政府が本腰を上げねば・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
しかし 議員、高級役人 本当に 日本人か????????
2017年9月には、同じく米国西部カリフォルニア州サンフランシスコの中華街で、慰安婦像が市民団体によって設置され、11月には、市長が像を市として正式に受け入れるという市議会の決議案に署名した。この動きに対し、姉妹都市である大阪市は、60年間続いたサンフランシスコとの姉妹都市関係を解消した。この像は、中国系米国人団体である「慰安婦正義連合」が主導し、韓国系団体と協力したとされている。
中韓によるPD攻勢に対して日本は?
このように、米国をはじめ、海外における慰安婦像・碑の設置活動は、現地の韓国系米国人が中心となり、一部では中国系も共闘する形で活発に行われている。こうした動きに危機感を抱いた日本は、安倍政権のもと、「戦略的対外発信」つまり「パブリック・ディプロマシー(以下、PD)」に重点を置き、予算を大幅に増額して日本の「正しい姿」の普及活動などを行っている。外務省のPD関連予算は、2015年度に、従来予算から500億円も増額された。以降も、増加傾向にあり、2018年度の予算は810億円にもおよぶ。
世界的にPDの主戦場といわれるのが米国である。米国では、中国や韓国の反日的なPDが目立ち、とりわけ近年では、慰安婦問題を含めた歴史認識をめぐる問題で、日本側が劣勢に立たされるような事態を招く状況が作られつつあった。
具体的には、上述の全米各地での慰安婦像・碑の設置活動をはじめ、2007年の米国下院の慰安婦決議案の採択や、米国内の公立高校で使用されている大手教育出版社「マグロウヒル」の世界史教科書における、旧日本軍が慰安婦を強制連行したとする記述、また、同社の教科書の一部の地図上での「日本海(東海)」という韓国側が主張する呼称の併記、といった状況が挙げられる。
このような歴史認識をめぐる動きは、日本にとって許容できるものではない。国際社会における日本のプレゼンスや評価に悪影響を及ぼし、せっかくのPD戦略にも不利に働いてしまうからだ。特に、同盟国米国において、日本のプレゼンスが後退したり、他国からの宣伝攻勢によって日本が劣勢に立たされたりすることで、同盟関係に影響を及ぼすような事態となることは、外交や安全保障の観点からも避けなくてはならない。
では、これまで日本は、こうした他国によるこうしたPD攻勢に対し、効果的にPDを展開できていたのだろうか。主に米国における中国や韓国の動きを中心に紹介しながら考えてみたい。
韓国PDの数々の「成果」、中韓の連携も
まず、中国と韓国の動きをもう少し具体的に見ていこう。米国では、中国や韓国がいわゆる反日的PDを活発に行ってきた。中国のPDに関しては、中国系ロビー団体である「世界抗日戦争史実維護連合会(以下、抗日連合会)」が最も影響力を持ち、カリフォルニア州を拠点に反日宣伝活動を行っているといわれる。2015年9月には、同州サンフランシスコの観光名所である中華街において、日中戦争での対日抗戦を顕彰する「海外抗日戦争記念館」をオープンさせた。この年は、戦後70年であった。抗日連合会は、抗日戦争記念館のオープンが世界的にもインパクトのあるものとするため、このタイミングでオープンさせたのだと考えられる。
この抗日連合会は、中国の共産党や政府などと緊密な関係を持っているといわれている。結成当時のメンバーの幹部は、中国との結びつきの強い中国系米国人であるとされており、これは現在の幹部も同様であると考えられる。
また、韓国のPDに関しても、米国在住の韓国系米国人の動きが活発であるが、こちらはかなりの「成果」を生み出している。例えば、2014年3月に米国ヴァージニア州議会で、同州の学校で使用開始となる教科書に「日本海」という名称に加え、韓国が主張する「東海」という名称の併記を求める法案が可決された。こうした、教科書への「東海」の記載を求める法案は、ニューヨーク州やニュージャージー州でも飛び火するかのように提出されていた。
さらに、慰安婦碑・像の全米における設置活動も活発に行われている。韓国系団体によって、2018年7月までに全米で計12か所に慰安婦像・碑が設置されているのだ。2010年にニュージャージー州のパリセイズパークに最初の慰安婦碑が設置されたのを皮切りに、米国東部を中心に慰安婦碑の設置の動きが活発になり、2013年には、ついに西部にもこの活動が拡大した。カリフォルニア州のグレンデールで初の慰安婦像が設置されたのである。それ以降も、ニューヨーク州、ヴァージニア州、ミシガン州などで、慰安婦像・碑の設置が続いており、止どまるところを知らない。日韓両政府が慰安婦問題の最終的解決で合意した2015年12月以降も、慰安婦像・碑がカリフォルニア州やニューヨーク州など、4か所で設置されている。
劣勢に立たされる日本
