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要注意: 9日の日中個別首脳会談も開催ー 一帯一路問題




産経ニュース

2018.5.722:34

9日の日中韓サミット 対北で連携確認へ 日中、日韓の個別首脳会談も開催


安倍晋三首相、中国の李克強首相、韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領が9日に東京で開く日中韓サミットなどの日程が7日、固まった。約2年半ぶりとなる同サミットは北朝鮮の完全な非核化に向けた具体策や、6月初旬までの開催が見込まれる米朝首脳会談に向けた連携を確認する。李氏、文氏ともに就任後、初の来日となり、日中、日韓首脳会談もそれぞれ9日に行う。
安倍首相は7日の自民党役員会で日中韓サミットに関し「北東アジアとアジア全体の平和と繁栄に向けた協力関係を構築したい」と表明した。同サミットでは、安倍首相が北朝鮮による日本人拉致問題の解決に向けた協力を働きかける方針で、日中韓自由貿易協定(FTA)の早期妥結やスポーツ交流など関係強化についても意見交換する。
9日午前の日中韓サミットに引き続き、同日午後に行われる日韓首脳会談では、2国間の懸案になっている慰安婦問題や徴用工問題を取り上げる予定だ。
日中首脳会談は、今年が日中平和友好条約締結40周年であることを踏まえ、東シナ海での偶発的衝突を防ぐ「海空連絡メカニズム」の運用開始で正式合意する予定。第三国での経済協力や文化、防災など幅広い分野の課題も議論する。
李氏は11日までの滞在中、天皇陛下と会見するほか、札幌市で日本の知事と中国の省長が参加する会合に安倍首相とともに出席。北海道内のトヨタの電気自動車(EV)工場も視察する。

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19分過ぎから「要注意」が説明されます
 
 『本音』を知ってほしい、日本無きでは
 「一帯一路」は動かない。


『よいしょ!』 記事

「一帯一路は中国が世界に提供する公共財だ」

最も重要なのは、正しい「義利観」に則って展開すること
2018年5月7日(月)
李 向陽

2013年に中国の習近平国家主席が提唱した「一帯一路」構想は、海と陸の2つのルートから、アジアから欧州までを結ぶ大胆かつ巨大なプロジェクトです。

中国のイニシアチブによって開発途上国に道路や橋や港湾、鉄道が建設される目的は何でしょうか。これについては中国の過剰生産能力の解消手段として輸出市場を確保する狙いがあるとも言われています。開発途上国にとって、自力では困難なインフラ整備が可能になるという利点がある一方、経常収支の悪化や対外債務拡大というリスクを抱え込む恐れがありそうです。

ただ、そうだとしても、トランプ政権ですっかり内向きになった米国が、関税引き上げで世界の自由貿易体制を脅かしているのとは対照的に、中国の「一帯一路」は開放的なものとして映り、開発途上国にとって抗しがたい魅力を持っているのではないでしょうか。

今回のコラムは、中国社会科学院アジア太平洋・グローバル戦略研究院の李向陽院長による「一帯一路」に関する論考です。これによると、「一帯一路」の目的は、開発途上国における単なるインフラ建設ではなく、大国であることを自覚する中国が、「その価値観と理念を諸外国と共有する」ことにもあるようです。トランプ政権が国際秩序を壊す一方、中国は「一帯一路」によって、着々と新たな国際秩序を構築しつつあるようにも見えます。その中核となる「一帯一路」が、中国側にとってどのようなものなのか。その本質を知るために役立つでしょう。解説を挟みながら、掲載します。

大和総研経済調査部 齋藤尚登主席研究員)


李向陽(リ・シアンヤン)氏

中国社会科学院アジア太平洋・グローバル戦略研究院院長。1962年12月河南省に生まれる。前中国社会科学院世界経済・政治研究所副所長。研究分野は、国際経済学、中国対外関係論。現在、中国南アジア学会会長、中国世界経済学会副会長、中国アジア太平洋学会副会長、中国外交部経済金融諮問委員会委員、中国商務部国際発展合作専門家委員会委員を兼任。

