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「みんな北朝鮮産だよ」 緩む制裁、中朝境界ルポ


「みんな北朝鮮産だよ」 緩む制裁、中朝境界ルポ 

北朝鮮
 
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朝鮮半島
2018/12/6 5:50
日本経済新聞 電子版
【丹東=原島大介】中国と北朝鮮の境界地域で中朝間の交易が活発になっている。北朝鮮側で進むマンションやビルの建設工事に中国から資材が運び込まれる一方、国連制裁決議で禁輸対象となった海産物が中国に流入するなど、取り締まりは緩むばかりだ。北朝鮮への影響力を強めたい中国と、経済建設を推し進めたい北朝鮮。中朝境界の街から見えてくるのは、米国など国際社会の目をかいくぐり関係修復に動く中朝の姿だ。
中朝友誼橋(左)付近には、新たに円柱状の建物の建設が進む(奥が北朝鮮)
中朝友誼橋(左)付近には、新たに円柱状の建物の建設が進む(奥が北朝鮮
■ホテルやマンションが建つ
中朝交易全体の約7割を占める玄関口、遼寧省丹東。11月末、川を隔てた北朝鮮側の新義州で、円柱状の建物の工事が急ピッチで進んでいた。この建物は中朝を陸路で結ぶ「中朝友誼(ゆうぎ)橋」にほど近く、周囲には遊園地や観光施設が点在する。地元では「訪朝中国人客を当て込んだホテル」との見方が有力だ。
友誼橋から南に10キロ離れた「新鴨緑江大橋(新橋)」。未開通だが、老朽化が進む友誼橋に代わる新たな大動脈と期待される。こちらでも北朝鮮側の橋のたもとに、マンションらしき建物が目立って増えていた。
橋に並ぶトラックの列も頻繁に見られるようになった(奥が中国)
橋に並ぶトラックの列も頻繁に見られるようになった(奥が中国)
丹東の住宅資材メーカー幹部によると、11月以降、中国から床や壁用の合板やエレベーターを運ぶトラックの往来が急増したという。「(2017年の)国連制裁決議後、ほぼ見なかった橋の『渋滞』が起きるようになった」
■中国の支援、見え隠れ
北朝鮮金正恩キム・ジョンウン)委員長は中国や韓国との関係改善を受けて、経済重視の姿勢を打ち出している。なかでも新義州は中国との貿易拡大による発展が見込めるため、金委員長は今夏に現地の化粧品や紡績の工場を相次いで視察した。こうした動きに呼応するように、周辺開発にも力を注いでいるようだ。
一方、北朝鮮は度重なる核実験などから国際的な制裁を受けており、自力で経済を立て直すのは難しい。新義州が活気づく背後に見え隠れするのが、北朝鮮の貿易総額の9割を握る中国が側面支援する構図だ。
袋内の貝はすべて「北朝鮮産」という(遼寧省丹東)
袋内の貝はすべて「北朝鮮産」という(遼寧省丹東)
「ほら、見てごらん。これはみんな北朝鮮産だよ」。黄海に面する「東港黄海水産品市場」。中に入ると、中年女性がハマグリを網から取りだし、大きさごとに仕分けする作業をしていた。この女性によると、北朝鮮産のハマグリは貝の表面が黒く、中国産は黄色いため、識別しやすいそうだ。
複数の水産卸業者によると、ハマグリやカニなどの海産物は制裁直後は取り締まりが厳しくなったが、今春以降、黄海上での密輸が復活した。この市場に入った北朝鮮産の水産物は、加工や箱詰めの過程で「中国産」に偽装しているという。実際、市内のレストランで注文したハマグリは、すべて表面が黒かった。
国連制裁では北朝鮮労働者の受け入れも規制の対象だ。だが丹東郊外の服飾工場では、北朝鮮の女性工員が多数見られた。高級ホテルでは、貿易商とみられる北朝鮮人が宿泊する様子を確認した。いずれも制裁直後はなかった光景だ。彼らは労働ビザではなく、短期の滞在ビザで出入りを繰り返しているもようだ。
■「北朝鮮の技術と思えない」
北の「経済建設」にも中国の姿がちらつく。丹東の建材会社幹部は友誼橋付近の建物について「建物を円形にする技術が北朝鮮にあるとは思えない」と指摘、中国が技術協力したとみる。地元では「新橋と最寄りの北朝鮮の街を結ぶ道路の建設に向けて、中国の調査団が入った」との情報も流れる。
国連制裁が決議された当初こそ中国は国際社会と協調し、密輸の取り締まりや北朝鮮労働者へのビザ発行を厳格にした。だが金委員長は3月に電撃訪中したのを皮切りに、今年は合計3回も中国を訪れた。習近平(シー・ジンピン)国家主席も2019年に訪朝するとの見方も出る。中朝の関係改善が進むほど、水際の取り締まりは緩んでいった。
米国を中心とする国際社会は「中国が対北朝鮮制裁の抜け穴になっている」と批判を強める。中国の統計上は北朝鮮との交易額は18年1~10月で前年同期比56%減少した。それでも中朝境界の街に制裁の影はすっかり消えうせてしまった。