こうした中韓両国の働きかけが功を奏したのかどうかは断定できないが、米国内の報道にも日本批判が見られるようになった。例えばニューヨーク・タイムズなどは、社説で安倍首相を「右翼でナショナリスト(a right-wing nationalist)」と呼び、その政策を批判的に論じたことがある。2013年1月2日付の同紙の社説において、「安倍首相は性奴隷の問題をふくむ第二次世界大戦の時代の日本の侵略の歴史と謝罪を書き換えようとする、極めて深刻な間違いを犯そうとしている。また右翼でナショナリストの安倍は、1995年に植民地支配と侵略について謝罪した村山談話を新たな未来志向の談話に置き換えたいと述べている」と、極めて厳しい表現で安倍首相批判を行ったのだ。
さらにこうした安倍批判が最も激しくなったのは、2013年12月安倍首相が靖国神社参拝を行った時であった。中国や韓国の厳しい批判に加え、米政府までもが「失望した」と公式に表明した。こうした表明は、近隣諸国との関係を悪化させるとの懸念から出たものとされたが、安倍首相がモーニング姿で靖国神社を参拝する写真映像は、世界に大きな衝撃を与え、「ナショナリスト安倍」のイメージを鮮明に映し出したといえよう。
さらに、日本の立場が国際的に難しい状況に直面する事態も起きた。一つ目は、日本政府が「クマラスワミ報告書」に対して行った一部撤回要求である。1996年の国連人権委員会の「クマラスワミ報告書」は、第二次世界大戦期の慰安婦を「性奴隷」と結論づけており、日本政府は同報告書を作成した弁護士であるラディカ・クマラスワミ氏に、政府として部分的撤回を求めていたが、2014年10月に同氏が拒否した。
二つ目は、2015年1月、日本政府から米国の大手出版会社マグロウヒルに対して行った抗議である。同社が発刊した米国の公立高校向け世界史教科書に、「第二次世界大戦中に日本軍が約20万人の14から20歳の女性を連行し、慰安婦として徴用した」という記述があり、これに対し日本政府は総領事館を通じ同社に訂正を求めたのだった。日本の主張に対しマグロウヒル社は、「慰安婦の歴史事実について学者の意見は一致しており、修正要求を受け入れない」と表明した。また、米政府も「学問の自由を強く支持する」と述べたと現地メディアが報じたのである。
このように、中国や韓国の対米PDは、政治、教育、文化、宣伝など、幅広い分野に浸透し、日本が劣勢に立たされる事態が作り上げられていったのだ。
中国の主目的は「日米離反」
こうした中国や韓国の対米PDの戦略目的は一体何だろうか。中国の対米PDについては、主目的は「日米同盟の弱体化」であり、「そのための日米離反策として歴史問題を使い、米国側に日本不信を広める」ことにあるといわれている。
一方、韓国の対米PDについては、反日的PDを繰り広げていても、それは一部の活動家によるものであり、中国のように国家戦略として日米離反を意図しているわけではないと考えられる。
つまり、日本にとっては、米国での歴史認識をめぐる問題を考える際、必ず中国の存在を念頭におく必要があるのだ。慰安婦像・碑活動でも韓国系団体のバックには中国系団体が存在し、中国の外交目標として「日米離反」が画策されてきた。また尖閣諸島問題でも、中国は「史実」に基づき、中国固有の領土であるとし、自国の主張を一歩も譲ろうとしない。
安倍政権はこうした中韓両国の活動、とりわけ米国における中国や韓国系米国人が現地で持つ影響力に危機感を持ち、PD強化策を打ち出してきたのである。安倍首相は2012年末の自民党総裁選への出馬当初から、尖閣諸島問題を念頭に、領土や主権に関する国内外に対する普及・啓発・広報活動の重要性を訴え、また、慰安婦問題に関する河野談話の見直しを主張し、国際社会に日本の正当性を主張する姿勢を示していた。
「反論」する日本の働きかけは逆効果に
このように、安倍政権のPD取り組み姿勢は、米国を舞台に進行していた中国や韓国の反日的PDに対する批判や反論を主体としたものだった。第二次安倍政権の発足当初から2015年初めまでの対応を具体的に見ていくと、日本の歴史修正主義が問題だといった批判や宣伝に対し、日本は、歴史問題での韓国側などの主張に対する「訂正」や「撤回」を求める形での発信や、「反論」が主体であり、かつ、その「反論」などが政府機関である大使館や総領事館が前面に出る形で行われていた。
PD本来の目的が「相手国の国民に働きかけ、自国の政策について理解を得ること、あるいは支持を得ること」にあるとすれば、こうした日本の働きかけは逆効果となることが多かった。日本は、第二次世界大戦での行いを正当化し、謝罪を撤回しようとしているのではないかといった反応も米国社会から噴出し、米国政府までもが日本の主張に疑問を投げかけるといった結果に終わってしまっていた。
ニューヨーク・タイムズなど米主要メディアの当時の報道でも、日本の対外発信が効果を発揮したといえるものはほとんどなく、日本に厳しい報道がなされることさえあった。結果的に、米国において日本のイメージを悪化させる事態となることもあったのだった。