この5年間、「一帯一路」(海と陸のシルクロード経済圏)建設は大きく進展している。しかし、新しい概念としての「一帯一路」とは何か、何をするのか、どのように実施するのか、という最も基本的な問題については、様々な見方が示され、中には誤解もある。
国際社会では、「一帯一路」を中国の戦略的拡張の一つの手段と見做す人が少なくない。例えば、「一帯一路」を「中国版マーシャル・プラン」、開発途上国で展開する「新植民地主義」、中国周辺地域で構築が企図される「新時代の朝貢システム」と見做すことなどである。
こうした見方に対して、我々は「一帯一路」とは、第一に、一種の地域経済協力メカニズムであると認識している。しかし、これは従来型の地域経済協力メカニズムとは一線を画し、発展主導という際立った特徴を有する新しい地域経済協力メカニズムである。第二に、「一帯一路」の目標と位置付けは、中国の一方的な利益に資するものでも、沿線国の一方的な利益に資するものでもなく、中国と沿線国双方の利益が集積するものである。「一帯一路」の展開については、実践の中から模索するほかはないが、その中で最も重要なのは、正しい「義利観」に則って展開することである。
李向陽院長は、「一帯一路」は地域経済協力メカニズムの一種であるが、「発展主導型」であることが新しいと主張しています。これは、既存の国際協力協定等が「ルール主導型」であることと対比しています。
ちなみに、「一帯一路」関連の政策文書には2015年3月に、国家発展改革委員会、外交部、商務部が発表した「シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロードの共同建設推進におけるビジョンと行動」がありますが、これは文字数にして8000文字程度のものです。
また、「義利観」とは聞きなれないかもしれませんが、出典は論語です。李院長は「義」を理念や道義、倫理、「利」を利益、互恵・ウィンウィンといった意味で使っているようです。
1.「一帯一路」とは何か:発展主導型の地域経済協力メカニズム
開かれた国際協力メカニズムとしての「一帯一路」の対象国はどこなのか。これについて中国政府は明確な境界を定めていない。
「一帯一路」の最終目標は、すべての国をカバーするマルチ協力メカニズムの構築であろうが、初期段階においては、一種の地域協力メカニズムであるとみてよいだろう。従来の地域経済協力メカニズムと比べると、「一帯一路」は特殊性を持っている。
従来型のそれを「ルール主導型」と定義すれば、「一帯一路」は、「発展主導型」と定義することができる。このため、我々は現行の地域経済協力メカニズムの分類を「一帯一路」に適用することはできない。「一帯一路」は自由貿易区でもなければ、関税同盟、共同市場、経済共同体などでもない。「一帯一路」の発展の方向性は、具体的に以下の5点を挙げることができる。
第一に、「一帯一路」は古代シルクロードがモデルであろうが、それに限られない。「一帯一路」はオープンであるという特徴を有し、これが従来の地域経済協力メカニズムとは明らかに異なる点である。従来型の多くは開かれていると主張するが、実際には様々なアクセス条件が設けられている。「一帯一路」の開放性は、沿線の開発途上国、とりわけ最も発展が遅れた国々が国際経済協力に参加することを可能にしている。
第二に、インフラ整備による相互連結は「一帯一路」の前提あるいは基礎である。従来の地域経済協力メカニズムでは、通常、インフラ整備による関係国間の相互連結を前提とはしていない。しかし、「一帯一路」沿線国の多くは開発途上国であり、インフラの未整備が経済発展を妨げる大きなボトルネックになっている。インフラ整備をコア事業とする相互連結は、沿線国の経済成長を促すだけでなく、沿線国間の貿易・投資自由化を促進することになる。
各国の事情に合わせて異なる協力方法を採る
第三に、協力メカニズムの多元化は「一帯一路」の突出した特徴である。「一帯一路」の枠組みには、自由貿易区のような協力もあれば、小区域内協力や経済回廊などの協力もある。これは「一帯一路」にしかない特徴であり、そのメリットは、各国の事情に合わせて、異なる協力メカニズムを構築できるところにある。言い換えれば、沿線国の経済発展とウィンウィンという目標の達成を促進するのであれば、どのような協力メカニズムでも選択肢となりうるということである。これは、「白い猫であれ、黒い猫であれ、ネズミを捕ればよい猫だ」という(鄧小平氏の)理念と一致する。
第四に、「義利観」は「一帯一路」の中核的な理念である。「義利観」は中国儒教が掲げた治国の理念であり、孔子をはじめ、歴代の儒教先哲は、「利」よりも「義」を優先すべきとの基本理念を強調してきた。中国の指導者は儒教文化の「義利観」を継承・発展させ、国際交流に応用し、中国の特色ある経済外交の理念としてきた。「一帯一路」の建設にあたり、正しい「義利観」に則ることは、中国が平和的な台頭を実現するために担う大国の責任を体現している。
第五に、責任共同体、利益共同体を土台とする運命共同体の構築が、「一帯一路」の目指すところである。従来の地域経済協力メカニズムは、貿易と投資の自由化をその中核的な目標としている。これに対して、中国が掲げる運命共同体という目標は、その内包するものも外延するものも従来のものを遥かに超越している。「一帯一路」における「五通」を例にとると、インフラの連結や貿易円滑化、資金の流れの強化にとどまらず、経済分野以外を含む政策協調や国民の心を互いに通い合わせることにも言及している。
