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日本経済新聞 電子版
中国でまたも小さなバブルが起きている。ガラス、石炭、銅などの商品相場だ。2016年秋に価格が急上昇し、年末にピークとなった。昨秋は住宅価格の騰勢が一服し、投機資金が住宅からコモディティーへと矛先を変えた時期といわれる。住宅→株→海外資産→債券→住宅→商品。中国では一つのバブルがはじけると、資金が次の投機対象に移動し新たなバブルを順番につくってきた。あたかもバブルがぐるぐると循環しているかのように。
鄭州商品取引所に上場される板ガラスの先物価格は年明け後、1トンあたり1200元(約2万円)半ばで推移している。昨年同月比で5割ほど高い。昨年10月に1000元台だった価格は11月に1200元台に跳ね上がった。同じように原料炭、鉄筋、銅、亜鉛などの先物商品価格も10月から大幅に上昇している。余剰生産設備の廃棄策で商品の供給が絞られた結果であるとか、住宅販売の好調で建材の需要が増しているからだとかと説明されている。
だが、もっとも説得力をもって聞こえるのはバブルの移動、循環が起きているという説明だ。中国は昨年の夏に住宅価格が急騰し、政府は9月ごろから抑制策を強めてきた。住宅価格は10月ごろにピークを打ち、深圳などでは下落に転じている。商品相場が急騰したのはちょうどそのころからだ。政府の抑制策により住宅バブルは「ここまで」と見切った投資家が新たな投資対象としてコモディティーを選んだという見立てだ。
春 | 習近平指導部が住宅価格抑制策を導入 |
夏 | シャドーバンキング規制を導入 |
11月 | 株の上昇始まる |
4月 | 人民日報が社説で株価上昇を擁護 |
6月 | 上海総合指数が5166を頂点に下落に転じる |
8月 | 制度変更で人民元が急落、海外に資金を移す動きが加速 |
1月 | 人民元が再び急落、海外送金への監視強まる サーキットブレーカー制度の導入で株が逆に急落 |
2月 | 住宅ローンの頭金規制を緩和 |
春 | 住宅、債券に資金が流れ込む |
夏 | 住宅価格が急騰 |
8月 | 上海で住宅取得規制をかいくぐるための偽装離婚がブーム |
秋 | 各都市が住宅価格抑制策を相次ぎ導入 |
10月 | 10年債利回りが過去最低の2.6%台 深圳で住宅価格が前月比で下落に転じる |
11月 | 商品相場が急上昇、各地取引所が手数料引き上げで投機に対抗 |
12月 | 債券取引で不正が発覚 債券価格が下落(利回り上昇) |
中国内では一つの投資対象に資金が集中しすぎ、価格が合理的な水準から乖離(かいり)する局所バブルがたびたび起きてきた。政府当局がそのバブル対策に乗りだし、一つのバブルが崩壊すると、投機資金はすぐさま別の投資対象を見つけ出し、新たなバブルをつくってきた。資金と政府のイタチごっこともいえ、バブル商品が一定期間で移動する循環が起きているともいえる。過去2年間に起きたバブルの循環を振り返ってみたい。
15年はまず株だった。背景には前年までの不動産購入規制の影響で住宅バブルがはじけ、資金が株式市場に移動してきたといわれた。政府も新規上場を後押ししようと積極的に株の購入を呼びかけた。景気減速下にもかかわらず、この年の6月には上海総合指数は年初から6割上昇し、5000台に達した。企業業績とかけ離れた株価は夏にかけて急落し、政府は買い支えに追われることになる。折も折、8月には制度変更により人民元が対ドルで急落した。
これを見た中国内の余剰資金は一斉に国外に向かった。一段の元安が進む前に資金を外国通貨や国外の不動産に変えておこうとしたからだ。こうして年間数千億ドルといわれる資金流出に拍車がかかった。中国政府は元安阻止のために外貨準備を使い、準備高は減少し続けた。その後、政府は企業や個人による海外送金への監視を強め、16年春以降はこのブームもやや落ち着いた。次に資金が向かったのが中国内の債券だった。
10年債の利回りは15年上半期は3.5%前後で推移していたが、資金流入で年末から翌16年初に一気に3%以下の水準まで低下した。ところが12月に不正な信用取引が発覚し、これをきっかけに債券離れが進み、10年債利回りが3.4%に急上昇(価格は急落)してしまった。債券バブルと同時並行で進んでいたのが住宅市場への資金回帰だった。政府は景気対策の一環で購入規制を緩和したが、高騰を招き再び規制に動かざるを得ないはめとなった。
住宅と債券の「バブル崩壊」を受けて商品相場の急上昇が始まったというわけだ。危険を察知した政府は売買手数料の引き上げなどで投機抑制に動いている。すでにガラスなど工業製品は価格上昇の勢いが衰えており、次は農産品の先物の番だという声すら出ている。経済情勢に応じて資金が移動するのは経済的にきわめて自然な動きだが、不思議なのは中国では資金が移動していく先々でバブルとその崩壊を引き起こしてしまうことだ。