2019.04.25
4月21日にスリランカで発生した連続爆破テロに対し、各国から哀悼の意とテロ撲滅の声が上がる中、中国の新聞が理解に苦しむ社説を掲載しました。台湾出身の評論家・黄文雄さんはその内容について「テロをウイグル族弾圧の正当化に利用している」と批判。さらに習近平政権がウイグル族やチベット人に対して行っている非道な扱いを、メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』で明らかにするとともに、中国がそのような行為に走らざるを得ない理由を記しています。
● 社評:斯里蘭卡惨烈恐襲再拉极端主義警報
4月21日、スリランカのコロンボなど3都市のキリスト教会など8施設で爆破テロが起こり、現時点で290人もの死者を出す大惨事となりました。日本人も1人の方がお亡くなりになったことが発表されています。
今年3月にはニュージーランドのクライストチャーチで、イスラム教礼拝所であるモスクが反イスラム主義のオーストラリア人に襲撃されて100人以上の死傷者が出る事件が発生しており、「イスラム国」が報復を呼びかけるメッセージを出していることから、犯人はイスラム過激派が濃厚とされています。
この事件を受け、人民日報系の「環球時報」はさっそく、中国がいかに宗教的な過激主義の押さえ込みに成功しているかということを、社説で強調しました。
社説では、欧米諸国は西洋での宗教的過激主義には警戒するものの、一部の途上国における宗教的過激主義への厳しい対応について「自由」「民主主義」を持ち出して批判しており、混沌とした状況をもたらしていると批判しています。
ここ数年、中国におけるウイグル族への弾圧が国際社会で問題視されていますが、そのことを暗に指して、自分たちの行為を正当化しようとしているわけです。
「中国はここ数年、宗教的過激主義の国内への影響を排除してきた。これまでに中国の一部の過激分子は、中央アジアや西アジアでイスラム国建設に加わったりしたこともあったが、中国当局の厳格な統制によって、海外から宗教的過激主義が侵入することを防いできた」
と胸を張り、さらには「中国ではテロ活動が大幅に抑制されている。西側諸国が何を言おうと、その事実が雄弁に物語っている」という主張で締めくくっています。
3月に開催された全人代では、習近平政権は「宗教の中国化」を掲げて、すべての宗教を共産党指導下に置いて統制を強化する方針を打ち出しています。一方、国連などは、中国政府によるウイグル族らイスラム教徒100万人以上の強制収容を問題視していますが、中国政府は「あくまで職業訓練のため」と強制収容を否定してきました。
しかし、先の社説では、西側の「自由」「民主主義」を否定し、自分たちの宗教統制の正しさを強調しているわけですから、ウイグル族の強制収容が事実であることを、はしなくも暴露してしまったわけです。
強制収容されたウイグル族については、無理やり移植用臓器の提供者にさせられたり、そのために処刑されているという噂が絶えません。
中国政府は宗教の過激主義を抑え込んでいると胸を張りますが、しかし、中国では反政府デモや暴動が年間20万件も起こっているとされています。かつては中国政府も件数を発表していましたが、あまりに暴動件数が増加したために、途中から発表をやめてしまいました。
たとえば中国政府が2005年に発表した社会白書では、1993~2000年の間でデモや暴動などの群衆事件の発生件数が1万件から6万件にまで増加したと指摘しています。その増加スピードからして、現在は20万件近くの群衆事件が発生していると推測されています。
イスラム教徒を次々と強制収容して反政府活動を抑え込んでいるわけですが、別の形での反政府活動が相変わらず噴出しているわけです。もっとも、共産党一党独裁で民意を問うシステムのない中国では、民衆統制の手段は弾圧しかありません。民意を問う民主主義を導入した途端、共産党独裁は終わり、体制が崩壊してしまうからです。
中国では、国家分裂扇動もテロと同様とみなしています。2005年には反国家分裂法が制定され、「台湾独立」の主張をすれば、摘発されることになりました。習近平政権になってからは、最高人民法院が国家分裂扇動をテロと同様に厳重に処罰すると表明しました。
つまり、中国にとって台湾独立派は重犯罪者なのです。万が一、中国が台湾を「平和的統一」した場合、台湾独立派や反中国派がどのような運命を辿るか、容易に想像がつきます。
ウイグル人と同じ強制収容、再教育、さらには臓器提供が待ち受けているわけです。そのことがわかっているため、台湾ではウイグル問題についての報道がさかんに行われていますし、習近平が主張する「一国二制度」も、台湾人はまったく信じていません。
先の環球時報の社説についても、反中国色の強い自由時報は「《環時》:中國成功抑制宗教極端主義不必理會西方標籤(『環球時報』:中国は宗教の過激主義の抑制に成功西側諸国のレッテル貼りを気にする必要なし)」と、環球時報の報道を批判的に報じています。
日本人にはなかなか理解できないと思いますが、中国に併呑される危険性を抱えた国・地域は、人権消滅・民族浄化と隣合わせであり、その危機感は非常に大きいものです。日本に関しても、中国は最近、一部の学者に「琉球回収」を主張させるように仕向けており、いずれ「沖縄返還」を公言するようになる可能性が高いでしょう。
たしかにイスラム過激派によるテロは許せるものではありません。しかし、それに乗じて少数民族弾圧を正当化する中国のやり方には警戒が必要です。かつて9.11アメリカ同時多発テロ事件が起こった際も、中国政府は「テロ取り締まり」をお題目にチベットやウイグルへの弾圧を正当化しました。
とくに習近平政権は、大躍進政策や文化大革命など、多くの犠牲者を出した毛沢東時代への回帰を目指しています。私が米中貿易戦争を「自由」と「統制」、「民主主義」と「独裁」の対決だと考えているのはそのためであり、人類の未来を大きく左右する問題です。
現在の中国の政治は、20世紀初頭に康有為らが提唱した「中華民族」という幻の民族を無理やり錬成するために、チベット人への愛国教育、ウイグル人の強制収容、モンゴル人の種の絶滅を仕掛けながら、「中華民族」への加入を強制しています。
しかし、血縁的な種族とは異なり、近代的な「民族」とは、心理的・主観的なものであっても、強制や恫喝によって形成されるものではありません。改造やマインドコントロールで無理やり同化するよりも、魅力ある文化を創出して引き付けることが肝要なのです。
中国が力によって異民族を同化させようとしていることは、逆説的にいえば、まったく魅力的な文明・文化がないということでもあります。だから民族主義を鼓舞するしかないのです。
経済的にも中国の凋落が始まっていますが、そのソフトパワーはますます低落していくでしょう。
imageby: Flickr
※ 本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2019年4月23日号の一部抜粋です。初月無料の定期購読のほか、1ヶ月単位でバックナンバーをご購入いただけます(1ヶ月分:税込648円)。
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