好転した日本のPD環境
しかし、2015年度に入り、状況に変化が見え始めた。安倍政権が、歴史問題についてポジティブなメッセージの発信に努め、また、米国国内で米国人など第三者による発信を行うなどの工夫を凝らし始めるなど、PDの新戦略に乗り出したからだ。また、実際の政策も、PDで掲げた取り組み内容に相反することなく同時進行で実施された。具体的には、2015年度以降は安倍首相による靖国神社参拝は行われず、戦後70周年談話でも「植民地支配」、「侵略」、「お詫び」、「反省」といったキーワードを散りばめるなど、比較的穏当なものとなっていた。
このように展開された日本の新PD戦略は一定の効果を生み出し、2017年の戦後70年目となっても、米国からのネガティブな反応は少なく、米国メディアでも「歴史修正主義」や「ナショナリスト安倍」といった批判は姿を消していった。
また、米国における日本のPDをめぐる環境にも変化が見られた。韓国政府が慰安婦問題などで執拗に日本批判を続けたため、米国政府のなかで韓国への疲弊感(「韓国疲れ(Korea Fatigue)」)が高まってきたのだ。韓国疲れとは、韓国が歴史問題を取り上げて執拗に日本を批判するばかりで、第二次安倍政権と韓国の朴槿恵政権(当時)誕生後、首脳会談が約3年半開かれず、また、韓国政府が日本との「軍事情報包括保護協定(GSOMIA)」の締結を長年拒否していたことなどからくるものであった。
また、2018年4月には、韓国系米国人住民らが、米政府の公式文書や地図などで「東海」併記を求める請願書を提出していたのに対し、ホワイトハウスがこれを却下した。
こうした韓国側のいわば「オウンゴール」が、日本のPDの追い風となった可能性もある。
日米間に認識のギャップも
しかし、一見、順調に見える日本の新PD戦略だが、依然、日米間に認識のギャップも見受けられる。
2017年のサンフランシスコにおける慰安婦像設置と、その後の大阪市との姉妹都市関係見直しまでの一連の流れは、日本国内では大きなニュースとなったが、一方で、米国内でこの事態を知っている人は少なく、現地の反応も薄いとされている。ワシントン・ポストは、この事態を「なぜ日本が植民地時代の『慰安婦』像の論争で敗れ続けているのか」といった見出しで取り上げ、日本政府や国民がこの問題に執着しすぎており、それが逆に活動家にやり甲斐を与えている、とする専門家の見解を紹介した。歴史問題について日本を非難する中国や韓国のPDに対して、日本は強く反応し、一方の米国は静観している、といった日米の認識のギャップが浮き彫りとなった出来事だともいえよう。
不断の努力と中長期的観測が欠かせない
21世紀の今日、政府が情報を独占できる時代ではなく、PDを取り巻く環境は大きく変化している。こうした時代にあっては、PDは、政府から対象国の世論への一方通行の働きかけだけでは期待した効果が得られないだろう。相手の考え方やニーズを理解し、双方向のコミュニケーションを図りながら、働き掛けを強化していくことが重要になってきている。
また、歴史認識をめぐる問題についての発信は、慎重に行わなくてはならない。なぜなら、最近では、米国はもちろん、世界的に女性の権利擁護の意識が高くなってきており、とりわけ女性への性犯罪は厳しく断罪されている。これに関連して、慰安婦問題が、今日的な人権や女性の権利の問題として受け止められる傾向があり、実際に日米間で認識に乖離が見られる事態となっている。
こうしたなかで、自国の主張や取り組みが他国よりも「正しく」、他国の主張が「間違っている」といった形式の発信は時代の流れにも逆行し、マイナスの結果を招くことになりかねない。歴史問題について発信する際には、今日的な意味合いを十分に勘案し、スマートに対応していく必要がある。
また、特に同盟国米国に対しては、通商や安全保障のような政策に直結する分野において、一般世論のみならず、有識者に対する働きかけに力を入れていくのも有効な取り組みであろう。例えば、PDの担い手として日米のシンクタンクが連携し、米国の有識者や大学などを巻き込んで、人的交流や共同研究を行うといったことが考えられる。
PDが効果を発揮するまでには、不断の努力と中長期的観測が欠かせない。今後、特に米国における効果を検討するにあたっては、米国世論の動向や、主要メディアの取り上げ方、さらにシンクタンクの研究などにおける日米同盟や安倍政権に対する研究量や見解を細かく分析していく必要がある。
2018年度のPDには、810億円もの予算がついた。PDを積極的に展開するという日本政府の意志に変わりはない。そうであればこそ、PDの対象国を取り巻く政治、経済、外交などといった環境の変化を敏感に受け止め、それらを日本のPDにプラスに転換させ、より効果的にPDを展開する必要があるのだ。
次の機会では、日本のPDにとって最大のライバルともいえる中国の対米PD現状を、より詳しく見ていくこととしたい。