予告抜き「ダム放流」で被災者を押し流す金正恩体制の人災体質
先月末、北朝鮮は台風10号(ライオンロック)によって、深刻な水害に見舞われた。北朝鮮の人権状況を調査するトーマス・オヘア・キンタナ国連特別報告者は21日、538人が死亡、または行方不明となっており、14万人が支援を必要としているという声明を発表。支援を強化することを呼びかけた。
住民を見殺し
こうした中、韓国政府は23日、「水害に対して人道的支援をすれば、その成果は金正恩党委員長のものとなる」としながら、支援に対して消極的な姿勢を示した。韓国の世論調査でも、回答の半数以上が核実験を理由に「支援すべきでない」という意見だ。
一方、北朝鮮国内からは、災害発生時の当局の不十分な対応をめぐって庶民からの怒りが噴出している。過去の災害や大規模事故と同じく「人災」が隠れていたのである。
(参考記事:北朝鮮、橋崩壊で「500人死亡」現場の地獄絵図)
北朝鮮当局による「予告無しのダムの放流」が、今回の水害被害を拡大させたという見方が強まっている。
両江道(リャンガンド)白岩(ペガム)郡にある「西頭水(ソドゥス)水力発電所」は、急激な雨量増加に排水が間に合わず、ダムの擁壁が崩壊する危険性があったため水門を開いたのだが、これが事前通告もなく夜中に行われたのだ。
(参考記事:北朝鮮、通告無しのダム放流で洪水被害拡大…国境警備隊数百人が死亡)
人道支援はすべき
中国当局は、北朝鮮のダム放流を事前に察知しており、川付近の住民に避難するよう携帯一斉メールを発信した。一方、北朝鮮の人々は、当局から何も知らされないまま、濁流に消えていった。水害で家族を失った遺族女性は、当局に対して激しく抗議するほどだ。
(参考記事:「あんた達のせいで皆死んだ」住民見殺しで金正恩体制の権威失墜)
現在、北朝鮮当局は現地の実態調査を行っているが、行方不明者の捜索や遺体の収容よりも、武器、弾薬、高価なドイツ製の夜間監視設備の捜索に当たらせているとも言われる。また、脱北者が増えることを恐れて、動員された人員を復旧ではなく国境監視に当たらせ、住民に対しては午後9時以降の外出をしないように命じた。
金正恩党委員長が、水害被害の復旧や人命より核実験や当局の都合を優先するのはさもありなんであり、韓国や国際社会が支援に消極的になるのは避けられないだろう。それでも、筆者は人道支援の道を探るべきだと思う。もちろん無条件の支援や与えっぱなしの支援ではなく、きちんと住民に物資が行き届くのかをモニタリングすることが不可欠だ。
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