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中国、日本のバブル崩壊うらやむ?


中国、日本のバブル崩壊うらやむ?  編集委員 村山宏

2016/10/14 6:30
日本経済新聞 電子版
 どうも中国の景気減速に歯止めがかかったようだ。不動産価格の再上昇で住宅購入者が増え、それが経済全体に波及し始めた。もっとも中国の世論が喜び一辺倒かというと、バブル再燃を憂慮する声は根強い。不動産価格上昇によるコスト増が他産業の成長を圧迫しかねないからだ。日本のバブル崩壊をうらやむ見方すら出ている。
■賃料高騰、外資スーパーの閉店相次ぐ
 景気好転への期待が膨らむなかで北京晩報がこのほど伝えたニュースが目を引いた。「イトーヨーカドー十里堡店が閉店を告知、外資スーパーが相次ぎ閉店」。同店は北京で多店舗展開をしてきたが、赤字店を次々閉鎖している。同業のマレーシアのパークソン(百盛)の閉店も併せて報じ、外資系スーパーの苦戦を伝えている。
 中国の消費は底堅いのになぜ苦戦するのか。スーパーはネット通販やショッピングサイトとの競争にさらされている。自社所有の建物を持たない外資系スーパーは店舗を借りざるを得ない。不動産価格の上昇で賃料が高騰すれば運営コストが膨らむ。自社物件で営業する地元勢や実店舗を持たないネット通販にはかなわない。
村山宏(むらやま・ひろし)。1989年入社、国際アジア部などを経て現職。仕事と留学で上海、香港、台北バンコクに10年間住んだ。アジアの今を政治、経済、社会をオーバーラップさせながら描いている。趣味は欧州古典小説を読むこと。アジアが新鮮に見えてくる
 今回の不動産価格の上昇はもちろん政府が意図したものだ。住宅など不動産価格を抑えるため、様々な規制を敷いていたが、その副作用で景気減速が鮮明となった。不動産価格が下がれば企業の投資は慎重となり、担保割れから金融機関は不良債権が増える。これ以上の景気悪化を食い止めようと、政府は規制を次々に解除してきた。
 そのかいあって不動産、特に住宅価格が今年に入って騰勢を強め、販売量も増えた。住宅が売れれば建材だけでなく家具、家電も売れ、経済全体への好循環になる。もっとも従来なら中国メディアは機敏な政策転換として絶賛するだけだったろうが、今回は不動産価格の再上昇に対して批判的な見方が次から次へと発表されている。
 先に見たように不動産価格の上昇は他の産業へのコスト増となって跳ね返る。ネット企業であってもオフィスは必要であり、自社物件を持たない小企業は賃料の高騰に苦しみ、資金のない若者の起業を難しくしてしまう。かくして企業という企業がまず先に自社物件を持とうと、本業そっちのけで不動産購入に熱中することになる。
 IT(情報技術)産業の業界紙の通信信息報は9月末、「不動産業に資金が吸い込まれるのは産業構造の転換にマイナス」と指摘した。中国は重化学工業を中心とする産業構造からハイテク製造業やサービス産業への転換を目指しているが、資金が不動産に集中しては新産業が金欠に陥りかねない。そんな危機感を示す記事だ。
■「実体経済を守るか、不動産を守るか」
バブル再燃を憂慮する声は根強い(写真は建設が進む北京のビル)=AP
 5月にエコノミストの黄志竜氏が発表した「日本はバブルを自ら破裂させ経済の三大奇跡を生んだ」とするコラムも話題を呼んだ。中国でも日本のバブル崩壊は否定的に見られてきたが、黄氏は肯定的にとらえ直した。バブル崩壊で日本企業の国内から海外への投資シフトが起こり、海外に「もう1つの日本」を作ったと評価した。
 さらに2つ目の奇跡としてバブル崩壊で大量の資金が研究開発に回るようになり、グローバル競争力のある製造業を生み出したとしている。3つ目はバブル崩壊後に日本政府が社会保障に資金を充てるようになり、高齢化社会への備えができたとたたえている。数字の上での経済成長より、経済の中身を充実すべきだという意見だ。
 黄氏の主張を下敷きにネット上では「実体経済を守るべきか不動産を守るべきか。日本は前者を選んだ。我々はどうする」といった議論が盛んに交わされている。バブル崩壊後、20年近いデフレに苦しむ日本からすればこうした形で褒められるのは筋違いにも思えるが、資産インフレに苦しむ中国にはまぶしく見えるのかもしれない。
 この議論を言い換えれば「足元の景気を優先するのか、経済の構造改革を優先するのか」ということになる。習近平国家主席は供給側の構造改革という新たなスローガンを打ち出しており、不動産価格の上昇に頼った従来型景気対策が好ましいはずはない。再び不動産売買に規制がかかり、好景気は長続きしないのかもしれない。