パルデンの会

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アメリカの危険な“中国幻想”

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集
2016年11月30日

アメリカの危険な“中国幻想”

 元ロサンゼルス・タイムズ紙北京支局長のジェイムス・マンが、10月27日付ニューヨーク・タイムズ紙に、「アメリカの危険な“中国幻想”」との論説を寄せ、中国は経済的に発展、対外貿易も大きくなったが、国内での弾圧は酷くなっている、経済発展が政治の自由化につながるという幻想は持つべきではない、と論じています。論旨、次の通りです。
 1990年代、2000年代初期、米国の財界人や政治家は、貿易、外国投資、繁栄が中国の政治自由化につながるという見解(「中国幻想」)を喧伝してきた。ブッシュ大統領は「中国と自由に貿易せよ。時は我々の味方」と言ったし、前任のクリントン大統領は中国の政治システムの開放はベルリンの壁崩壊同様、不可避であると言った。
 しかしそうはなっていない。最近数年、中国の政権は政治的反対意見にずっと不寛容になっている。米国の指導者も中国の政治的未来や貿易、投資の影響についての主張をしなくなった。「中国幻想」は全く間違っていた。経済発展、貿易、投資はより強い政治的弾圧、閉鎖的政治システムをもたらした。
 新しい中国パラダイムが出てきた。国際化し、同時に弾圧的な一党支配国家である。ロシア、トルコ、エジプトのような権威主義政権に中国は真似すべきモデルを提供している。米国は今後この中国パラダイムと闘争して行くことになるだろう。

 「弾圧」は組織された政治活動についてである。タクシーの運転手など私人は自由に発言する。しかし彼らは中国共産党から独立した組織を作ることはできない。ここ2年、中国政府は独立した政治活動や組織を弾圧してきた。NGO規制は強化され、最近は弁護士が逮捕されている。
なぜそうなっているのか。答えは、政権はそうする必要があるし、そうできるし、外部からそれを抑制する制約がないからである。

 第1:経済が発展し複雑になるに従い、中国市民は通常組織化された政治活動につながるような不平を持つ。環境問題も増える。消費者は製品(例えばミルク)の安全や事故を心配する。
 第2:中国の治安機構は過去よりも政治的反対を弾圧するずっと大きな能力を持つ。技術が街頭やサイバースペースの統制を可能にする。
 第3:中国との商業上の関係の増大は、外国指導者に中国の弾圧について何かをすることを躊躇させる。実際は中国の政権は世界での評判を気にしており、世界の指導者が共同して強い姿勢をとれば、国際的非難を避けようとするだろう。
 1990年代、米国が中国に今より大きい経済的テコを持っていたころ、人権状況が改善されないならば、貿易を制約すると脅そうとした。しかし議論の末、クリントン政権はこの脅しを取り下げた。人権のための強い反応を避ける決定がなされ、その代わりに「変化は不可避」との「中国幻想」が提出された。クリントン江沢民に、中国政治は自由化するとの楽観論に立って、「あなたは歴史の間違った側にいる」といったことがあるが、歴史は米国の考えが間違っていたことを示している。
 将来、我々は弾圧に次ぐ弾圧をする中国に向き合わざるを得ない。我々にできることは、政治的自由の価値と反対する権利を可能な限り力強く表明することである。民主的な諸国の政府は中国の弾圧の非難で協力する必要がある。また弾圧に責任のある個人を特定、処罰する方法を見つけるべきである。中国の指導者が子供を米国の良い学校に入れつつ、国内で弁護士を収監するなど許されない。
 中国の政権は、貿易ゆえに開放的になるということはない。「中国幻想」は概念として失敗であり、戦略上の大失策である。次期大統領は新たなスタートをする必要がある。

この論説は、中国の経済発展は政治の自由化につながるとの考えを幻想として退けたものです。現在の中国の動きはこの論説通りの様相を示しています。経済成長は著しいですが、政治的な弾圧はますますひどくなっています。

 韓国や台湾では経済発展とともに民主化が進むという現象が見られました。経済発展は、経済活動の自由、個人の企業家精神が自由に活動する時に起こる場合が多いものです。統制経済や計画経済は、経済発展の初期段階では有効なことがありますが、経済が複雑化すると、経済的自由、市場経済化が発展のために必要となります。そして、経済的には自由、政治的には不自由というわけにはなかなかいきません。

経済的自由と政治的不自由

 しかし、中国では経済的自由と政治的不自由が共存しています。中国共産党の統治を守り抜くことが国内の安定のために至上命題になっているからではないでしょうか。中国については、経済の発展は民主化につながるというのは幻想であるという主張は、中国の現状を見る限り正しいです。
 なぜそうなのか、それは今後も続くのか、よく考えてみる必要がありますが、この論説の言う「中国幻想」は捨てて、物事を見る方が良い政策選択につながるように思われます。
 最近の6中全会は、習近平を「核心」と位置づけ、権力集中を進めました。集団指導体制とは言われていますが、独裁的な色彩が強くなっています。この論説は、そうした動きもある中、時宜を得た良い問題提起をしています。
 なお、民主的な諸国の政府が中国の弾圧非難で団結することがこの論説の提言ですが、そういうことが中国政府を動かすとは考え難いです。中国が変わるとすれば、中国内部からではないかと思われます。


出典:James Mann,‘America’s Dangerous ‘China Fantasy’’(New York Times, October 27, 2016)
http://www.nytimes.com/2016/10/28/opinion/americas-dangerous-china-fantasy.html