中症で不幸な結果にならないために、これだけは知っておきたい対策や予防策などをまとめた。(医療ジャーナリスト 木原洋美)
二日酔い?働き盛りの男性が
早朝からトイレにへたり込む
「熱中症だったんですよ。死ぬところだったと、医者に言われました。サウナに行った後、水分補給はビールでしようと考えたのがいけなかったみたいですね。ビールは利尿作用があるから脱水が進んじゃう。足がつるのも、熱中症の典型的な症状らしいです。そんな暑い日じゃなかったし、油断しちゃいましたね」
実は女性よりも男性が危険
熱中症のなりやすさをチェックしよう
□ 女性よりも男性
国立環境研究所が平成27年に公表した報告書によると、患者数は女性よりも男性が多く、66.9%で2.1倍に当たる。女性と比較して男性は筋肉量が多く、体脂肪が少ない。筋肉は運動時に熱を産生し、体温を上昇させる機能があり、体脂肪は外気が低いときは体温が逃げ出すのを抑え、熱い時は外気の温度が体内に伝わることを防ぐ体温保持機能がある。そのため、筋肉が多く体脂肪が少ない男性は、体温が上がりやすく、熱中症になりやすいのだ。
さらに体力を過信している分、救急車を呼ぶ等の対応が遅れがちになる心配もある。
□ 65歳以上
年齢別では男女とも65歳以上の占める割合高く、男性は34.4%。女性では51.5%と過半数を占めている。
高齢者が熱中症にかかりやすい最大の理由は、体温調節機能の衰えだ。体温調節機能とはズバリ「適切に汗をかく力」を指す。汗を出す汗腺の数自体は年をとっても若い頃と変わらないが、1つの汗腺から出る汗の量は加齢とともに減少してしまう。つまり、高齢者は高温になってもなかなか汗をかかず、かいたとしても量が少ないために、とりわけ気温が体温より高くなるような環境では体温調節が困難になり、熱中症にかかりやすいのである。
□ 我慢強い(暑さや、のどの渇きを我慢しがち)
しかも高齢になると、暑さやのどの渇きを感じにくくなるため、エアコンをつけたり水分を補給したりするタイミングが遅れがちになる。我慢強い人は特に危ない。
□ 汗をかきにくい体質
また、高齢者でなくても、「汗をかきにくい体質の人」は、同様の理由で熱中症リスクは高い。
□ クーラーをかけたくない
発生場所は、住宅等居住場所が全体の43.1%を占め最も多く、次いで道路・交通施設が1.192人で25.4%を占めている。特に65 歳以上は男女ともクーラー不使用の住宅内が多いという。
○21時頃、娘が母親宅を訪問した際、居室内ぐったりしている母親を発見したもの。居室内は窓が開いており、クーラー、扇風機等も使用していなかった。
【平成27年7月 女性(76歳) 熱中症(中等症) 気温28.0℃ 湿度67%】
○3時頃クーラーを切り、窓を開けて就寝、7時半ごろ起床した際、室内がかなり暑く、大量の汗をかき、気分も悪かった。8時頃水を飲んだが嘔吐したもの。
【平成27年8月 男性(73歳) 熱中症疑い(中等症) 気温29.5℃ 湿度73%】
○15時30分頃、帰宅した息子が暑い部屋でぐったりしている母親を発見したもの。
【平成27年6月 女性(79歳) 熱中症(重症) 気温28.8℃ 湿度47%】
出典:東京消防庁
□ 糖尿病、高血圧・心疾患等の持病がある
糖尿病の人は一般的に尿の量が多くなりがちで、脱水状態を起こしやすい。減塩生活を心がけている高血圧や心疾患の人も、塩分不足や脱水症状になりやすい。結果、いずれも熱中症発症に至るリスクは高まる。また、判断力が低下している認知症の人にも、特別な配慮が必要だ。
□ 肥満体型
普通体型の人と比較して肥満体型の人は、同じ運動量でもエネルギーの消費量が大きく、熱の産生量が多い上に、分厚い脂肪層が熱の放散をがっちりと妨げるため、体温が上昇しやすいからだ。
猛暑の年には1700人以上が死亡
万全の「熱中症対策」で臨みたい
8月7日(日)は暦の上では「立秋」だが全国929観測地点のうち、131地点が35度以上の猛暑日となり、猛暑日地点数は今年最多を記録した。このうち、兵庫県豊岡、鳥取県鳥取、新潟県中条の3地点では38度を超えた。テレビや新聞では「まだまだ暑い日が続くので、熱中症に注意」と警告しているが、果たして「事前の備え」をしている人は、どれくらいいるのだろう。せいぜい、「暑い日はこまめに水分補給」との心構えを新たにした程度なのではないだろうか。
熱中症による死亡者数は、1993年以前は年平均67人だったが、1994年以降は年平均492人に急増している。夏期の気温が上昇していることが関連しているとみられるが、この増え方は尋常ではない。記録的な熱波が襲来した2010年には、5万4000人もの人が救急搬送され、1745人(男940人、女805人)人が亡くなった。気候に関する数値が毎年のように更新される昨今、猛暑の予測には万全の「熱中症対策」で臨みたい。
自分で手当てできるのは軽症まで
頭痛・嘔吐なら医療機関へ
患者が自分で水を飲めるか?
「飲めなければ」即救急車!
そこで、救急車を呼ぶ目安として覚えておきたいのが、「患者に冷たい飲み物が入ったペットボトルやコップを持たせ、自力で水分を飲ませる」という方法。自力で飲めない場合は意識障害があるので、ためらわずに救急車を呼ぶ。自力で飲める時は「冷所に寝かせ安静を図る」、「衣服を緩めた上で体の表面を冷やしたり、水分や塩分を補給する」などの応急手当をして様子を見る。回復すれば医療機関を受診しなくてもよい。
ただし、様子を見る場合には、たとえ本人が「大丈夫」と言い張っても、患者を決して1人にしてはいけない。ペットボトル1本持たせて木陰で休憩させていたら亡くなってしまった…というケースは少なくないからだ。必ず誰かが付き添って応急手当を続け、症状の推移を注意深く見守るようにしよう。
息子の発熱を夏風邪と思い込み
危うく死にそうになった苦い経験
意外と危険なのは、38℃以上の発熱を夏風邪と自己診断し、部屋を閉め切って身体を冷やさないよう注意していたら実は熱中症だった…というケース。筆者の長男も幼児の頃、熱めの温泉で長時間遊んだ結果、熱中症を発症。てっきり夏風邪と思い込んだ我々両親の見当違いな手当のせいで、危うく生命を落としかけたことがある。また、逆パターンでは、脳梗塞を熱中症と診断されて適切な処置が遅れ、生命を失うケースもある。医師ですら見極めが難しいほど、熱中症と似ている疾患もある。素人判断は禁物だ。
「インターバル速歩」で
体温調節の要である汗腺を鍛える
今日ほど、エアコンが普及する以前の日本人は、暑い夏と寒い冬の温度変化に順応するように、夏は「能動汗腺」を増やし、冬は汗腺を休ませるといった身体機能の調節を、ごく自然に行える生活をしていたのだが、現代はそうはいかない。意識的に汗をかかなければ能動汗腺は退化し、日本人はろくに体温調節ができない、爬虫類のような変温動物になってしまうだろう。