以上を踏まえ、「一帯一路」に次のような定義付けを試みたい。すなわち、「一帯一路」とは、古代シルクロードを原型とし、インフラによる相互連結を基礎とし、多元的協力メカニズムと「義利観」を特徴とし、運命共同体の構築を目標とする発展主導型の地域経済協力メカニズムである。
李院長は「一帯一路」について、学界でも定義が定まっていないと言います。キーワードは、古代シルクロード、開放性、インフラによる相互連結、多元性、義利観、運命共同体、発展主導型の地域経済協力メカニズムです。
「一帯一路」は中国を起点としていますから、その範囲を示す地図に日本は含まれていません。ただし、李院長は今回とは別のインタビューで、「日本が『一帯一路』に参加することは個人的には大いに賛成」としていました。
次に、「白い猫であれ、黒い猫であれ、ネズミを捕ればよい猫だ」は、鄧小平氏の有名な「白猫黒猫論」です。これは1962年7月に共産主義青年団に対して語った言葉とされ、物事に捉われず、臨機応変に対応し、結果を残すことが重要、といった意味です。
最後に、運命共同体は、習近平国家主席の「人類運命共同体」が意識されています。習近平氏は、「平等な扱いを受け合い、互いに話し合い、互いに理解を示し合うパートナー関係を築くことが、運命共同体を実践する主要な方法。公正・公平で、共に建設し、共に享受する安全な構造を築くことが、運命共同体を築く上での重要な保障。また、オープンでイノベーションを重視し、包容的で互恵を満たす発展を追求することが運命共同体の基本原則」としています。
2.「一帯一路」で何をするのか:中国と沿線国の相互利益の探求
「一帯一路」は、東洋文化の色彩が濃いものであるが、中国一国の利益追求だけを反映しているものではない。習近平国家主席が喩えた通り、「一帯一路」は、中国一国の独奏曲ではなく、国際社会の協奏曲である。従って、「一帯一路」の目標と位置付けについて議論する場合、中国と沿線国の相互利益を探求するという基本原則を忘れてはならない。相互利益を求めることこそが「一帯一路」の目標である。
第一に、「一帯一路」は中国の全方位対外開放の新たな措置である。
過去40年間の中国の対外開放は、4つの段階に分けられる。①1978~1992年の第1段階は、全面的だが無秩序な開放であった。②第2段階は、1992年に行われた鄧小平氏の「南巡講話」をスタートラインとする。目標はWTO加盟であり、WTOの定めたルールに従い開放を推進した。③中国は2001年にWTOへの正式加盟を果たし、この年から第3段階の開放が始まった。この段階の主要な目標は、WTO加盟の事前承諾事項を履行することであった。④2011年にWTO加盟の事前承諾事項の履行が完了し、2012年の第18回党大会の開催が、開放の第4段階の始まりとなった。
開放の第4段階の時期に、主要先進国の対外政策のトレンドは、多国間主義から地域主義へと転換した。さらに、トランプ政権発足をきっかけに、アメリカは地域主義から単独主義へと傾いた。中国国内では、東・南部沿岸地域と中・西部内陸地域との間の開放レベルの格差が、地域発展の不均衡の最大の要因となっていた。そこで、新しいラウンドの全方位的対外開放政策として「一帯一路」が打ち出されたのである。
「一帯一路」は中国の必然的な選択であり、同時に沿線国の利益追求とも合致するものである。中国の開放レベルが高くなるほど、沿線国にもたらされるチャンスも大きくなる。
第二に、「一帯一路」は、新時代に入った中国の周辺外交戦略の重要な拠り所である。
長期にわたり安定的かつ良好な周辺環境を創造することが、中国の周辺外交戦略の目標である。過去20年余り、中国と周辺国との貿易・経済関係はますます緊密になり、中国は多くの周辺国にとって最大の貿易相手国、最大の輸出国、さらには貿易黒字と外資の源泉国となっている。
しかしながら、率直に言えば、経済関係は日々緊密化しているものの、周辺国の中国の平和的台頭に対する認知は、これと歩みを同じくして高まっているわけではない。「近いが親しくない」というのが、中国と周辺国の間の一種の気まずい関係を表している。
2013年に中国指導部が開催した周辺外交活動座談会において、習近平国家主席が提出した「親・誠・恵・容」が、周辺外交戦略の新しい理念となった。この理念を実践するために、新たなプラットフォームの構築が必要とされ、この機運に乗じて「一帯一路」構想が誕生したのである。
「一帯一路」の第1段階で建設する6つの経済回廊のうち、5つは周辺国を対象としている。それは、①中国・モンゴル・ロシア経済回廊、②中国-インドシナ半島経済回廊、③バングラデシュ・中国・インド・ミャンマー経済回廊、④中国・パキスタン経済回廊、⑤中国-中央アジア西アジア経済回廊である。「親・誠・恵・容」理念に基づく安定的かつ良好な周辺環境の構築は、とりもなおさず周辺国の利益にもなるのである。
第三に、「一帯一路」は中国が推進する経済外交のプラットフォームである。
経済外交は新しい概念ではないが、近年になって、ようやく中国の対外政策の一環とされるようになった。経済外交とは、簡潔に言えば、経済のための外交、あるいは外交のための経済であり、最終的に中国の平和的台頭と(中華)民族の復興に寄与する必要がある。
習近平国家主席は、多くの場面で経済外交の重要性を強調してきた。これは長年にわたり、経済のための外交のみが強調されてきたのと比べると、重大な変化である。「一帯一路」の枠組みの下、「親・誠・恵・容」理念であれ、運命共同体、「義利観」であれ、いずれも経済外交の要請に応じるものである。「一帯一路」は、経済と外交を有機的に結合させるプラットフォームであり、これは沿線国、特に開発途上国に歓迎されるはずである。
第四に、「一帯一路」は、グローバルな貿易と投資の自由化を促す新しい手段・方法である。

地域経済協力メカニズムの存在の意義は、多国間貿易メカニズムを促進できるか否かにかかっている。国際貿易論の第一人者であるアメリカの経済学者ジャグディーシュ・バグワティコロンビア大学教授の言葉を借りると、後者にとって、前者はその礎にも、障壁にもなる可能性がある。

礎となるか、障壁となるかは、地域経済協力メカニズムが真に開かれているかどうかが鍵となる。中国が提唱する「一帯一路」は、従来のどの地域経済協力メカニズムよりも開放的であり、西側諸国において、反グローバリゼーションが日増しに高まっている中、「一帯一路」が内包する公共財としての特性はいっそう際立つのである。
ここでは、「一帯一路」と中国の外交政策について論じています。「一帯一路」は、(1)中国の全方位対外開放の新たな措置、(2)新時代に入った中国の周辺外交戦略の重要な拠り所、(3)中国が推進する経済外交のプラットフォーム、(4)グローバルな貿易と投資の自由化を促す新しい手段・方法、との見方が示されました。
(1)では主要先進国外交政策が、多国間主義→地域主義→(米国は)単独主義へと傾く中で、「一帯一路」が打ち出されたことの重要性が強調されます。さらに、中国国内ではこれまでの対外開放が東部と南部の沿海地域に集中し、中部と西部が相対的に出遅れていたことの反省が、「一帯一路」の出発点の一つであることが示されました。鄧小平氏が主導した東部・南部を中心とする改革・開放の段階から、習近平氏が主導する新しい時代に移行するキーワードの一つとして、中部・西部を中心とする「一帯一路」が位置付けられているのです。
(2)では「親・誠・恵・容」という習近平国家主席の外交理念が示されました。日本語では「親しい、誠実、恵みを与える、包容力を持つ」ということになります。
(3)の経済外交では、従来の経済のための外交のみならず、外交のための経済という考え方が示されました。「一帯一路」では、大国であることを自覚する中国が、その価値観と理念を諸外国と共有しようとしているように見えます。もちろん、双方がこれを望むのであれば良いのでしょうが、そうでない場合、例えば、外交が経済によって人質に取られるような懸念はないのでしょうか。こうした懸念はありつつも、(4)で改めて示された「開放性」は開発途上国にとって抗し難い魅力を持っているのかもしれません。
3.「一帯一路」構想はいかに展開されるのか:正しい「義利観」に則る。
繰り返しになるが、「一帯一路」建設における最も重要な原則は、正しい「義利観」に則ることである。
「義利観」と「一帯一路」の関係については、様々に議論されているが、学術界に定説はまだない。例えば、①「義」を優先した上で、「義」と「利」を両立させる。②他国に多くの「利」を与え、自国は「利」を少なく取る、あるいは与えるだけで取らない。③先に他国に「利」を与え、後で自国が「利」を取る。その際に長期目標に重きを置く。④ミクロ的には、投資した企業が投資収益を受け取り、マクロ的には、国家の名声、レピュテーションの向上を確保する、などである。
要するに、「義」は中国が「一帯一路」を推し進める核心的な目標であり、「利」は「一帯一路」が持続的に発展していくための必要条件である。「義」がなければ、「一帯一路」の存在価値が失われ、「利」がなければ、「一帯一路」は単なる対外援助プロジェクトになってしまう。理論的には、正しい「義利観」に則るには、以下の問題をうまく解決する必要がある。
第一に、政府と市場との関係、政府と企業との関係を調和させることである。政府が求める目標は「義」であるのに対し、企業の主な目標は「利」である。政府の「一帯一路」建設への関与は非常に重要であり、特に初期段階においては、政府の関与がなければ、「一帯一路」は絵空事であったであろう。政府は市場を基礎に企業の参加を呼び込み、国家の戦略目標に寄与させる必要がある。
沿線国と共に模索していく
第二に、中国と沿線国との利益分配をうまく調和させることである。西側諸国が持つ経済外交理念と比べ、「義利観」は中国の特色ある経済外交理念である。なぜなら、「義利観」はウィンウィンがゼロサムゲームに取って替わり、義と利の結合がアメとムチに取って替わるためである。もちろん、国際協力の中で、どのようにして「義利観」を以て国家間の利益分配を行うのかは、今後の探索が待たれる重要な理論と実践の問題である。
第三に、正のスピルオーバー効果あるいは外部経済効果を有する協力メカニズムとプラットフォームを構築することである。経済学では、異なる国、異なる企業の協力では、外部経済効果が発生する可能性も、外部不経済効果が発生する可能性もある。当然のことながら外部経済効果を有する協力メカニズムとプラットフォームだけが、「義利観」の目標を達成することができる。
実際、中国は「一帯一路」沿線国とともに、経済回廊やグリーン・シルクロードなどのプラットフォームを通じて、正の外部経済効果を有する協力メカニズムの構築を模索している。
総じていえば、「一帯一路」のガバナンスや建設の道筋について、参考になる既存のモデルはない。このため、中国と沿線国は「共商(共に議論する)・共建(共に建設する)・共享(共に享受する)」という原則に基づいて模索していく必要がある。
最後は、「義」と「利」の関係について論じています。李院長は別のインタビューで、「義」と「利」の両立が難しい場合は、「『義』を優先させる。ただし、民間企業が『義』を優先させるのはあくまで一時的な話である。仮に国家の要請等により、企業利益が長期的に損なわれる場合は、国家による補償がなされる必要も考えられる」としていました。
さらに、「一帯一路」が直面する問題点について、李院長は「①第一段階は国有企業が主体のインフラ建設がメインであり、資金調達に大きな問題はなかった。第二段階では民間企業が主体の個別ビジネスがメインとなるが、民間企業の資金調達や投資回収には高いハードルがある、②多くの沿線国は「一帯一路」を中国による対外支援と捉え、「待つ」、「頼る」、「求める」という傾向が強い、③日本や米国は「一帯一路」を中国版マーシャル・プランなどと捉え、警戒感が強い」ことを挙げていました。
①と②に関連して、一部の沿線国ではアジア開発銀行などの貸付限度額を超過している国もあるほか、返済が難しい場合は、例えば鉱山の利権などで支払うケースもあります。「義利観」と「一帯一路」の関係について学術界で定説はまだない、とのことですが、沿線国の不安ならびに日米欧の主要先進国からの懸念にどう応えるのか、「一帯一路」の実践が注目されるところです。
このコラムについて

中国の最高国家行政機関である国務院、その直属の研究機関が「中国社会科学院(Chinese Academy of SocialSciences=CASS)」です。1977年に設立された、哲学、社会科学研究の分野で中国でもっとも権威のある学術機構であり、学位を授与する機能も持ちます。傘下の研究所は39、研究センターが100以上、所属する研究者は4000人。中国の「五カ年計画」策定の基本作業もここが参加しているのです。

本連載では、この中国政府のブレーンとして機能しているシンクタンクのトップ研究者が、いま、自らの国についてどう考えているかを、寄稿を翻訳する形で紹介していきます。原文のニュアンスをできる限り維持するため、意訳は最小限に留め、研究者や日本人には理解しにくい箇所については、適宜、本文と分けて注釈を入れる形とします。内容については、注釈の囲みをざっと見ていただくだけでも掴めるよう、配慮したいと思っております。(大和総研 主席研究員 小林卓典)

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